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現場が感じるDX推進の課題(2/3)

こんにちは。前回に引き続き、DXについての2回目の投稿です。

先日、ある教育系コンサルティング会社からの依頼でDXをテーマにしたWebinarを行いました。

事業会社を中心に40名以上の方々に参加して頂き、その場で行ったアンケート調査の結果が非常に示唆に富んでいたので、この場を借りてシェアさせて頂ければと思います。

そもそもDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?

経済産業省の定義によれば、DXとは次のような活動を指します。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

ポイントは、前回記事でも触れましたが、データとデジタル技術を活用して、ビジネス/オペレーションの変革を行なうという点でしょう。

この時点で、データやデジタル技術に根ざした顧客サービスを提供しているIT企業と、そうではない企業とでは、変革における難易度が大きく異なるのはいうまでもありません。

日経の記事も触れている通り、そもそも製造業とサービス業だと扱っている「データの種類」が違います。顧客データを中心に扱うサービス業が、ECを中心にデータ活用による収益向上事例を多く生み出す一方で、製造業はまだデータ活用による収益化の方法を確立していません。

つまりDXとは、ほとんどの場合、日本の中・小製造業を中心とした伝統的企業のための言葉であり、海外を含め多くのIT/サービス企業にとっては顧客の変化に対応するための日常的な改善活動の一つであって、あまりDXといった大仰な言葉は使われないのかなと思います。

誰がDXの変革を担うか

今回のウェビナー開催前に、企画担当をしてくれたコンサルタントの方がこんな話をしてくれました。

「今回申し込みをしてくれた企業担当者の属性がバラバラで面白いです。いつも研修を企画している人事だけでなく、営業部門を束ねる執行役員クラスの方から事業開発部門の方まで幅広く参加してくれています」

これを聞いて私は、まさに企業の中で誰がDXの変革を担うのかが明確ではなく、社内の危機意識だけが様々な部門に落とされている混沌とした状況が、そのまま表されているのだと確信しました。

そして「どの企業内でもDXにおける課題意識がきっとバラバラなのではないか」という仮説を持った私は、次のような課題リストを参加者に提示し、企業内の課題を可視化してみようと考えました。

DXのリアルな現場課題

こちらが事前に用意した課題リストです。

1. シニアマネジメントのリーダーシップ
2. 失敗が許容されない組織文化
3. デジタル・テクノロジーへの理解不足
4. 人材の欠如
5. ITインフラの欠如
6. デジタルと従来のオペレーション体制との対立
7. データーの欠如
8. 変化する顧客への対応力
9. 複雑で不透明な経営意思決定プロセス
10. 外部人材を活かすための人事制度の整備

当然それぞれが単独で存在する課題ではなく、どれもが密接に関わり合っているものではありますが、特に重要だと考えたものを10個にまとめて取り上げました。

以下、簡単に補足説明いたします。

1. シニアマネジメントのリーダーシップ

経営トップも含めた経営層がどれだけ危機意識をもってDX課題に取り組んでいるかを示すものです。「リーダーシップがある」というのは、経営トップが自ら課題意識を示し、変革を主導するというものです。

逆に「リーダーシップがない」というのは、トップによる課題設定が特にないままDX推進部が作られたり、外部のITベンダーにお題がそのまま丸投げされるケースを指します。

こうやって改めて文字にすると「そんなことありえるの?」と感じられる方が多いと思いますが、これで苦しんでいる現場の人、結構います。

2. 失敗が許容されない組織文化

「失敗が許容されない組織」と聞くと、営業数字が達成できなかったら晒し者になるとか、上司からゲキ詰めにあうとか、そういう風景を思い浮かべるかもしれません。しかし、これは失敗を認めた上で改善をするために行動しているのだ、という風に解釈すれば、アプローチが間違っているにせよ、まだ失敗を許容できている組織です。

本当に失敗が許容されない組織では、失敗したら怒られるのではなく、失敗が存在しません。正確にいうと、存在が許されません。

誰がみても失敗だった事件が起こっても、社内でシェアされることもなければ、個人が咎められることもなく、それに触れることが憚られる空気が醸成されていたりします。ハリーポッターでいう「名前を呼んではいけないあの人」状態です。

3. デジタル・テクノロジーへの理解不足

テクノロジーと一言でいっても、様々なレイヤーが存在します。5G、クラウド、AIといったインフラレベルのものから、その環境に乗ってくる個別のアプリケーションレイヤーの技術など。

