たえこ

語学好き/ 海外文学好き / 2児の母 / 愛知県在住 / 読んだ本の感想 &…

たえこ

語学好き/ 海外文学好き / 2児の母 / 愛知県在住 / 読んだ本の感想 & フランスに住んでいた時の思い出を小説風に書いています [Instagram] https://www.instagram.com/taekosbookshelf/

マガジン

最近の記事

『べつの言葉で』 ジュンパ・ラヒリ著 中島浩郎訳

2021年に読んだ本の中で一番のお気に入り作品。そしておそらく今後ずっと大事に本棚に置いて、何度も読み返すことになる作品であること間違いありません。 家族とともにアメリカを離れローマに移住したラヒリが、言語学習に焦点を当てて、その途方もない学びの過程を、惚れ惚れする文章で綴った名作です。 「小さな湖を泳いで渡りたい。ほんとうに小さい湖なのだが、それでも向こう岸は遠すぎて、自分の力を超えているように思える。湖の真ん中あたりはとても深いことが分かっているし、泳げるとはいえ、何

    • 【第3話】着物

      (この作品は、実際に私が幼少期を過ごしたフランスでの思い出を、小説風にアレンジして書いたものです。) 学校にだいぶ慣れてきた頃、その後の人生ずっと記憶に残ることとなる大きな出来事が起こった。 学校に慣れてきたとはいえ、男性名詞と女性名詞によって使い分けなきゃいけない冠詞は相変わらずよく間違えるし、その度にクラスメートに注意されるし、ノリとでもいうのか、いまいち会話のテンポについていけていなかったわたしは、どこかで輪の中に入れていない感覚がいつまでもあった。それは一重に自分

      • 【第2話】現地校でパニック!

        (この作品は、実際に私が幼少期を過ごしたフランスでの思い出を、小説風にアレンジして書いたものです。) パリに引っ越してすぐ、マンションのすぐ隣にある小学校に入学した。 フランス語は全く出来ないレベル。初日、クラスのみんなの前に立って言えた言葉は"Bonjour"だけ。担任の先生が名前や日本から来たことなどを代わりに説明してくれた。 お母さんフランス人なのにどうして喋れなかったのかと聞けれることが多々ある。はい、喋れませんでした。なぜなら母とは四六時中、ずっと日本語だった

        • 【第1話】6歳の『わたし』フランスに到着

          (この作品は、実際に私が幼少期を過ごしたフランスでの思い出を、小説風にアレンジして書いたものです。) 1991年、1月20日。 荷物受け取り場のベルトコンベアーの前で、わたしはボーッと立ちすくしていた。長いフライトに疲れていたわたしには、一定のスピードで静かに回るベルトコンベアーを眺めるのがなんだか心地よかった。父は忙しく私たちのスーツケースを回収している。母はまだ幼い弟と一緒に近くのベンチに座っていた。大きなお腹を摩りながら、疲れた表情をしている。2人の妹は機内でゆっく

        『べつの言葉で』 ジュンパ・ラヒリ著 中島浩郎訳

        マガジン

        • ブックレビュー
          6本

        記事

          自己紹介

          noteを開設して数ヶ月経ちます。タイミングを逃してずるずる来てしまいましたが、一度しっかり自己紹介して、noteで書いていきたいことお伝えしたいと思い、この度自己紹介記事を書くことにしました。 たえこと言います。皆様はじめまして。 愛知県在住の会社員、2児の母です。愛知に住んで8年になります。 生まれは東京、育った場所はフランス(パリとレンヌ)、大分県、大学からまた東京、就職も東京でした。広島出身の主人と出会い、結婚を期に愛知県へ。6歳と3歳の子育てを楽しみながら夫婦

          自己紹介

          【村上春樹】物語は、人の意識がうまく読み取れない心の領域に光を当ててくれる

          物語は、僕らの意識がうまく読み取れない心の領域に、光を当ててくれます。言葉にならない僕らの心を、フィクションという形に変え、比喩的に浮かび上がらせる。それが、僕ら小説家がやろうとしていることです。[4月1日付:産経新記事(web版)より引用] 今年4月1日に村上春樹氏が早稲田大学の入学式で新入生に捧げた祝辞の一部です。 「それは例えばこういうことなんだよ」というのが小説の役割。回りくどいため、小説は直接的には社会の役に立たない。でも小説がなかったら、社会は健やかに前には進

