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第1回特別支援教育に関わる先生方向け事例共有会レポート

第1回先生方向け事例共有会レポート
LITALICO教育ソフト「ほかの先生や学校はどうしているの?」

子どもたち一人ひとりへの個別最適な学びの提供を目指して開発されたLITALICO教育ソフト。個別の教育支援計画・指導計画の作成をサポートするアプリ「まなびプラン」、授業で使える約7000もの教材を掲載する専用ウェブサイト「まなび教材」、特別新教育に関する研修動画「まなび動画」の3つで構成されています。
本イベントには、4つの学校の先生が登壇。教育ソフトの活用方法や子どもたちの変化、それぞれの学校での取り組みが具体例とともに発表されました。全国から先生方が参加された事例共有会の模様をレポートします。

開催日時:令和4年8月2日(火)10:00-12:00
場所:オンライン
参加者:100名以上

現場での活用法に熱視線! 100名超の先生が参加

事例共有会には、全国から「LITALICO教育ソフトの活用例を知りたい」「具体的な事例を今後の指導の参考にしたい」「生徒の困り感に合わせた教材のチョイスや指導計画作成のヒントを得たい」といった熱い思いを持つ先生、自治体関係者のみなさんが参加されました。
LITALICO教育ソフトを導入し、手応えを感じている4名の先生の発表は、現場でのリアルな活用法や実感がこもったものばかり。
それぞれの先生の発表後には、多様な子どもがともに学ぶインクルーイブ教育教育の研究者である野口晃菜さんが専門家の目線から講評。他の自治体でも取り入れやすいポイント、参考にしたい点がよりクリアになりました。
 
早速、4名の先生の発表を振り返ってみましょう!

アセスメント結果を活かしやすくする「焦点化」 〜広島県福山市・栗林佑介先生

トップバッターは、福山市にある中学校の自閉症情緒障害特別支援学級*で特別支援教育コーディネーターを務める栗林佑介先生です。
 
栗林先生からは、主に「LITALICO教育システムが提供するアセスメントをどのように活用するか」という観点から、先生が担当する2人の生徒の実例をもとにした事例報告をいただきました。

アセスメントを分析して、授業での注力ポイントをしぼる

『まなびプラン』では、アセスメント結果がグラフによって視覚化されるのが特徴です。結果は「感覚・運動面」「学習面」「行動面」の3つの観点から網羅的にデータ化されますが、栗林先生は「授業の中で焦点化を絞るポイント」を決めて、手立てを考えていくことにしたそうです。
 
聞くこと、読むことに困難を抱えているA君には、視覚支援を重視しながら、自分で考えられるような教材を工夫しよう、と計画を立てました。
一方のB君は、こだわり強くて完璧主義であることや多動・衝動性が強いことに注目。学習方法を多様にし、自分で選べるようにすることで主体的に学習に取り組めるようなサポートを考えました。

アセスメントいかした授業づくりで、先生にも新たな気づきが!

発表では、書字の授業の様子が取り上げられました。アセスメントから導き出した手立てとしてユニークなのが、生徒自身に練習する作品、使用する用紙や筆記具を選ばせたことです。
「A君は、大きな半紙だと『とめ、はね』がうまく書けない、筆ペンの方が強弱がつけやすいという理由で紙の大きさは半紙の1/4大に、筆記具は筆ペンを選びました。B君は、紙が小さいほうが全体を見て書けて、失敗しても目立ちにくいという理由で、用紙の大きさは半紙の1/8サイズに、筆記具はサインペンをチョイスしました。」
実際のふたりの作品を見ると、字形もしっかり整えられ、字の大きさと紙の大きさのバランスもとれています。

(左)生徒Aの作品の2分の1
(右)4分の1

「A君は、何度か練習した後に本人の希望で半紙の1/2の大きさにもチャレンジ!紙のサイズに合わせた字の大きさの調整に苦労しましたが、これは筆ペンで書ける太さの限界によるところも。彼の挑戦に対する教員側の見立て不足、用具の準備不足を反省しました」
 
サインペンを選んだB君に対しては、毛筆の練習もできるようにと、授業の中盤で毛筆にも挑戦してもらったそうです。
 
授業の後、B君は「サインペンの方が硬くて書きやすかった」と話したそう。これは、B君が触覚に過敏さがある、というアセスメントを裏付けるものでしたが、実際に筆ペンで書いてみたことによって、「筆はやわらかくて書きづらい」というB君の思い込みは緩和したよう。次回の授業では開始時から毛筆での活動ができたそうです。
 
