見出し画像

鎌倉・長谷で煩悩とあいまみえる 主婦のひとり旅

洗顔の水音と、蛇口を閉める音が、
宿の部屋に響きます。

こんなに静かな朝は、いつ以来だろう。

おのずと自分の動作を見つめ、一つ一つが丁寧になります。跳ねた水滴は、すべて綺麗に拭きたくなります。



よく眠れました。
この夏一番、すっきりと。

いつもは、夏になると寝相の悪くなる娘の手に何度も起こされ、喘息持ちの息子の咳で目覚めることも多いのが、今日は一人きり。前日、スマホ断ちしていたおかげもあるかもしれません。



時刻は8時すぎ。
宿主に挨拶をして、外へモーニングに出掛けます。

訪れたのは、café recette 鎌倉
食パン専門店のパンが食べられる古民家カフェです。

画像3

こちらのお店も、土間玄関で靴を脱ぎます。

2年ほど前に伺ったことがあるのですが、今この時期にも変わらず、朝早くから開いていて嬉しく思いました。靴下になって一歩入ると、祖母の家に来たような安心感があります。

高い天井と、木製の古い梁。
リンリーンと軒先で、風鈴の澄んだ音が聞こえます。

ここでも、お客さんは私だけでした。


シンプルなトーストを注文します。

お腹をいっぱいにしすぎるのは良くありません。年齢のせいか、いつまでも消化されず胃に留まってしまいます。
少し前までは、旅先では「せっかくだから、あれもこれも」と一度に食べすぎていましたが、欲張らない方が体調がよく、その後元気に動けると、ちゃんと分かってきました。

でもやっぱり、フレンチトーストやモーニングプレートも美味しそう。…がまんがまん。

画像1

いい焼き具合。

この木製のプレートも好きです。
ゆっくり食べていても、いつまでもトーストが温かい。コーヒーを飲みながらトーストをかじっている時間が、最後まで豊かになりそうです。石板の回りの木が使うほどに、良い味わいにもなりそうです。

トーストをざくっと噛むと、意外と弾力があります。噛むほどに小麦の甘みを感じます。この後のことをぼーっと考えながら、口と顎だけしっかり動かします。

ひとりの朝時間、ゆっくりさせて頂きました。



食べ終えると、また海に寄りました。

台風が西の方にいたので、雲が迫ってきていて、波は少し高いです。
空気は蒸しているけれど、海に来ると深呼吸したくなります。深呼吸するほどに、海と空は大きく、自分は小さくなっていく気がします。

画像3



山の方へ向き直り、次は長谷寺へ向かいます。

画像4


せっかくだから、とことん静かに過ごそう、と写経をやってみることにしました。

画像5

長谷寺は紫陽花を見にきたことがありますが、写経は初めてです。長谷寺入園後、右手に進むと写経場がありました。

受付で、写経か写仏かを選びます。
写仏は、仏様の姿形を描き写すというもの。私は、文字を書きたかったので、写経にしました。写経は、お経で最も短いと言われている『般若心経』を写します。

普段は、筆と墨の貸出もあるみたいですが、今は感染症対策で筆ペンのみでした。
墨の香りもきっと趣があると思いますが、初心者には筆ペンでも不足無しです。




部屋の引き戸を開くと、先に一名だけいらっしゃいました。入ってきたこちらには、目もくれず黙々と書き進めていらっしゃいます。

「おぉ、かっこいい、まさに私が求めていた写経。」

と、1人興奮してしまいます。煩悩を払うために来たのに、もう既にこれが煩悩です。
そもそも写経をやってみた理由も、

「マインドフルネスで、心が整いそう!」

と、なんとも今風で軽薄でした。般若心経の内容も知らずに、挑みました。



そのせいでしょうか。
文字を書くごとに、煩悩の一つ一つをリセットしてくれるいうイメージだった写経。むしろ私の場合は、煩悩が浮かび上がってくるようでした。

「ぐっ、めっちゃ太くてお手本からはみ出してる。こんなのじゃあ、絶対SNSには上げれないな。写真撮影不可だけど」

「汗、全然乾かない。こんなに涼しい部屋なのに。やっぱり最近太り過ぎかな」

「願い事を心に浮かべながら書いてくださいって言われたけど、何にしよう。もう書き始めてしまったわ。コロナが早く収束しますように、かな。それとも家族の健康かな、それともnoteを続けられますようにかな…」