私はマーケティング・テクノロジーといわれる領域を専門としてきましたが、顧客の課題を解決するという視点でテクノロジーを学びました。

例えば、GumGumという米国の広告配信事業を行う会社は、画像認識技術・自然言語処理技術を組み合わせながらオンライン上の写真付き記事をカテゴライズし、そのページを訪れる顧客の属性・嗜好に合わせて良質な広告掲載をするというサービスを展開しています。

この企業は、個人情報規制が強まる環境で、クッキー・データという個人情報をベースにトラッキング広告を配信してきたアドテク企業が問題視される中、クッキーに頼らない新しいアプローチを取っているという点で注目されていました。

このように新しいテクノロジーが生まれる時には、必ずその背景としての課題意識があります。逆に言えば、その課題さえ把握していれば、テクノロジーの細かい仕様まで理解する必要はない、というのが私の基本理解です。

4. 人材の欠如

人が足りない。

これにはいろんな意味が含まれています。

専門人材が育たない。社内の教育環境が整備されていない。外部から人が来ない。来てもすぐに辞めてしまう等。

また、既存ビジネスの維持・拡大のために過剰に現場にカスタマイズされてしまった従業員が、なかなか変われない。変わろうとしても既存のやり方を捨てきれない、ということでもあります。

他にも、メンバーシップ型の人事運用制度を変えることができない。だから転部・転職できるスキルセットが育たず、同じような環境にいつづけてしまう。結果、社内のポストが空かずに若手の優秀な人から辞めてしまう等々。

組織の中に必要な人材がいない理由を考え始めたらキリがないですね。

5. ITインフラの欠如

中小企業に多いパターンですが、そもそもコロナ下でもリモートワークに振り切れない企業は多いと思います。その大きな要因は経営リーダーシップだと思いますが、物理的な要因は、ITインフラの欠如です。

例えば、そもそも社内でZOOMやTEAMSが使えない。社内ワークフローにハンコと決まった社内フォーマットの書類が必要。チームのコミュニケーションツールがなく、だからといって個人のFacebook Messangerを使いたくない。結果、いまだに満員電車に乗って出勤中と。

世間一般で語られるリモートワークは、一部の大企業だけに許された特権になっているという事実を、私たちは忘れてはいけません。

6. デジタルと従来のオペレーション体制との対立

新しくデジタルツールを社内に導入するときに、現場の既存のオペレーション体制と合わずに揉め事を起こすことがあります。

例えば、今までZOOMでリモート会議をやっていたのに、ある日突然MicrosoftのTEAMSに全ての運用を切り替えます、と言われた時。

「まーしゃーないかー」という人もいれば、今まで慣れ親しんでいたツールをいきなり奪われ、明らかに不快感を発信する人も出てきます。

同じように、Slack使っていたのにChatworkにしろと言われたとか(逆もあり)、dropbox使っていたのにoneを使えと言われたりとか。まだこれはテクノロジーを利用しているだけマシで、手書きで紙に書いて運用していたものをエクセルに切り替えることに反対する人、なんかもいたりします。

これは失敗を許容しない組織文化にも関連してきますが、現場が過剰に個別最適化を果たした結果、他部署と同じ運用方法に揃えてシステムを導入するということが難しい環境・組織というのは、本当に多いと思います。

7. データーの欠如

サービス・オペレーションの改善にデータが必須と言われる理由は、データが現場で起きていることを「可視化」したものだからです。この「可視化」なしには改善がされたかどうかを測ることができません。

しかし、このデータそのものが社内に存在しないという企業も結構あります。割と職人文化を引きずる部署、会社です。

なぜか。

データ化するというのは、基本的に自分の経験値を誰かとシェアすることに等しいからです。テクノロジーの問題ではありません。マインドセットの問題です。

職人文化では、基本的には技は「盗む」ものなので、誰もが理解できるフォーマットに落とされていることはありません。私もかつてそういう環境にいたので、「この人すげー」と思った人の企画書は、勝手にコピーするか、クライアント向けに印刷する際に自分用に余計に刷って保管してました(笑)

いずれにせよ、データが社内に蓄積されないということは、その多くは組織文化の問題で、どこでも起こりうる問題です。

8. 変化する顧客への対応力

顧客はますますオムニチャネル行動を取るようになってきています。オムニチャネルとは、企業と顧客の接点となる全てのチャネル(スマホ、PC、店舗、メール等)を用いた販売戦略のことを指し、「Gartner Marketing Predictions for 2021 and Beyond」というレポートの中では、2025年までにはB2Cブランドの60%が対応を求められるだろうと指摘されています。

