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『サンタクロースっているんでしょうか?』に答えるその日まで

12月に入って、家のクリスマスツリーを出した。

わが家は、ツリーに飾るオーナメントを、毎年子供たちが一つずつ選び、買い足している。赤に、緑に、ゴールド、色がさざめく売り場で、どれを買おうか悩む子供達。

その様子を見ている時間は、年末に向かい急ぎ足で時が過ぎていく中、心緩む瞬間となっている。

今年は、半透明の小さなビーズで形作られた雪の結晶と、木でできた小人みたいなサンタクロース。
買ってきたばかりのその子達を、玄関に置いた大きなツリーに飾る。BGMには、キッズ向けクリスマスソング集をSpotifyで。気分は一気に華やぐ。




そんな中で、娘が言う。

「サンタはどうやって、プレゼントを運ぶんだろう」

私はドキリとする。
小学一年生の娘。いろいろなことを順序立てて考えられるようになってきている。真相を掴む日も、近いだろう。

一方で、私はその日を一日でも先延ばしにしていたい。
会ったことのないサンタクロースという人物を待ち侘び、想像を沢山膨らませて、朝起きた時にプレゼントを見つけて、目をキラキラ輝かせる。あの瞬間を一度でも多く見ていたい。その為に、まだ彼女に真実を伝えないでいる。

親になって良かったことの一つは、子供の頃の幸せだった小さな思い出達をもう一度、一つ一つ胸ポケットから取り出し、違う角度から眺めて見られることだと思っている。

だから、クリスマスの朝、目覚めたあの瞬間は、子供達も待ちに待ったものだろうけど、親である私にとって、人生の最後に振り返りたいほど、昔の幸せと今の幸せを、ギュッと握り合わせたような大事な瞬間なんだ。
どうか真実を教えたり、自分の都合で教えなかったりする、勝手な私を許してほしい。


代わりに、息子が答える。
「トナカイさんに乗ったサンタが、エントツから入ってくるんだよ。」

絵本で読んだよ、ふふんと誇らしげだ。

「でも、うちにエントツはないでしょう?」

「じゃあ、窓をちょっと開けておかないとね」

「去年は窓を開けていなかったけど、プレゼントは置いてあった。もしかしたら…
サンタさんは、壁を通り抜けられるのかもしれないっ!」

「そうかも!」

「それか、ハリーポッターの魔法使いみたいに、“姿現し”が出来るのかなぁ。“姿現し”はマグルがいないところでしか出来ないから、出来ないところでは、ソリに乗ってくるのかなぁ」

「もしかしたら、プレゼントに命令すると勝手にプレゼントが動き出すのかもよ!ちゃんと自分たちで、子供達の家に行くのかも!」

議論は白熱している。
子供達の顔は、真剣そのものだ。

私は微笑ましい。
今年もまだ、信じてくれている。
ホッと胸を撫で下ろす。





私が娘くらいの頃、
父は私にこの本を渡してくれたことを思い出す。

そろそろもう、「サンタクロースはいないんだろうなぁ」と、口には出さないけれど、心のどこかで思っていた頃だった。両親に聞くのも気が引ける。それに、口に出してしまうと、すごく悲しい気持ちになって、もうクリスマスは楽しめないような気さえしていた。

この本を読んで、私の気持ちは救われたと思う。

この世の中に、愛や、人への思いやりや、真心があるのと同じように、サンタクロースも確かにいるのです

信頼と想像力と詩と愛とロマンスだけが、そのカーテンを一時引きのけて、幕の向こうの、譬えようもなく美しく、輝かしいものを、見せてくれるのです。

『サンタクロースっているんでしょうか?』より引用

読んだ時には、まだ深いところまでよく分からなかったけれど、実際サンタがいるかいないかは、どちらでもいいか。どちらにしても、クリスマスは楽しいものだし、サンタクロースがいることを想像するのも楽しい時間だ、と。そんな風に気持ちが柔らかくなるのを感じた。

少しでも娘が気にし始めたら、実家に置いてあるこの本を、手渡そうと思っている。
「お母さんも昔読んだ本だよ」と伝えて。

今年は、いることを信じて疑わずに過ごしてくれる最後の年になるのかもしれない。

噛み締めながら過ごそうと思う。

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