          【村上春樹】物語は、人の意識がうまく読み取れない心の領域に光を当ててくれる

          【洋書】La Tresse / 三つ編み〜逞しい3人の女性の姿が眩しい〜

          原題: La Tresse 邦題: 三つ編み 《あらすじ》 3つの国で、異なる境遇に置かれた3人の女性。それぞれ理不尽で困難な状況に勇敢に立ち向かう。 インド人のスミタは、娘に自分と同じ仕事をさせたくない一心で、彼女をなんとか学校に通わせようと力を尽くす。イタリアでは家族経営の会社で働くジュリアが、父の事故を機に、自分が倒産寸前の親の会社をなんとかしようと奮闘。そしてシングルマザーのカナダ人弁護士のサラ。弁護士としての地位を築き上げ、更なる高みを目指そうとした矢先に乳癌の

          【洋書】La Tresse / 三つ編み〜逞しい3人の女性の姿が眩しい〜

          【洋書】Klara and The Sun by Kazuo Ishiguro/クララとお日さま〜未踏の部屋(人の心)は絶対残る?〜

          邦題: クララとお日さま 著者: カズオ・イシグロ 《あらすじ》 主人公クララは、人工知能を搭載したAIで、子どもの親友になる為に作られたロボット(Artificial Friend, AF)。お店のショーケースに並べられ、いつか誰かが買ってくれるのを待っていた。そこでジョジーという名前の少女と運命的な出会いをして、一緒に暮らすことになる。やがてジョジーの家族の大きな秘密を知り、クララはある決断をする。 《感想》 AIと聞いて、無機質で冷たい話し方、考え方をする主人公かと

          【洋書】Klara and The Sun by Kazuo Ishiguro/クララとお日さま〜未踏の部屋(人の心)は絶対残る?〜

          【洋書】When Breath Becomes Air/いま、希望を語ろう〜意義のある生き方、意義ある時間〜

          邦題: いま、希望を語ろう 著者: ポール・カラニシ 末期癌に侵されながら懸命に生きた1人の医師の強さが、闘い抜いた姿が、心に焼き付きました。 最期まで彼を側で支え続けた妻のLucy。癌宣告を受けた後、それでも子どもを望み、生まれた娘のCady。 私だったらどうしただろう。 何を望んだだろう… Paulが娘に残した言葉と、Lucyが書いたエピローグがたまません。 如何に自分らしく、意義ある人生を送れるか。 スティーブ・ジョブズのスピーチを思い出します。『もし今日

          【洋書】When Breath Becomes Air/いま、希望を語ろう〜意義のある生き方、意義ある時間〜

          【洋書】Interpreter of Maladies/停電の夜に〜切り上げ方に思わず唸った美しい作品〜

          邦題: 停電の夜に 著者: ジュンパ・ラヒリ ジュンパ・ラヒリのデビュー作でピューリッツァー賞受賞作品。9つのストーリーが収められた短編集。 ラヒリの文章は毎回惚れ惚れします。まるで川の流れのように心地よくて、終わってしまうのがもったいくらい。しばらく余韻に浸りたい気持ちになります。 心に沁みる表現で溢れていて、この作品ではとくにキャラクターの心情描写が秀逸です。人間の繊細な気持ちが、静かに、でも確実に、心に響いてきます。各ストーリーの切り上げ方も見事。含みをもたせたり

          【洋書】Interpreter of Maladies/停電の夜に〜切り上げ方に思わず唸った美しい作品〜

          【洋書】The Katharina Code/カタリーナコード〜北欧の雰囲気漂う極上のHuman-drivenミステリー〜

          邦題: カタリーナコード 著者: ヨルン・リーエル・ホルスト 《あらすじ》 舞台はノルウェー。Wisting警部は24年前に失踪したKatharinaの事件を解決できないままだった。Wistingは毎年、事件が起きた日に捜査ファイルを引っ張り出して読み返すのと、夫のMartinを訪ねることを習慣としていた。しかし24回目となる訪問のこの日、Martinは不在だった。そのとき、オスロの未解決事件班の捜査官Adrian StrillerがWistingを訪ねて来る。Kathar

          【洋書】The Katharina Code/カタリーナコード〜北欧の雰囲気漂う極上のHuman-drivenミステリー〜