元来、せっかちで複数の作業を並行してやりがちな私。ドリップコーヒーを淹れても、お湯が落ちるのが待てなくて、落ちるまでのすきま時間にコンロの掃除をしてしまうような私。

文字を書いただけで、すっと煩悩が消えるなんて、そんな都合の良いことは、ありませんでした。
書くごとに浮かんでくる煩悩を、浮かんでは打ち消し、浮かんでは打ち消し、しているうちに、最後の文字になっていました。



こんなはずではなかったのに。
と思いながら、最後の願意の欄に「心身健康」と書きました。
この時も、心身だっけ?身心だっけ!?と、漢字を間違って願いがお釈迦さまに届かないのでは、と焦り。
最後まで、欲と煩悩だらけでした。

画像6


雨が降り出しそうだったので、長谷寺境内の散歩もほどほどに、ホテルに急いで帰りました。
宿主に、気持ちよく過ごせたお礼と、また来ますと挨拶をして、おいとまします。



ちょうどお昼時。
いつもは並んでいるしらすカフェ鎌倉甚平を覗くと、またまた客が1人もいなかったのでしらす丼をさっと食べました。柚子胡椒としらすの相性最高。

画像7



帰路につく電車の中で、
スマホを手に、般若心経のお経の意味を調べてみてました。そこで、

「あぁ、今回私が写経した意味は少しはあったな」

と思いました。
これまでただの呪文だったお経ですが、意味を知って、今の自分に残るものがありました。

最後に「般若心経新訳」を、載せておきます。
すごいロックで分かりやすいので。
読んでくださる方の心に少しでも響けば幸いです。


『般若心経 新訳』

超スゲェ楽になれる方法を知りたいか?
誰でも幸せに生きる方法のヒントだ
もっと力を抜いて楽になるんだ。
苦しみも辛さも全てはいい加減な幻さ、安心しろよ。

この世は空しいモンだ、
痛みも悲しみも最初から空っぽなのさ。
この世は変わり行くモンだ。
苦を楽に変える事だって出来る。
汚れることもありゃ背負い込む事だってある
だから抱え込んだモンを捨てちまう事も出来るはずだ。

この世がどれだけいい加減か分ったか?
苦しみとか病とか、そんなモンにこだわるなよ。

見えてるものにこだわるな。
聞こえるものにしがみつくな。

味や香りなんて人それぞれだろ?
何のアテにもなりゃしない。

揺らぐ心にこだわっちゃダメさ。
それが『無』ってやつさ。
生きてりゃ色々あるさ。
辛いモノを見ないようにするのは難しい。
でも、そんなもんその場に置いていけよ。

先の事は誰にも見えねぇ。
無理して照らそうとしなくていいのさ。
見えない事を愉しめばいいだろ。
それが生きてる実感ってヤツなんだよ。
正しく生きるのは確かに難しいかもな。
でも、明るく生きるのは誰にだって出来るんだよ。

菩薩として生きるコツがあるんだ、苦しんで生きる必要なんてねえよ。
愉しんで生きる菩薩になれよ。
全く恐れを知らなくなったらロクな事にならねえけどな
適度な恐怖だって生きていくのに役立つモンさ。

勘違いするなよ。
非情になれって言ってるんじゃねえ。
夢や空想や慈悲の心を忘れるな、
それができりゃ涅槃はどこにだってある。

生き方は何も変わらねえ、ただ受け止め方が変わるのさ。
心の余裕を持てば誰でもブッダになれるんだぜ。

この般若を覚えとけ。短い言葉だ。

意味なんて知らなくていい、細けぇことはいいんだよ。
苦しみが小さくなったらそれで上等だろ。
嘘もデタラメも全て認めちまえば苦しみは無くなる、そういうモンなのさ。
今までの前置きは全部忘れても良いぜ。
でも、これだけは覚えとけ。

気が向いたら呟いてみろ。
心の中で唱えるだけでもいいんだぜ。

いいか、耳かっぽじってよく聞けよ?

『唱えよ、心は消え、魂は静まり、全ては此処にあり、全てを越えたものなり。』
『悟りはその時叶うだろう。全てはこの真言に成就する。』

心配すんな。大丈夫だ。


主婦のひとり旅シリーズ終わりになります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。




※こちら、本記事の前の記事です。



読んでくださり、ありがとうございます! いただいたサポートは、次の創作のパワーにしたいと思います。