「ソフトの利用は、個別最適な学びに向け、教員自身が授業を練り直す機会になりました。教材の幅も広がったことで、生徒の学びの幅が広がったことも大きな効果です。さらには教材開発の時間が短縮され、業務改善にもつながっています」

野口晃菜さん講評

アセスメント結果をすべて反映しようとすると、非常に大変です。今回はここに着目してみよう、と的を絞ったことで、手立ても具体的になりました。
さらに、アセスメント結果から手立てを推測するだけでなく、子ども自身が選択できるように準備された点も参考になりますね。あくまでも見立ては予測であり、LITALICO教育ソフトの提案が正解とは限りません。半紙の大きさや筆記具を子ども自身が選ぶ。こうした体験は、子ども自身がどんな学び方が学びやすいか、自分にはどんな特性があるのかを自己理解することにもつながります。今後、自分にとって必要な配慮を意思表明していく必要がある子どもたちにとって、とても重要なことですね。今回の実践は、子どもの自己理解にもつながるものだったと思います

限られた時間で最大限の効果を出すために 〜埼玉県羽生市・堀越史子先生

続いては、埼玉県羽生市の小学校で、発達障害・情緒障害通級指導教室*を担当する堀越史子先生による発表です。
 
通級学級を担当するようになって間もないころは、「多様な子どもたちのニーズに合わせ、限られた時間で通常学級に適応できるように指導の成果を上げる」ことへのプレッシャーに押しつぶされそうな日々だった、と堀越先生は振り返ります。
膨大な資料と格闘しながら行ったアセスメントに対しても「本当にこれでいいのだろうか」と確信が持てないこともあったそうです。

児童一人ひとりに合わせたアセスメントが迅速に!

LITALICO教育ソフトの「まなびプラン」は、そうした通級指導ならではの葛藤や苦労に対しても心強い味方となったようです。
 
「簡単な入力で、アセスメント結果がデータ化され、一人ひとりの課題が見える化されたことに感動しました。また、『習得おすすめスキル』という機能から、児童に合わせた教材を印刷することもでき、より内容の濃い指導ができるようになりました。私自身も、アセスメントに基づいた教材であるという安心感から、今まで以上に自信を持って指導に当たれるように。アセスメントにかかる時間が短縮できたことで、心の余裕も生まれました。在籍校の先生、保護者の方からも、児童にあった内容の指導をしてくれてありがたい、といううれしい言葉をたくさんいただいています」

学校全体でLITALICOの教材を活用

通級教室だけでなく、学校全体でLITALICOの教材を活用していることも紹介されました。たとえば、低学年のトイレにはLITALICOの「トイレトレーニング」の教材を掲示。
また、特別支援学級の授業でも、LITALICOの教材が活躍! 写真や図解が多く、児童のモチベーションも上がる、とのことです。

さらに、「まなび動画」によって、時間や場所に縛られずに学ぶことができるようになった、という報告も。習熟度に合わせた学びをチョイスすることができること、自宅や通勤中などのすき間時間も有効に活用できることなどから、積極的に視聴しスキルアップに役立てている先生が多いそうです。

LITALICO教育ソフトの導入時に、堀越先生が中心となって先生がた全員に教材のポイントを説明し、そのタイミングですべての教員のタブレットにアカウントを付与。使い方の研修会を開催しました。通常学級に通うグレーゾーンの児童にも教材を活用するなど、すべての先生が一人ひとりにあった学びのためのツールとして取り入れているようすがわかるエピソードも紹介されました。

野口晃菜さん講評

LITALICO教育ソフトを誰にとってもわかりやすいユニバーサルな教材として活用していただいていることに感嘆しました。とくに通常学級の低学年の子どもたちには、いわゆるグレーゾーンの子もたくさんいます。私が関わっている学校でも、通常学級で支援が必要なお子さんに対して、LITALICOの教材を活用している例があります。あるいは学級全体でいくつかの教材を用意し、子ども自身が選択できるようにする、という方法も。学習指導要領に基づきながら、通常学級のなかでも可能な範囲で選択肢を増やしていくと、より一人ひとりに合った学びの機会が提供できるようになるかと思います

3ヶ月で効果をスピード実感! 〜兵庫県明石市・福嶋雅大先生

兵庫県明石市の小学校で特別支援学級の担任をされている福嶋雅大先生は、LITALICO教育ソフト導入後3ヶ月時点の効果実感をお話くださいました。
 
福嶋先生の学校では、通常学級でも「まなびプラン」を活用し個別の指導計画の作成を行っているようです。

経験値が少ない先生でも児童理解がしやすい!

