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現場が感じるDX推進の課題(1/3)

昨今DXという言葉を新聞紙面で見ない日はありません。

私はDXの専門家ではありませんが、テクノロジー・スタートアップの事業支援をする過程で、大企業側のDXプロセスに触れる機会が多くありました。その中で一つ気づいたことがあります。

それは、DXは決してデータを取得したり先端のテクノロジーを社内に導入するといった類の話ではなく、むしろ「非デジタル≒アナログ(リーダーシップ・組織文化)」に、その成否を分ける鍵があるということです。

今日はこのトピックについて、時代背景への考察を含めて、3回に分けて考えをまとめてみようと思います。お付き合いください。

未来を予測するという王道路線の崩壊(?)

「未来の脅威に対してどう対応すべきか」

このトピックについて考えるとき、私は「必ず来るであろう未来」と「来るかどうかわからない未来」を分けて議論しよう、という話を仲間内でよくします。

少し詳しく説明をすると、未来には「時間を使ってリサーチをすればかなりの確率で読める未来」と「時間を使ってリサーチをしたところで分からない未来」の2種類があるというのが私の考えです。

例えば、「必ずくる未来」の中で一番わかりやすいのは人口動態の変化です。日本はすでに人口減少過程に入り(内閣府データ)、2048年には人口1億人を切るといわれています。人口数が経済の需要を形づくる大きな変数と考えれば、移民の受け入れを積極的に行わない日本の経済が縮小均衡となることは避けられません(もちろん人口減を補うだけの生産性を高める技術革新が生まれれば掛け算としての経済は大きくなるとは思いますが)。

一方、ASEANの中でも人口増加率が高く、平均年齢も若いフィリピンやインドネシアは成長市場として注目されています。このように人口動態や平均年齢といった属性情報は、そのまま全体としての需要の大きさとライフステージごとのニーズを読むのに有効なデータです。

よりミクロな話でいえば、国策として投資がされようとしているテーマ・領域(国策に売りなし)。新しい法律が国会で制定される時、例えば、ある技術に関する規制緩和がなされるタイミングがわかれば、その後の市場の広がりも予測がつきます。テック業界リーダー企業たちが投資しているテクノロジー領域と投資額も、そのポテンシャルを測るのに参考になるでしょう。

もちろん予測する時間軸のずれはあるにせよ、「必ずくる未来」として捉えることは可能だと考えます。

しかし一方で、どんなにリサーチしたところで分からない未来もあります。

1990年代に、世界一の本屋になるとスタートしたAmazonが、リテール業界の雄であったホールフーズを買収し、ウォール・マートの最大の競合になることを予測できた人はいたでしょうか。JCペニーやシアーズが破綻したのも、事態を読みきれず、危機に気づいた時には遅かったというのが本当のところだと思います。

Appleが「iPhone=スマート・フォン」によりNOKIAをはじめとする既存の携帯電話業界を破壊したことも(日本のガラケーは完全駆逐)、「iTunes」により音楽業界のビジネスモデルを根本から変えたことも予測は難しかったでしょう。

実際、音楽業界に最初に革新的なインパクトを与えたのはNapsterが開発したP2Pアプリケーション(個人間のファイル交換を可能にする技術)といわれていますが、その後の音楽ファイルの著作権をめぐる泥沼の闘争の末、救世主的に登場したスティーブ=ジョブス率いるAppleの動きなどは、到底予測してできるものではなかったと思います。

今でいえば、Covid-19のような世界的な感染症が、個人と企業のリモートワーク化を進め、結果としてあらゆる業界のDXを加速化させることになるとは、誰が予測できたでしょうか。

いま、私たちの生きてる時代では「予測できない領域」がかつてないほど広がりをみせていると感じます。ではこの未来へのスタンスが、DX推進とどのように関わってくるのでしょうか。

私たちが歴史から学べる教訓

上記にある革新的ビジネス事象から共通して見えてくるものは、大きく2つあると思います。

一つは「多くのイノベーションは他業界からもたらされる」ということ。イノベーションのジレンマという言葉が示すように、一度成功し、成熟した企業や業界内では既得権益を守ろうとする力学が働きやすく、既存ビジネスを脅かす革新は起きません。イノベーションを起こすのはいつも既得権益から自由な立場にあるよそ者なのです。

二つ目は、「未来を予測するより適応することが効果的」ということです。特に環境の変化が激しい今のような時代では、同じ業界のプレイヤーだけを見ながら競争に勝つのが難しくなってきています。だからといって全ての業界をベンチマークにすることも物理的に不可能。結論、「適応するしかない」ということになります。

カリフォルニア大学バークレー校のデイビッド=ティース教授らは、1990年代にダイナミック・ケイパビリティという言葉で、企業が環境変化に合わせて動的に経営リソースを再構築し、新しい組み合わせを考え続ける能力の必要性を訴えていました。これは昨今、経営学で注目されている両利きの経営に必要な機能だといわれています。

つまり、「来るかどうか分からない未来」の領域がかつてないほど広がってきている現在、いかなる状況においても適応できる組織文化とリーダーシップを作り上げることが企業に求められているといえるでしょう。

