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「鎌倉殿」へ導いてくれたファンタジー連作を語る 1



「鎌倉殿の13人」にからめて荻原規子おぎわらのりこの長編ファンタジー「風神秘抄ふうじんひしょう」と「あまねく神竜住まう国」、そして勾玉三部作への愛を綴る。

その1回目(えっ何回もやる気?)


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大河ドラマ「鎌倉殿の13人」がこのところ凄みを増して佳境だ。
だが、私は元々その時代の歴史があまり得意ではなかった。

私の日本史の基礎は全部山岸涼子の「日出処の天子」で出来ている。
だから上古については変な細部まで偏ってやたら詳しく、平安時代はまあ雅やかで十二単のお姫様だし、女子トークの名手清少納言のようなお姉さまもいて、好きだ。

鎌倉時代にも鴨長明や兼好法師らの随筆がありそれは好きなのだけれど、貴族の世から武士の支配へと移り変わるちょうど今大河でやっているような所やそれ以後は、基本的な知識が虫食い的にあるだけで、歴史の流れ、ストーリーとして興味がなかった。

大河ドラマもあまり見ない。たまにキャストや脚本家で興味がわいたり、「篤姫」(古いかな?)などは途中ちょっと面白そうなところだけつまみ食いしたりしていた。

しかし2012年の大河ドラマ「平清盛」にはものすごくはまった。
「鎌倉殿の13人」に直接続く時代、平安末期に平家が武士として初めて政権を握り、頂点へと上り詰めていくお話。
その中には、頼朝の父源義朝(玉木宏)も清盛のさわやか友達&ライバルとして登場していたし、頼朝は岡田将生で政子は杏ちゃんだった。

なぜちんぷんかんぷんだったその時代のドラマにはまったのか。

それは荻原規子のファンタジー「風神秘抄」のお陰だし、その続編「あまねく神竜住まう国」は、少年頼朝が伊豆で自分に生きるのを許すことができるようになるまでを描き、「鎌倉殿」の前日譚として読める。

まず「風神秘抄」のあらまし。

少年の孤独な笛が舞姫の舞に出会うとき 天の門が開き天界の花が降る 人の命と未来が変わる…

「風神秘抄」帯より

孤独な笛吹きと 天性の舞姫 そして鳥の王… 争う武士の世に咲いた 運命的な恋を描く 異色のファンタジー!

同じく帯より

…歴史への入口として荻原規子のファンタジーを語ってきたが、帯にあるように、物語の最も太い縦糸は笛吹きと舞姫の恋

荻原規子は、日本の神話や歴史を本当に優れたファンタジーに落とし込み、いつもうっとりしてしまうのだけれど、とりわけ少女の恋心、ひたむきさを描くのが上手で、胸がキュンキュンしてしまう。
いくつものファンタジーの中でヒロインの少女たちが運命の相手にぶつける言葉は、何度読んでも「よい!」 むうぅ(唸る)。
そして荻原規子は「物語は長ければ長いほど良い」という考えの持ち主で、激しく賛同したいw

そう、これは私の荻原規子のファンタジーへの偏愛の記事でもある。

「風神秘抄」のあらすじに戻ろう。少し長くなる。

主人公草十郎そうじゅうろうは十六歳の坂東ばんどうの若者。本家の兄と共に、源氏の郎党として源義朝よしともの長男・義平よしひらに従い、平治の乱に参加する。その生まれから笛だけを友とし、誰にも心を開けなかった草十郎だが、義平の人柄に惹かれていく。
しかし源氏は敗れ、都落ちの途中はぐれてしまった少年頼朝を助けた草十郎は、代わりに落ち武者狩りの一団に捉えられる。

  • 草十郎は元服してからの名を足立十郎遠光あだちのじゅうろうとおみつと言い、兄の足立四郎遠元あだちのしろうとおもとは「鎌倉殿の13人」にも登場する。生き延びたのね。
    この話に登場する源頼朝はまだわずか13歳、義朝の三男。