「まなびプラン」を使ってみての実感として、福嶋先生が挙げたのが「児童理解が深まる」ということです。
 
「指導計画を作る際、これまでは『この児童はなんとなくこれが苦手そうだな』と考えていたことも、客観的で根拠のあるアセスメントができるように。児童の見せる行動についても、根底には困り感があるのかもしれないなど、新たな視点を持つこともできました」
 
アセスメントの入力項目は多岐にわたるため、全てを記入し終わるまでには多少の時間と手間はかかります。ただ、その分、こまかく児童の実態を把握できることは魅力だと感じているそうです。
「アセスメント結果は視覚的にもわかりやすく、教職についてまもない先生、特別支援の経験が少ない先生でも、どのように児童理解をしていくかがイメージしやすいものです。文例も用意されているので、児童の実態を入力するときの参考になった、という声も上がりました」
 
「児童の基本情報、保護者アンケート、個別の教育支援計画と指導計画が連動して、内容を反映できるので、何度も同じようなことを入力する手間がなく、今後はそれぞれの計画が学期ごと、年度ごとに積み上げられ、担任が変わっても支援や指導の計画がしやすくなっていくだろうと考えています」

研修会で教員の習熟度をアップ

担当学級や学年、教科などにかかわらず、特別支援教育を学校全体で考えていくためには、福嶋先生は「学校全体での活用」も大切だと指摘します。
 
「知ることでどの先生にとっても何かしら活用できる場面があり、特別支援教育への学びで得た知識、先生たちの指導スキル、支援は、必ず児童の学びや成長につながるはずです」
 
福嶋先生の学校では、まずLITALICOスタッフを招いての「まなびプラン使い方研修会」を実施。実際にアプリケーションを触りながら操作法や入力のポイントなどを確認しました。さらに、特別支援教育についての理解を深めることを目的に、「まなび動画」を使った校内研修会も開催。

「隠れたカリキュラムの話題など、職員全体で話し合うことができ、とても有意義な研修会になりました。参加した教員からは、動画によって学びのハードルが低く感じられた、ほかの動画も見てみたいといった前向きな意見がたくさん寄せられました」

野口晃菜さん講評

『なんとなくこれが苦手』というところまではわかっても、具体的な部分までアセスメントするのは結構難しいですよね。アセスメントは見る人によって視点が偏りがちなものなので、ベテランの先生、私のような専門家であっても悩むことは多いです。そういう点で、「まなびプラン」を新たな視点を得たり、よりこまかくアセスメントするために活用されたことが、本当にすばらしいと感じました。
また、福嶋先生の発表を聞いて改めて感じたのは、学校全体で特別支援教育をしていくときに、LITALICO教育ソフトは先生たちの共通言語になりうる、ということですね。これがひとつのきっかけになって、子どもたち一人ひとりに合わせた個別最適な指導へと発展させていくことが有効的であることを改めて再確認しました!

支援担、学級担任、家庭が同じ方向を向いて支援をするために 〜大阪府・山本一郎先生(仮名)

大阪府で支援教育Co.みんなの先生として教鞭をとる山本先生(仮名、以下略)からは、5年生のA君の事例を中心に、先生の取り組みと彼の大きな変化がシェアされました。

A君は、人にやさしく、関心のあるテーマには意欲的に発言できるなど、さまざまな得意、よいところを持っています。一方で、攻撃性や情緒不安定から気分が落ち込むと長時間のクールダウンが必要なこと、連日の遅刻登校や授業中に姿勢がくずれて寝てしまうなど、改善したい課題もありました。

今年度からA君の担任となった山本先生は、見立て直しのために「まなびプラン」を利用。保護者アンケートにもとづくアセスメント、山本先生のアセスメントでは見立てが異なる結果となり、保護者と教師の間に認識のずれがあることがわかった、といいます。

 このアセスメントをもとに、山本先生はまず保護者との信頼関係を構築し、アセスメントを活用したA君への指導へと取り組んでいきます。

保護者の気づきから、家庭での関わりにも変化が!

