ペリクレスの葬礼演説を古典ギリシア語で読んでみた【第19回】
今回は、2文一気に解説することにします。ペロポネソス戦争という、この演説が為された時期を反映し、スパルタ人へのライバル心を剝き出しにした内容になっていきます。
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原文(Thuc. 2.39)と翻訳:19~20文目
筆者翻訳
戦争に関する訓練においても、次の点の為に、我らは敵対者たち(スパルタ人たち)よりも際立っている。すなわち、我らは開かれたポリスを提供しているのであり、外国人の排斥の故に、何人であれ学問や見物を禁ずることは決してない。それは隠されていない故に、敵たちの誰かが見知って有利になるかもしれないが、我らは行為に対し自身から湧き上がる勇敢さ以上に、準備した物や偽計に頼ることなどしない:とりわけ教育においても、彼ら(スパルタ人たち)は若くしてすぐ苦痛に満ちた訓練に取り組み、男らしさを追求する一方で、我らは自由に生きながらも、負けず劣らず、(スパルタ人が挑む苦難に)匹敵する危険へと立ち向かうのだ。
解説:語彙
διαφέρομεν:基本形はδιαφέρω、動詞・1人称複数・現在形・直説法・能動態、「際立っている」
δὲ:小辞、前文との対比を示している。
καὶ:強調の副詞
τῶν πολεμικῶν:基本形はπολεμικός、形容詞・複数・男性・属格、冠詞を受けて名詞化している。「戦時諸々の」
ταῖς ~ μελέταις:基本形はμελέτη、名詞・複数・女性・与格、「訓練」
τῶν ἐναντίων:基本形はἐναντίος、形容詞・複数・男性・属格、冠詞を受けて名詞化している。「敵対者たち」。スパルタ人のことを暗に指している。
τοῖσδε:基本形はὅδε、指示代名詞・複数・中性・与格、次の文章で述べられることを指している。「次の点の為に」
τήν ~ πόλιν:基本形はπόλις、名詞・単数・女性・対格、「ポリス」
τε ~ καὶ:接続詞、 παρέχομενの節とἀπείργομένの節を接続している。
γὰρ:説明の小辞
κοινὴν:基本形はκοινός、形容詞・単数・女性・対格、πόλινを形容する。「開かれた(共通の)」
παρέχομεν:基本形はπαρέχω、動詞・1人称複数・現在形・直説法・能動態、「提供する」
οὐκ:否定辞
ἔστιν ὅτε:慣用表現で「時々」。οὐκと合わせ「時々もない」、つまり「決してない」
ξενηλασίαις:基本形はξενηλασία、名詞・複数・女性・与格、「外国人の排斥」
ἀπείργομέν:基本形はἀπείργω、動詞・1人称複数・現在形・直説法・能動態、「(属格)から(対格)を我々は遠ざける」
τινα:基本形はτις、不定代名詞・単数・男性・対格、「何人であれ」
ἢ:小辞、" or "と同じ。「~か」
μαθήματος:基本形はμάθημα、名詞・単数・中性・属格、「学び」
θεάματος:基本形はθέαμα、名詞・単数・中性・属格、「見物」
ὃ:関係代名詞・単数・中性・対格、μαθήματοςかθεάματοςを先行詞に取り、節を形成する。ここでは分かりやすく指示代名詞的に訳した。
μὴ:否定辞、κρυφθὲνを否定する。
κρυφθὲν:基本形はκρύπτω、動詞・分詞・単数・アオリスト形・受動態・中性・主格、「隠されている」
ἄν:可能性の小辞、希求法の動詞とよくセットになり、仮定によって起こりそうな事柄を表す。
τις:基本形は同じ、不定代名詞・単数・男性・主格、「誰かが」
τῶν πολεμίων:基本形はπολέμιος、形容詞・複数・男性・属格、冠詞で名詞化され「敵たちの」
ἰδὼν:基本形はεἶδον、動詞・分詞・単数・アオリスト形・能動態・男性・主格、「見知って」
ὠφεληθείη:基本形はὠφελέω、動詞・3人称単数・アオリスト形・希求法・受動態、「有利になる」
πιστεύοντες:基本形はπιστεύω、動詞・分詞・複数・現在形・能動態・男性・主格、「頼る」
ταῖς παρασκευαῖς:基本形はπαρασκευή、名詞・単数・女性・複数、「準備」