このデジタルの対岸にあると思われるアナログ領域のイシューを解決することが、DXにとって何よりも重要なものになってきていると考えています。

DXを阻むもの

今まで成功したやり方は、予測し、事前に対応策を考え、効率的にオペレーションを実行することでした。特に高度成長期に成功体験を持つ経営者からすれば、「人を◯人投入すれば売上が◯◯あがる」といったわかりやすい方程式が作れるまでは、動き出そうとしないものです。

しかし、そのアプローチは、複雑性を増した現代では徐々に通用しなくなってきています。未来は予測可能であるというスタンスのまま、予測した未来をベースに資源を最適配分しようとすることが、ことごとく裏目に出るようになってきているのです。

そして身動きが取れずにいるうちに、組織は硬直化し、変化のスピードが遅れ、その成長力は劇的に衰える。成長できない業界・企業はどこでも限られたポジション、既得権益をめぐり政治が横行し、社内の有望な若手の育成・抜擢はおろか、外部から優秀な人材を採用・定着させることはできません。

私はこれがデジタルを用いた企業変革たるDXを阻み、それを実行しているDXリーダー企業との間に大きなパフォーマンスの差を生んでいると考えています。

そんなことを考えながら、マッキンゼーのレポートを読んでいたら私が体験したことに近い事例が書かれていたので、私の体験談も含めてデフォルメした事例をご紹介します。

DX失敗あるある

実際にあらゆる業界で起きているだろうなと感じるDX事例は、「DXはデジタルやテクノロジーを社内に導入することだ」と組織のデジタル化が目的化してしまうパターンです。

このように手段と目的が入れ替わってしまう企業は、「社内にデジタルリテラシーを持っている人間が少ない」というコンプレックスが強すぎるため、外部からトップダウンで採用をします。

採用された方は企業変革のために奔走しますが、それほど大きな権限を与えられていない(ケースが多い)ため、現場の事業部からなかなか協力を得られません。

なお日本のオペレーション現場は、日本特有の不確実性回避傾向の高さから、過剰にクライアントにカスタマイズされていることが多いため(これは日本企業の強み)、なかなか汎用的なテクノロジーの導入が進みません。

社内の異なる部署が似たような調査をバラバラにやっていたり、マーケティング・ダッシュ・ボードのような情報共有基盤を持っていないことが多いのは、日本のどの業界にも共通してみられる現象です。

よって、何か新しい取り組みをしようにも現場からはアレルギー反応が出やすく、明確なビジョンとトップのコミットがなければ、事業部との連携は容易ではありません。

しかし、それでも結果を出さねばならないプレッシャーを受けたDX責任者は、結果、何をするか。社内のどの部署からも干渉されない狭い領域でデジタルトランスフォーメーションという名の「ITツール導入」を始めます。

こうして採用したトップは期待した効果が上がらないと頭を抱えるのです。

DXに欠かせない3つの非デジタル要素

以上の話を踏まえ、私は以下3つの要素がDXに欠かせないと考えています。 

1.  「効率」より「適応力」を重視する経営リーダー              
2.  共通のビジョンが浸透したアジャイルな組織                                            
3.  失敗を許容できる組織文化(=学習する組織) 

理由は3つあります。 

1)予測できない未来の領域がかつてないほど広がってきている 

未来が予測できた時代は効率性を重視した経営が機能していました。しかし、今は環境変化のスピードが早まり、未来予測が困難な時代にあります。この環境に対応するには、外部環境の変化に対応できる多様性を組織として抱えることが適応力をあげる有効な手段になるでしょう。

2)競争相手ではなく自身のビジョンの実現を追求することが必須に 

かつては業界の競争相手の顔ぶれは同じで、競争の力学も読みやすい環境にありました。しかし今、業界のビジネスを壊す競争相手は異業種からやってきます。Tesla、Amazon、Appleは易々と業界の壁を超え、あらゆるビジネスを侵食しています。

この時代においては、競争相手ではなく自身のビジョンと成長に集中しないといずれ異業種の誰かに業界ごと潰されることになるでしょう。まさに童話でいうところの、ゴールではなく競争相手(=亀)をみながらレースに負けたうさぎの構図のように。

3)デジタルで可視化された顧客の動きを把握することがビジネスの肝に

どれだけ顧客中心主義を唱えていても、これまでの製造業は顧客と「購入」「故障(アフターサービス)」といった点でしか付き合う機会がありませんでした。

しかし、昨今はリカーリング・シフトという言葉が注目されているように、「購入から利用中、買い替えに至るまでの全ての期間」に顧客と向き合うビジネスモデルが競争の中心になってくると思います。

そのためには、顧客と点ではなく線で向き合える組織、つまり、成功だけでなく失敗も含めシェアし、学習をし続ける組織文化をつくることが鍵になってくると考えられます。 

さいごに

このようにデジタルのことを考えれば考えるほど、アナログ領域の重要性に目がいきます。

DXとは「デジタルを用いた企業変革」であって、「デジタル化」が目的にはなりえない、と考えれば、一度「デジタル」という言葉を忘れて、自社の顧客がどのように変化しているのかを徹底的に知り、顧客第一の姿勢で自社ビジネスを考え直すことが大事なのではないでしょうか。

今日はデジタル・リテラシーが足りないと嘆く前に経営者が考えるべきことを整理してみました。

次回、先日開催したDX関連のウェビナーの中身について、シェアしたいと思います。

現場が感じるDX推進の課題(2/3)

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