自分を捉えた一団の元に留まった草十郎は、都で義平の首がさらされたことを自分の眼で確かめるべく再び京に上り、現実を目の当たりにして呆然とする。そして義平が打首にされたという六条河原で一人の遊芸人の少女が死者のために舞うのを見る。

出会ってしまった運命の二人。
二人の笛と舞は常ならぬ力を持ち、それは捕らえられやがて斬首されるはずの頼朝少年の運命を変え、さらには二人の力を最も理解する芸能狂いの上皇後白河に乞われ、その寿命を延ばすための舞を舞うのだが・・・
頼朝の助命は二人が望んで行ったこと、しかしそれはやはり人知を超えた力、封印しようと決意する二人。だが自分たちの力を権力に絡め取られぬよう解放の交換条件として舞った後白河のための舞と笛は、二人に悲劇をもたらす。


ボーイミーツガールのお話である。

もう、ストーリー自体が面白すぎて、とても長い物語だが何度読んでも一気だ。
それだけで、十分歴史に興味を持つきっかけにはなるのだけれど、特に心惹かれるのが後白河法皇。

「平清盛」では松田翔太が演じ(よき~♡)、「鎌倉殿の13人」ではそのイメージ通り化け物じみて西田敏行が怪演している。先日は大河の中で彼のことを主人公義時が「日本ひのもと一の大天狗」と呼んだ。ちなみに「平清盛」では、すべての元凶ともいえる後白河の祖父(あるいは父)白河法皇を、伊東四朗が演じてやはり大妖怪、すごかった。
白川院の息子であり一応後白河の父鳥羽上皇(三上博史)も、後に怨霊となる崇徳院(井浦新)も、鳥羽院の妻でありながらその父白川の寵愛を受ける璋子(檀れい)も同じく鳥羽院の皇后得子(松雪泰子)も、みんなみんな人間臭くてとても好きだった。

脱線!
大河ドラマ「平清盛」は、視聴率的には不評だったけれど私は大好きだった。リアルな平安末期の荒れ果てた雰囲気が、知ってるわけではないけれどきっとこんなだっただろうと感じられるところや、登場人物の人間臭さなど。
当時ご当地兵庫県の知事さんは「画面が汚い」と宣ったそうだが( ̄3 ̄)

宮中政治の汚さ、政略結婚当たり前というステレオタイプのイメージ、美しい息子の妻をお父さんが気に入って自分のものにしちゃうとかドロドロに対する下世話な興味もあったし、当時の権力者は普通に平気でそんなことをしていたと思っていたが、その愛情や苦しみが、私には十分美しい映像とともに余すところなく描かれ、初めて、民衆を虫けらのように扱う印象の宮中の人々を、同じ心を持つ人間なのだとリアルに捉えられた。

さらに脱線して、「平清盛」の中で最も好きだったのは、佐藤二朗演じる藤原家成。平家につながる下級貴族だ。ああ画像を載せたいw
存在感が抜群。あれから10年、ますます存在感を増しているが佐藤二朗の主演するマメシバシリーズ、特に2作目の「マメシバ一郎」(2011年)は激押しである。


脱線から戻る。
「風神秘抄」の話だ後白河だ。

特に印象に残った場面。

糸世の舞と草十郎の笛が頼朝の運命を変えた場面で、草十郎には光で編まれたように見える頼朝の運命は、糸世の舞と彼の笛で解きほぐされ、健やかに長く、勢いよく坂東に向かって伸びていく。
だがだが、同じことを後白河のために行った時の様子が、すごいのだ。
陰陽師に余命4、5年と言われた後白河。頼朝よりずっと強固でほぐれなかった後白河の光の束は、いったんほぐれだすと頼朝の比でなく激しく動き、頼朝の時のように健やかに、植物が伸びるようには成長しなかった。
触手のようなそれはまわりに手を広げ、手近な別の光を吸収し始める。
自分の皇子たちの寿命を喰らい、国土全体にその影響力を広げ、やがて一度は救った辺境伊豆にある頼朝の運命も、坂東の地も、二十年後に起こる戦となって巻き込んでいく…
きっも!