例えば、先日我が家でピザをランチに食べた時の話です。ふとメールにドミノピザからお得なクーポン券が届いているのに気づいた私は、すぐに食べたいピザをウェブサイトでチェックをしました。

そのまま注文しようと思った矢先、参考までに開いた競合であるビザーラのウェブサイトにこんな文言が書かれていたのです。

「店舗に取りに来ればもう1枚は無料」

ダイエット中でピザを食べることに罪悪感を感じていた私は、「これなら歩いて少しカロリーを消費できる」と迷わずピザーラでピザをネット注文し、家から徒歩15分ほどの距離にある店にピックアップに向かったのでした。

このオンライン発注→オフラインというオペレーションの流れは、昨今登場した新しいタイプの消費動線かと思います。

私が記憶する限り、先駆者はウォール・マートです。彼らがアマゾンに対抗して作り出した「オンラインで注文して店舗にピックアップに来れば店内商品◯%値引き」というサービスが、大ヒットし、ECに一方的にやられていたリテールビジネスに一筋の光明を与えたのです。

このように、顧客の動きはテクノロジー環境の進化と合わせて、変化しています。今までの同じオペレーション・フローのままでいては、テクノロジーをバックボーンにもつ新しい競合にたちまち駆逐される恐れがあるでしょう(JCペニーやシアーズのように)。

9. 複雑で不透明な経営意思決定プロセス

ここはデータの欠如とも関連してくるポイントです。

経営の意思決定が不透明なものであればあるほど、従業員から「結局トップの勘もしくは保身で物事が決められている」と思われ、信頼を失い、DX化する動機そのものが現場から失われてしまうことがよく起きます。

そもそもデータを活用した経営を行うというのは、データを根拠にした透明性、納得性の高い経営を行うという意味です。もちろんこれは誰もが納得する経営判断をするという狭い意味ではなく、少なくとも経営者の試行錯誤の過程が見える組織体に変わっていくということです。

ファクトベースで物事を動かすべき、というのはよく聞く話ですが、ファクトそのものを作らせない失敗を許容しない組織文化がDXを阻害するという背景も、しっかりと認識する必要があると思います。

10. 外部人材を活かすための人事制度の整備

人材の流動性が低い低いと言われてきた日本ですが、私の肌感覚では、大企業からスタートアップへの流れが一部業界では生まれつつあり、状況は徐々に変わってきている気がします。

ただ、大企業において「終身雇用・年功序列・一括採用」の古き慣習が完全になくなることはなく、外からきた人材よりも生え抜きにポジションを与えたいという空気はまだまだ多いのが現状だと思います。

いずれにせよ、これからの変化の時代に大企業が対応していくには、社内に多様性を抱え込むことが必要不可欠です。その際にボトルネックになるのが、この人事制度でしょう。

マッキンゼーレポートによれば、日本企業は歴史的に自社の専門外の機能をアウトソーシングしてきました。例えば、社内エンジニアとITベンダーの利用割合にしても、欧米が7:3の割合であるのに対して、日本企業はその逆の3:7という割合だそうです。

これはITという領域の話ですが、私の古巣であるマーケティング業界においても、多くの日本企業がそのマーケティング機能を広告代理店にアウトソースしてきた歴史的な背景があると感じます。

このように、DXのために必要なデジタル・リテラシーや事業構想力といったものの多くを社外にアウトソースしてきた結果、自社だけでDXを推進できないという問題が起きているのだと私は考えています。

今後のDX推進の鍵は、社外専門リソースの内製化であり、そのための人事制度基盤が必要になると思います。私が以前長らく仕事させていただいた某日系重電企業は、2013年の段階でグローバルの人事制度統一を実現し、外部人材の活用体制を整えていました。

これを実行できた企業は、M&AによるPMI後も重要人材を辞めさせることなく成功させ、より有効なM&A先を見つけ出すためのCVCの創設など、既存事業と新規事業をバランスさせる両利きの経営を実現できると思います。

つづく

随分長くなってしまいました。ここまでお話ししたDX課題リストは、そのままイコールDX成功要因でもあると考えています。

次回はこのリストをもとに、実際にウェビナーに参加いただいた方々がどうアンケートに答えてくれたのか、その結果をシェアしながら、さらに考察を進めていきたいと思います。

現場が感じるDX推進の課題(3/3)

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