τὸ πλέον:比較級の副詞、「より~」
καὶ:接続詞、ταῖς παρασκευαῖςとἀπάταιςを繋げている。
ἀπάταις:基本形はἀπάτη、名詞・複数・女性・与格、「偽計」
ἢ:比較級のthanに相当、「(ἢ以下)よりも」
ἀφ᾽:前置詞、属格を取って「~から」。ここでは「~から湧き上がる」と意訳した。
ἡμῶν:人称代名詞・1人称複数・男性・属格、「我ら」
αὐτῶν:再帰代名詞・複数・男性・属格、「自身」
ἐς:前置詞、対格を取り「~に対する」
τὰ ἔργα:基本形はἔργον、名詞・複数・中性・対格、「行為」
τῷ ~ εὐψύχῳ:基本形はεὔψυχος、形容詞・単数・中性・与格、「勇敢さ」
καὶ:強調の副詞、「とりわけ」
ἐν:前置詞、与格を取り「~においては」
ταῖς παιδείαις:基本形はπαιδεία、名詞・複数・女性・与格、「教育」
οἱ μὲν:ἡμεῖς δὲ と対比され、人称代名詞的に扱う。 「彼らは」
ἐπιπόνῳ:基本形はἐπίπονος、形容詞・単数・女性・与格、「苦痛に満ちた」
ἀσκήσει:基本形はἄσκησις、名詞・単数・女性・与格、「訓練」
εὐθὺς:副詞、「すぐ」
νέοι:基本形はνέος、形容詞・複数・男性・主格、「若い」
ὄντες:基本形はεἰμί、動詞・分詞・複数・現在形・能動態・男性・主格、「~して」。νέοι ὄντεςで「若くして」
τὸ ἀνδρεῖον:基本形はἀνδρεῖος、形容詞・単数・中性・対格、冠詞で名詞化され「男らしさ」
μετέρχονται:基本形はμετέρχομαι、動詞・3人称複数・現在形・直説法・中動態、「追い求める」
ἡμεῖς δὲ:οἱ μὲνと対比されている。「一方で私たちは」
ἀνειμένως:副詞、「自由に」
διαιτώμενοι:基本形はδιαιτάω、動詞・分詞・複数・現在形・中動態・男性・主格、「生きる」
οὐδὲν ἧσσον:基本形はἥσσων、形容詞・単数・中性・対格・比較、副詞として扱う。「負けず劣らず」
ἐπὶ:前置詞、対格を取り「~に」
ἰσοπαλεῖς:基本形はἰσοπαλής、形容詞・複数・男性・対格、「匹敵する」。比較対象が省略されているが、文脈からすれば「スパルタ人が挑む苦難に匹敵する」ということだろう。
τοὺς ~ κινδύνους:基本形はκίνδυνος、名詞・複数・男性・対格、「危険」
χωροῦμεν:基本形はχωρέω、動詞・1人称複数・現在形・直説法・能動態、「立ち向かう」
解説:構造
今回から一文が長めになっていきます。適度に文章を切っていく現代文に慣れ親しんでいる私たちからすれば、「なんでこんな文章を繋げるんだ!?」と驚きですが、デメトリオスの「文体論」によれば、このような長い文章は荘厳さを生むと考えられていたようです。
さて、このような長い文章でも、動詞を見分ければ概ねの構造が分かってきます。動詞だけ太字にしてみましょう。
διαφέρομεν δὲ καὶ ταῖς τῶν πολεμικῶν μελέταις τῶν ἐναντίων τοῖσδε. τήν τε γὰρ πόλιν κοινὴν παρέχομεν, καὶ οὐκ ἔστιν ὅτε ξενηλασίαις ἀπείργομέν τινα ἢ μαθήματος ἢ θεάματος, ὃ μὴ κρυφθὲν ἄν τις τῶν πολεμίων ἰδὼν ὠφεληθείη, πιστεύοντες οὐ ταῖς παρασκευαῖς τὸ πλέον καὶ ἀπάταις ἢ τῷ ἀφ᾽ ἡμῶν αὐτῶν ἐς τὰ ἔργα εὐψύχῳ: καὶ ἐν ταῖς παιδείαις οἱ μὲν ἐπιπόνῳ ἀσκήσει εὐθὺς νέοι ὄντες τὸ ἀνδρεῖον μετέρχονται, ἡμεῖς δὲ ἀνειμένως διαιτώμενοι οὐδὲν ἧσσον ἐπὶ τοὺς ἰσοπαλεῖς κινδύνους χωροῦμεν.