いかがか、この化け物じみた御仁は。
その禍々しさと、それだけでは言い切れぬ何かに心惹かれてしまうのだ。
その出生から誰にも愛されず期待されず、今様いまようだけを友に生き、周囲の都合で突然全権力を手にしてしまった後白河院。

後白河は草十郎に「何の権力ともかかわらず、今様だけに身をささげていたころはそれを通じて世の中の動きが手に取るように見えた。何の拍子か自分の方に権力が転がってくるのもわかった。権力の中に身を置くとそれが出来なくなる。自分は既に失くしたが芸能にはそういう力がある。草十郎の笛を真に理解できるのは我を於いて他にない」というようなことを言い、草十郎は心を乱される。

結局後白河の言葉に乗せられた草十郎だが、舞の最中に見えたあまりの光景に衝撃を受け、一瞬笛をとぎらせてしまい糸世を失う。
この世ではない天の門を開いている最中の出来事、糸世もまたこの世ではない異世界に飛ばされてしまうのだ。

ボーイミーツガールの物語である。
頑張れ草十郎。


さて、帯に書かれていながら今まで触れなかった大事な登場人物(?)鳥の王、その名も鳥彦王(カラス)について少し触れよう。

鳥彦王は、物語のきっかけとなった平治の乱の原因を、源氏の立場から一面的にしかものを捉えていなかった草十郎に「京の上皇が、おす同士なのにいけない寵愛をするから増長した藤原信頼って人間が…」と、語るようなヤツだ。

おいカラスw

この鳥彦王、彼がいてくれるお陰で草十郎は全くの孤独にならずに済み、物語も暗さに沈まずにいられるとてもいいキャラなのだ。
あと糸世の勢い。

人に心を開けない孤独な草十郎は人の中で笛を吹けない。人気のないところで草木や獣、鳥たちと感応し合う笛なのだ。
そんな草十郎だから、鳥彦王も言葉を交わせる。
鳥彦王は鳥の王。全ての鳥を統べ、日本中どこの出来事でも知ることができるし人の言葉も分かるのだが、鳥彦王の言葉を聴けるのは、孤独だが自然と感応する笛を吹く草十郎だけだ。

鳥彦王と心を通わせる草十郎もまた「鳥の王」の称号を得る。
その力、つまり情報の力を使えば京のどんな権力者もかなわない力を持つ。
鳥彦王は草十郎に「そうなってしまえ」と言うのだが、すでに糸世と出会ってしまった草十郎は彼女と二人、人の世で生きていくことを決意している。

鳥彦王と草十郎の、なんともユーモラスなやり取りが物語の横糸ならば、彼らの関係がやがてどうなっていくのかは大事な縦糸の一つだ。


この草十郎こと足立十郎遠光、そして鳥彦王は、実は勾玉三部作から緩やかにつながっている。

鳥彦王は1作目の「空色勾玉」に最初は人間の子供として登場するし、3作目の「薄紅天女」の主人公は、坂東の足立姓の若者だ。

空色勾玉そらいろまがたま」…イザナギ、イザナミ、アマテラスをモチーフにしたガールミーツボーイの物語。
白鳥異伝はくちょういでん」…ヤマトタケルノミコトをモチーフにしたガールミーツボーイの物語。
薄紅天女うすべにてんにょ」…平安京遷都直前の物語。神話から歴史の時代に入ってのボーイミーツガール。

女神イザナミの胸を飾っていた勾玉の首飾りが、緩やかに3つの物語をつないでいく『勾玉三部作』

最初にも書いたが、どれも日本の神話や歴史を見事にハイファンタジーの世界に落とし込んであり、しかも少女のひたむきな恋を描いて胸キュンかつ重厚。
あと、物語の最後の舞台の熊野、舞とくれば、同じ作者の大作「RDG レッドデータガール」にもつながる。

そんなこんなの荻原規子への愛や、続編「あまねく竜神住まう国」のことや、書ききれないことがたくさんで次回に続く。

4500字ですってよ奥さん!

お読みいただきありがとうございました。 



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