見出し画像

【エッセイ】音楽と思い出

僕は散歩中によく音楽を聴く。新しい音楽を開拓したり、開拓したアーティストを聴き込む時間にしたり。中でも、特に楽しいのはやっぱり好きで聴き込んだ曲を久しぶりに聴き直すことである。

僕が音楽を聴くのは、どこか苦しい時が多い。勉強漬けで頭がパンクしていたり、人間関係がうまくいってなかったり、今日みたいに半日考えても何もネタが浮かばなかったりするとき、僕は音楽を聴く。

そんな時は大体散歩もついてくる。外の空気に当たって、身体を動かして、好きな音楽を聴く。まあ、もったいぶってはいるけど、一般的な気分転換で、別に何か特別なものではなくて、きっと、みんなやっていることなんだと思うけど。

とにかく、僕は何だかうまくいかないような、心がくすんでいるようなときに、好きな音楽を聴きながら散歩をするんだけれど、こういうときは概して、頭の中にごみが漂っている感覚がある。そんな感覚、ないですか?

そういう時に音楽を聴くと、何だか頭がスッキリしてくる気がする。これはどっかで聞いた話でしかないけれど、電話をしながら歩き回っちゃったり、メモ帳に絵を書いちゃったりするのは、身体が右脳と左脳のバランスをとろうとしているかららしい。

電話は言語野を使うから、左脳が働く。それだけだと、働きが不釣り合いだから、運動したり絵を描いたりして、右脳を使ってバランスをとるそうだ。

僕が音楽を聴くのも、散歩をするのも、もしかするとそんな理由があったりなかったりするのかもしれないなと思う。

大体辛いときは考えすぎていて、言葉がずっと頭の中を駆け巡っていて、だから、そこに音楽を入れてあげることで、無秩序に散らかっていた言葉たちが秩序立って、すっと収まりつくようなそんな感覚。

音楽はある意味で言葉の道しるべなのかもしれないなと思ったりもする。

と、まあ、こんな感じで僕は辛い時や苦しい時、音楽を聞いたり、散歩をしたりするんだけど、その時の記憶は結構音楽に紐付けられて、身体に残っているものだというのを日頃の経験から僕は感じている。

例えば、受験勉強をしていた時、僕はよくELLE GARDENの『ELEVEN FIRE CRACKERS』やsumikaの『I co Y』、星野源の『YELLOW DANCER』に救われていた。

エルレの疾走感のあるメロディアスだけれども、スタイリッシュなメロディ、sumikaのポップで軽快なのにどこか寂しさの漂うギターリフ、星野源の明るく、でもどこかほの暗くて、だけど、身体が勝手に踊り出してしまうようなメロとリズム。

そのどれもが、あの頃の張り詰めた緊張感と、かすかに抱いていた希望、でも、決して拭いきれない不安、その全てと結びついていて、これらのアルバムを流していると、僕はあの頃のそうした色んな感情がないまぜになった、あの胸がきゅっとしまるような切なさに襲われるのである。

けれども、あの頃感じた、頭の中にストームのように吹き荒れる悩みや迷いをサッと落ち着かせてくれた爽快感もそこには同時に存在していて、その時、僕はあの頃の僕を生きながら、また、新たな記憶を紐づけている。

ここまで、まるで音楽が辛い経験や苦しい思いとばかり紐づいているというようなことを話したけれど、実はそうではなくて、音楽にはもちろん楽しかった思い出もついてくる。

僕の場合は、嵐の「Lotus」なんかがかかると、近所のツタヤのカードゲームコーナーで流れていた放送が思い出されて、小学生の頃のデュエル・マスターズをやっていた頃のあのワクワクした気持ちが(多分、人生で一番ハマったことだと思う)まざまざと蘇ってくる。

これは確かに楽しい思い出なんだけど、でも、その記憶を思い出す時、どういうわけか、心は辛い時とか苦しい時を思い出すのと同じように、切なくきゅっと締め付けられるのである。

恐らく、これは、僕らが音楽を通じてあの頃を思い出して、その一瞬過去の自分と同化して、まるであの頃を生きているような錯覚に陥ることで、ノスタルジーを覚えているからなのだと思う。

まあ、ここまでつらつら喋ってきたけど、結局、何が言いたいのかっていうと、僕らは(僕だけかもしれないけど)たくさんの思い出を音楽に紐づけているということだ。

けれど、それだけじゃない。僕らは音楽を聴いて過去を生きながら、同時にその身体に今を紐づけている。

こうやってネタを考えて散歩している今にも、僕の中にはあの頃の苦しみが流れているし、同時にこの曲には今の僕の苦しみが刻まれている。

けれど、音楽はそれだけじゃなく、頭の中を整理して今の僕の苦しみを和らげてくれる。そうして、僕の今の苦しみはその曲に吸収されて、過去になって、いつかまたこの曲を聞いた時に、ノスタルジックに追体験されるのだろう。

そうやって、僕は、いや、僕らは音楽とともに生きている。音楽を通じて、思い出に触れ、音楽を通じて、思い出を作る。

だから、僕は散歩中に音楽を聴くのである。

過去を忘れないように。そして、今を思い出にするために。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?