次に、動詞と動詞は、分詞でない限りそのままでは並列できず、接続詞や関係詞等の仲介を必要とします。文の構造を分かりやすくする為に、動詞を繋ぐ接続詞や関係詞、分詞の前を/で区切ってみます。
διαφέρομεν δὲ καὶ ταῖς τῶν πολεμικῶν μελέταις τῶν ἐναντίων τοῖσδε. τήν τε γὰρ πόλιν κοινὴν παρέχομεν, /καὶ οὐκ ἔστιν ὅτε ξενηλασίαις ἀπείργομέν τινα ἢ μαθήματος ἢ θεάματος, /ὃ μὴ κρυφθὲν ἄν τις τῶν πολεμίων ἰδὼν ὠφεληθείη, /πιστεύοντες οὐ ταῖς παρασκευαῖς τὸ πλέον καὶ ἀπάταις ἢ τῷ ἀφ᾽ ἡμῶν αὐτῶν ἐς τὰ ἔργα εὐψύχῳ: /καὶ ἐν ταῖς παιδείαις οἱ μὲν ἐπιπόνῳ ἀσκήσει εὐθὺς νέοι ὄντες τὸ ἀνδρεῖον μετέρχονται, /ἡμεῖς δὲ ἀνειμένως διαιτώμενοι οὐδὲν ἧσσον ἐπὶ τοὺς ἰσοπαλεῖς κινδύνους χωροῦμεν.
後は、前置詞や分詞で構成される句を()で括ってみます。ここでは、動詞の目的語となる句はそのままにしておき、文章のSVO構造を明白にさせます。
διαφέρομεν δὲ (καὶ ταῖς τῶν πολεμικῶν μελέταις) τῶν ἐναντίων (τοῖσδε). τήν τε γὰρ πόλιν κοινὴν παρέχομεν, /καὶ (οὐκ ἔστιν ὅτε ξενηλασίαις) ἀπείργομέν τινα ἢ μαθήματος ἢ θεάματος, /ὃ (μὴ κρυφθὲν) ἄν τις τῶν πολεμίων (ἰδὼν) ὠφεληθείη, /πιστεύοντες οὐ ταῖς παρασκευαῖς τὸ πλέον καὶ ἀπάταις {ἢ τῷ (ἀφ᾽ ἡμῶν αὐτῶν) (ἐς τὰ ἔργα) εὐψύχῳ}: /καὶ (ἐν ταῖς παιδείαις) οἱ μὲν (ἐπιπόνῳ ἀσκήσει) εὐθὺς(νέοι ὄντες) τὸ ἀνδρεῖον μετέρχονται, /ἡμεῖς δὲ (ἀνειμένως διαιτώμενοι) οὐδὲν ἧσσον ἐπὶ τοὺς ἰσοπαλεῖς κινδύνους χωροῦμεν.
このように記号で整理すると、長文でも構造がなんとなく分かってくると思います。
逐語訳
(δὲ)戦争に関する(τῶν πολεμικῶν)訓練において(ταῖς μελέταις)も(καὶ)、次の点の為に(τοῖσδε)、我らは敵対者たちよりも(τῶν ἐναντίων)際立っている(διαφέρομεν)。すなわち(γὰρ)、我らは開かれた(κοινὴν)ポリスを(τήν πόλιν)提供している(παρέχομεν)のであり(τε…καὶ)、外国人の排斥の故に(ξενηλασίαις)、何人であれ(τινα)学問(μαθήματος)や(ἢ…ἢ)見物(θεάματος)を禁ずることは(ἀπείργομέν)決してない(οὐκ ἔστιν ὅτε)。それは(ὃ)隠されていない故に(μὴ κρυφθὲν)、敵たちの(τῶν πολεμίων)誰かが(τις)見知って(ἰδὼν)有利になるかもしれないが(ἄν ὠφεληθείη)、我らは行為(τὰ ἔργα)に対し(ἐς)自身(ἡμῶν αὐτῶν)から湧き上がる(ἀφ᾽)勇敢さ(τῷ…εὐψύχῳ)以上(ἢ)に、(τὸ πλέον)準備した物(ταῖς παρασκευαῖς)や(καὶ)偽計に(ἀπάταις)頼ること(πιστεύοντες)などしない(οὐ):とりわけ(καὶ)教育(ταῖς παιδείαις)においても(ἐν)、彼ら(οἱ μὲν)は若く(νέοι)して(ὄντες)すぐ(εὐθὺς)苦痛に満ちた(ἐπιπόνῳ)訓練に取り組み(ἀσκήσει)、男らしさを(τὸ ἀνδρεῖον)追求する(μετέρχονται)一方で、我らは(ἡμεῖς δὲ)自由に(ἀνειμένως)生きながらも(διαιτώμενοι)、負けず劣らず(οὐδὲν ἧσσον)、匹敵する(ἰσοπαλεῖς)危険(τοὺς…κινδύνους)へと(ἐπὶ)立ち向かうのだ(χωροῦμεν)。
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