「ゴールデンウィーク直前、A君のお母さんに、『学校でのA君の残念な様子は伝っていましたか?』という率直にお聞きしました。すると、予想通り『いいところしか記憶にない』という答え。そこで、授業中に寝てしまう、感情のコントロールが難しいといった彼の課題を伝えたところ、お母さんは号泣。その姿は、家庭や地域で見せる彼の姿そのもので、実は彼の将来に対して大きな不安を抱えていたことを吐露されました」
 
山本先生との面談のなかで、A君の母親は、我が子がかわいいあまりに先回りしてなんでもしてあげてきたことなど、生活自立を妨げる関わりをしていたことを自覚されたそうです。
面談を通して、家庭と学校とで同じベクトルで関わっていく、という共通認識を持てるように。日々のファイル連絡をベースに、保護者からの要望で教育相談の面談を設けることも多くなり、密なコミュニケーションがとれるようになっていった、といいます。

学級担任と連携して、提案型の支援を徹底

山本先生は、 A君の指導に関して「個別指導計画を羅針盤に、関係の先生方、保護者と連携した取り組みができた1学期だった」と総括します。
学級担任の先生とは、合理的配慮として許容する範囲などを確認。
 
こうした合理的配慮と提案型の支援によって、A君にさまざまな変化がみられるようになっていきます。山本先生は14項目に及ぶ、具体的な変化を紹介! たとえば、「苦手な教科でも離席が少なくなった」「宿題や副教材のドリルを主体的にできるように」「級友に手を出してしまったとき、主体的に謝ることができた」などなど。A君のめざましい成長と、変化を見逃さないこまやかな評価に胸が熱くなる発表でした。

野口晃菜さん講評

保護者と先生の見立てが違うことは、少なくありません。環境の違いによって子どもの行動が異なるというケースもあれば、今回のように家庭では困っているのに、学校には伝えられていなかった、というケースも。認識のずれを共有し、保護者自身も我が子について新たに知る機会ができたのは大きなポイント! その結果、家庭と学校が同じ方向をみて支援を進めることができました。こうした共通理解がないと、学校と家庭では子どもに求める要求水準のレベルが変わってきてしまう、という事態が起こり得ます。それでは、子どもは何を頑張ったらいか、わかりにくくなってしまいますね。支援担、学級担任、家庭の連携がきっちりとできたことで、A君自身も今、頑張るべきことに取り組みやすくなったのだと思います。また、目標や指導内容が具体的だったからこそ、評価も非常に具体的でした。この積み重ねは来年度、また進学後と、A君の指導に有機的に生かされるものだと思います。

共有会全体を振り返ってのまとめ 〜野口晃菜さん総評

共有会の最後には、4名の先生の発表、また質疑応答などを総括して、野口さんが総評を行いました。

すばらしい実践が積み上がっていることを実感し、LITALICO教育ソフトの開発側としても非常にうれしく感じました。ただ、このソフトはあくまで土台をつくるもの。先生がたがよりよい支援をチームで考え、実践されているということが、なによりすばらしいと感じます。
 
このソフトはLITALICOだけでなく、先生がたの声で作られているもの。現在のものも、これが完成版ではなく、もっとよくできるはずだと考えています。たとえば、通常級にも活用の場を広げるには、どうしたら使いやすいか? 先生がたには『もっとこういう機能が欲しい!』といった意見をぜひお寄せいただけたら、うれしいです。みなさんのアイデアを集約しながら、子どもたちに個別最適な学びが提供できるソフトへと進化させていきたいと思っています! 今日は本当にありがとうございました。

ソフトの具体的な活用法はもちろん、いかに学校全体で取り組むか、アセスメント結果をどのように授業に反映するか、保護者との連携をどうするかなど、さまざまな観点が共有された充実の2時間。チャットルームには、参加された先生がたの感想や質問も飛び交い、オンラインながら、子どもたちに関わる先生がたの熱を感じる会となりました。

*注釈
(記事内の障害名表記について)
記事内では、一般的に使用される障害名・疾患名、または学級名として表記をしていますが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)などをもとに、日本小児神経学会等では「障害」という表記ではなく「~症」と表記されるようになりました。現在の下記の表現になっています。
■自閉スペクトラム症
以前は自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などのいろいろな名称で呼ばれていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。
■知的発達症
以前は知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。
■ADHD(注意欠如多動症)
以前は「注意欠陥・多動性障害」という診断名でしたが、2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「注意欠如多動症」という診断名になりました。
■LD・SLD(限局性学習症)
学習障害は、2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「SLD(限局性学習症)」という診断名となりました。ただし、最新版DSM-5-TR以前の診断名である「LD(学習障害)」といわれることが多くあるため、ここでは「LD・SLD(限局性学習症)」と表記します。


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