事業会社のDX/IT人材マネジメント -人材戦略編-
2015-16年あたりから国内でも注目され、多くの企業で取り組まれているDX(デジタルトランスフォーメーション)。
最初は「デラックス?」などいわれちゃうような単語でしたが、今ではほとんどの方が知っている言葉であり、経営アジェンダとなっています。
コロナを機にかなり加速したこの取り組みですが、一方でまだまだ「デジタル人材/DX人材の確保・育成」にお悩みの会社も多いようです。
ありがちなのが、「とりあえずe-Learning導入だ!」とか「研修整備だ!」とかやるのですが、実際に活躍できる人材は育たないか、もしくは研修で習ったことを現場やDX案件で使えない、というケースですね。
本稿では、「自社でDX人材関連の検討をせよ」と使命を受けたDX/IT部門や人事の皆さま向けに、何回かに分けて事例も交えながら検討のHowをお伝えしていきます。
経済産業省とIPAが公開している「デジタルスキル標準」も多いに活用していきます。
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/main.html
ちなみに、当方も本策定に関わっております。
この記事を開いていただき、ありがとうございます。グローネクサス代表の小出です。元デロイトで14年、最終的にはディレクターで多くの大手企業を支援していました。
現在ではグローネクサス代表として、主に大手企業における人材戦略・人材マネジメント策定やワークスタイル変革、リスキリングのお手伝いしています。
そもそも当社のDXってなんぞや?
DXという言葉って、とてもふわっとしてますよね。
「DXやれ!」と言われて困っている担当者の方々もいらっしゃるかと存じますが、人材を検討するにあたっても具体化が重要です。
一般的によく使われるフレームワークではありますが、DXには、
「A. 業務変革」「B. 既存事業のビジネスモデル変革」「C. 新規事業」に3つがあります。
業務改革には「A-1. 個々人や小組織における業務改善」と、「A-2. 組織・機能を跨ぐバリューチェーン高度化」があります。
A-1は例えばRPAやMicrosoft Power Automateなんかで繰り返し作業や定常作業を楽にする取組です。最近だと生成AIも含まれますね。
A-2は、生産・在庫・販売をリアルタイムデータ連携して、エクセルのバケツリレーを自動化したり、計画の精度を高めていく取組。
Bであれば、そもそも足で稼ぐ営業で売っていた自社の製品を、ECサイトなどでの販売に変え、収益モデルのあり方そのものを変えていく取組(自社製品の中でも汎用品などに適用するケースがあります)。
Cは、自社ではまだ取り組んでいなかった事業への展開です。例えば住友生命さんのVitalityは有名です。
AからCまで全部やるケースもあれば、とにかくAが大事だ、というケースもあるでしょう。
いずれにせよ、どのDXをやるかによって必要な人材が変わりますから、仮置きでもいいので解像度を上げることが重要です。
DXの具体的プロセスと必要なロールを考える
DXの解像度を上げると、これをどのように実行していくかが見えてきます。
例えば、上記Bの例のように、既存事業の収益モデルを変えていくよ、基本ECで売っていくよ、みたいな変革を考えたとします。
そうすると、すごく単純に書くと下記のような検討が必要になります。
ビジネスモデルの整理(ターゲット顧客とペインポイント、提供価値、プライシング、必要リソースと体制、費用構造など)
新たな業務フローとツール・システム(ERP、ワークフローなど)の整理
データの流れ・活用方法の検討
ECサイトの構築、UX/UIデザイン 等
1.や2.にはデジタルスキル標準でいう「ビジネスアーキテクト」や「サービスデザイナー」が必要になりますし、3.には「データビジネスストラテジスト」「データサイエンスプロフェッショナルが必要になりますね」。
また、4.には「UX/UIデザイナー」「フロントエンドエンジニア」などが必要になります。
といった形で、具体的にプロセスを整理すると、必要になる人材が見えてきます。
一例ではありますが、下記のようにプロセスごとにロールをマッピングしてみるとよいかと思います。
ロールごとに内製/外製を考える
とはいっても、「うちはIT会社じゃねーぞ」と思われる方もいらっしゃるかと思います。
その通りでして、自社として「このロールは内製じゃなきゃ無理!」「いや、あえてテクノロジー人材を増やすんだ」といった整理が必要になります。
最近では自動車会社ですと、OTではなくIT人材(ソフトウェア人材)をどう増やすかが経営課題になっていますね。
例えば、下記の「ビジネス寄り」の人材は内製化し、技術寄り人材は基本外製としつつ「パートナー会社さんのアウトプットやプロセスをレビューできる人材」として少数を内製化する、という考え方ができるかと思います。
数年後に目指すロール別・レベル別人数を考える
人材の質と量
ここが一番難儀するところかと思いますが、自社で必要なロールが決まれば、あとは内製化する人数を考えます。
人材の質と量、ということで、人材ポートフォリオと言ったりします。
なお、レベルの考え方は各社各様で、デジタルスキル標準でも人材やロールのレベルは定義していません。
一般的に3-5段階程度のレベルで設定されることが多いようです。
そして、このロール別・レベル別の人数をAs is(現状)とTo be(例えば3年後)で設定することで、ギャップが見えてきます。
実務的なコツですが、「リテラシーレベル」と「実際にDX案件で活躍できるレベル」は明確に区分しておくことをお勧めします。
前者はe-Learningや研修で一定確保できますが、後者は実践経験が不可欠だからです。
To be人数の拠り所は2つのアプローチ
As isの人数は「スキルアセスメント」などを通じて一定測定できるかと思いますが(当社でも提供していますし、割とこの尺度を提供している会社はあります)、To beがかなり難しいです。
最終的には「えいや」と決めるところもあるのですが、一定の論理性を保つために、下記の2種類のアプローチのいずれかもしくは両方が採られます。
DXの案件数から逆算する
今後何件のDXプロジェクトを進めるのかを見積もり、そのために必要な人数を逆算します。
組織全体の何%をDX人材にするかの目標を設定する
組織全体の何%をDX人材とするか、例えば10%と設定し、その割合に応じて育成と採用を進めるという方法です。
まあ、1を明確に割り出せる組織は、正直あまりありません。そうであったとしても、何らか仮置きすることが重要です。
ここまで整理してくると、ロール別・レベル別のギャップが明らかになりますから、そのギャップを埋めるための人材確保、採用 or 業務委託 or 育成の施策を検討することができます。
逆にこの人数がないと、「とりあえずPythonや!」とかいって多く社員に研修を受けさせて、現場に帰って「これいつ使うんや・・・」となってしまいます。
是非一度上記のようなアプローチで検討してみてくださいませ。
次回の記事ではギャップの埋め方について整理します。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
自社で、デジタル・DX人材関連の検討にお悩みの方は、お気軽にお問合せくださいませ。