我、アプリの美顔加工なるものを初体験す【そして加工に左右されない顔貌を身近に発見】

このところまったく新しい分野に関心を抱いており、今まで身につけることを予想だにしなかった知識を学びもしている。
その一環として、私はこれまでほとんどスマホでアプリをダウンロードすることがなかったのだが(初期設定で入っていたもので大体間に合う。というか余ってる)、最近はその新しい関心に沿って試用したいアプリを複数スマホに入れたりし始めた。

え、今どき、そのレベルでアプリの話始めちゃう? と思ったあなた。
私は数年前までガラケーを好み、本体が壊れてしまうまで手放したくなかった人間だ(2020年1月の連載、「ガラケー家族がスマホにしたら」シリーズ1話2話3話を参照)。
スマホを使うようになってから自ら入れて愛用しているアプリは既存のキーボードやブラウザに不満を持って入れた他社製アプリ程度で、元から仕事をパソコンで行うこともあり、スマホ自体のヘビーユーザーではない。

それはともかく、そんな流れで私はとある撮影アプリを入れた。なんでも、食べ物をおいしそうにいきいきと撮ることができるアプリで、風景や人物にもその効果は適用されるのだそうだ。たくさんの種類のフィルターがあり、適用すると色みや明るさなどのバランスが変化する。
その某アプリは今は人物向けの「エフェクト」機能もついていることがわかった。そこには「美肌」「小顔」「デカ目」「鼻痩せ」という四つの項目があったのである。

さほど写真を撮ることはない日常を過ごしていて、まず自撮りもしない私はこのアプリによって美顔加工というものに初めてお目にかかった。
一体どのくらい変化するものなのだろう?
インカメで自分を映してみる。

この時点ですでに、画面に映る自分が通常のスマホカメラで映したときよりもきれいなことに驚く。
各々のエフェクトを、せっかくだから違いがはっきりわかるように値を最大にしてみる。
ひとつずつのエフェクトを順に試した後に、全部をあわせて最大値でオンにしてみた。すると……。

画面には、メルヘンの国の住人みたいな顔が映っていた。
え……わたし、かわいい?

ひとつひとつのエフェクトへの感想を述べよう。
「美肌」エフェクトを最大にすると、顔の自然なしわや凹凸もすべて消え、つるっとした作りものの人形、もしくはバーチャル人間のような肌になる。
「小顔」を最大にすると、あごがきゅっと小さくなり、さながら「グレイ」タイプの宇宙人のようだ。
「デカ目」は、黒目が際立って大きくなり、やはりこれも「グレイ」タイプの宇宙人によく似ている。これから人間はこうなっていく、という示唆なのか。

なにより圧巻だったのは「鼻痩せ」だ。
最大値にしても一見自然というか……そのくせ、あれ、なんか美人になってる……?
ちょっといい気分。おおよそ自分の顔なのに、妙にきれいな気がする。
比較のために私は、エフェクトの値を0と100で極端に切り替え、往復させることもしてみた。すると!

なぜだろう。「鼻痩せ」の値を、100から0に戻すと、もっさりするのだ。
0こそが普段の自分の顔に戻るはずなのに……このもっさり感はどうした!?

……鼻が、悪さをしている?

そう思わずにはいられない違いを感じた。
翌日、私は、このエフェクトを家族にも試してみた。

まず、母を画面に映し、エフェクトをかけてみる。
母もこうした加工は初体験だ。やはり私と同じく、「私、かわいい!」と、初めて見る「加工済み」の姿にうきうきと高揚している。
そして母も、「鼻痩せ」の違いを一番大きく感じたようで、値を0に戻すと「鼻、目立つ!」と戸惑い出した。

そう、このようなアプリは、自分の顔への意識の基準を攪乱してしまうのかもしれない……。
もし、あまりに年若い段階からこうしたアプリで度々撮影し、加工した自分の顔をSNS等での定番にしてしまったら、そちらこそが自分の理想の顔だと思うようになり、普段の自分の顔に不満を抱くようになるのではあるまいか……と、私はちらりと心配してしまったほどだ。余計なお世話かもしれないが。

そんな風にきゃっきゃきゃっきゃと初めての美顔効果アプリ(厳密には美顔のためのアプリではないのだが)にはしゃぐ私たちを、父はなんだか楽しそうに見ていた。
母が「あなた、これ見て! 私きれいじゃない?」と、加工済みの自分の姿を父に披露までしていたので、私は同じその日の夜、夕食の最中の父のことも遊び心で撮影し、各エフェクトをかけて本人に見せてみたのである。

ところが……。

どうしたことだろう。
晩酌をしている父の顔は、「美肌」「小顔」「デカ目」「鼻痩せ」のどれも効かないのである。
そんなことってある!? 私はあせった。

いや、正確には効いている。ちゃんと加工されている。
それなのに、画面の中の父の顔の印象がちっとも変わらないのだ。

あんまり変わらない! なんで? なんで?
そう言いながら私は一押しの「鼻痩せ」加工を忙しく指でスライドし、0の値と100の値に切り替えながら父本人に示して見せた。
しかし、父の顔の印象は一定なのだ。

ややうれしそうに、ニコニコそれを眺める父。
私や母と同程度かそれ以上に父の鼻は存在感あるように思っていたのだが……鼻痩せ加工で印象が変わらないなんて、そんなことってあるのか!
美肌にしようが小顔にしようが黒目を大きくしようが、たいして変わらないってどういうことなのか。

加工にも影響されない顔貌というのがあるらしい。
これが今回の私の経験の中で、一番の衝撃であった。

なお、メルヘンの国の住人っぽいエフェクト顔はそれはそれでかわいかったが、私は陰影やしわがそのまま表現されている方が落ち着くし、個人的にはその方がどの人の顔も味わいがあると思っているので、遊び以外で今後使うことはないだろう。


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