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おっちゃんのサッカー盤

叔父さんは、
私が生まれた時、まだ10代だった。

私たち姉弟は、叔父さんのことを
「おっちゃん」と、親しみを込めて呼んだ。

若きおっちゃんが
どんな気持ちだったか分からないが、
思い出すおっちゃんはいつも頬を上げて、楽しそうに笑っている。




背が高くて力持ちで、サッカーが上手で、
たくさん遊んでくれたおっちゃんが、
私は大好きだった。





おっちゃんは、とても可愛い奥さんと結婚した。

結婚後に、祖父母とおっちゃん夫婦と一緒に、
旅行に行く機会があった。

私は、奥さんを差し置いて、おっちゃんと手を繋いで歩き、
奥さんに対してちょっとした優越感にひたる、
嫌な感じの女の子になる。くらいに大好きだった。



私が小学生になって土日が休み、
おっちゃんは土日仕事で、なかなか会えなくなった。

おっちゃんは、
一緒に遊ぶ代わりに、と、
私たち姉弟にボードゲームを買ってくれた。
こういういわゆる「サッカー盤」だ。


良かったのは、
「相手のゴールに入れればOK」と、ルールがシンプルなところ。
文字が読めなくても、大丈夫。
お金の計算ができなくても、問題無い。

まだ幼稚園児だった弟も、小学生だった私も、対等に戦えた。


それでいて、
操る選手につながる棒を選び、
右手・左手をそれぞれ前後に動かし、
くるりと捻りを加え、ボールを操る。
なかなかギミックが効いている。

毎日、帰ってきてランドセルを放り出し、
「遊ぼう!」と、弟を誘った。





そうして、
負けては泣いた。

弟のほうが、運動神経がよかった。

昔から寝言をよく言う私は、
このサッカー盤のせいで、何度となく、
自分の寝言に起こされた。
たいていは夢の中で、負けて悔しがって、怒っていた。



弟は、小学生になると、
サッカーを習った。
おそらくこのサッカー盤から、興味を持ったのだと思う。

ポジションはキーパー。

そういえば、
弟は、サッカー版のキーパーを高速で左右に振って、
ゴールを防御するのが、上手かった。



去年、おうち時間が続いた中で、
何か姉弟で遊んでくれるものを、と、
このサッカー盤の存在を思い出した。

残念ながら、実家に当時使っていたサッカー盤はもうないらしい。
その話をしたら、両親が贈ってくれた。面目ない。

遊ぶ度に、じーじばーばの顔を思い出してくれたら。
私は遊んでる二人を眺めて、
おっちゃんの顔も時々思い出すだろう。




買って以来、息子は、帰ってくると、
お母さん、サッカー(盤)しよう!」と誘う。
一方、娘は、ソファで本を読んでいる。

・・・親の思うようにはいかないものだ。

今日も私は声をあげ、
息子と決死の闘いを繰り広げている。

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