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現場が感じるDX推進の課題(3/3)

では前回前々回に引き続きDXについて、お話ししたいと思います。本稿が取り急ぎの最終回です。

アンケート結果

先日開催されたDXに関するウェビナーの中で、事業会社の方々に対して提示した10個のDX課題リストは以下のものでした。

1. シニアマネジメントのリーダーシップ
2. 失敗が許容されない組織文化
3. デジタル・テクノロジーへの理解不足
4. 人材の欠如
5. ITインフラの欠如
6. デジタルと従来のオペレーション体制との対立
7. データーの欠如
8. 変化する顧客への対応力
9. 複雑で不透明な経営意思決定プロセス
10. 外部人材を活かすための人事制度の整備

そして参加者42名のうち、アンケートに回答いただいたのが34名です。このリストから、自社の課題に最も近いと感じているもの上位3つを選んでもらいました。

その結果がこちらです。

DX推進の課題

いかがでしょう?皆さんが現場で感じている課題意識と比べて、大きな乖離はありますか?それとも、うんうんとうなづいてしまう内容だったでしょうか。

当然、各社ともに状況は異なりますし、業界ごとに求められるDXの形も違うと思いますので一般化はできませんが、共通点も見えてきます。

少し考察してみましょう。

避けられない現場との対立

上位から順番に眺めると、「デジタル・テクノロジーへの理解不足」「人材の欠如」。そして「ITインフラの欠如」「デジタルと従来のオペレーション体制との対立」が同点で並んでいます。

素直に読むと、そもそもデジタルやテクノロジーに対する理解が社内において乏しく、マネジメント層も何が経営課題なのかを明確に設定することも困難な状況にあるといえそうです。

もしくは、ある程度課題は明確だが、解決に向けてプロジェクトを推進できる現場責任者がいないということかもしれません。

だからこそ、適切な人材を外から人を連れてくるか、外注しながらプロジェクトを組成するしかないという流れになっているのだと思われます。

また、「従来のオペレーションとの対立」という点では、新しいテクノロジーを導入したいのに、そもそも運用ルール含めた社内インフラが整っていない、既存オペレーションに慣れた現場が面倒くさがって良い顔をしない、もしくはアレルギー反応を示して協力してくれない、ということが起きている可能性が高いと思われます。

そういった観点からみると、DX推進の難所は、実はテクノロジーへの理解不足というよりは、現場の「人間関係」を壊したくないというウェットでアナログな部分ではないか、とも解釈できるかもしれません。

トップ・コミットメントと権限委譲ができるか

このように上位の課題リストを見る限り、デジタル・テクノロジーに精通した人材が社内にいようが社外から招こうが、現場とのハレーションは避けられなさそうです。

よって、社内のハレーションを抑えるためにもトップのコミットメントは欠かせませんし、なぜその改革が必要なのかという説明、根本的には企業としての長期的なビジョンが求められると思います。

また、トップのコミットメントに合わせて、仮にDX担当責任者というクロスファンクショナルな役割を作るのであれば、事業部と渡り合えるだけの権限委譲も欠かせないとも考えられます。

現場で数字を作り上げている部署の責任者に、「そんなことをしたら目の前の数字を失う。それでもいいのか?」と問われたときに、それでも実行するべきだと言えるだけの覚悟と権限を、今のDX責任者が持っているのかという話です。

一方、別のアプローチの仕方としては、むしろそうした現場の方々に社内のDXの任を与えて、全社的にサポートをするというやり方もあると思います。ただし、現場の施策は短期的な利益を優先しがちであるという傾向をしっかりと認識した上で、実行する必要があるでしょう。

いずれにせよ、トップが思いつきのように現場に丸投げして成功するほど簡単なものではないということを、考えさせられる調査結果でした。

顧客不在のDX?

ここまで上位に挙げられた課題リストを眺めてきましたが、当初予想と異なる、とても気になったデータがあります。

それは、「変化する顧客への対応」という項目が、最下位だったことです。

これはとても意外でした。

参加者の皆さんの立場になって解釈をしてみると、「まだ顧客へのサービスへのテクノロジー応用というレベルにまで達していない。まずは社内から始めねば」ということだったのかもしれません。

はたまたコーポレート系の担当者からすると「It's not my business」だったか、ある程度既存のオペレーションの枠組みで回せているから、すぐに対応しなくても良いという認識だったのかもしれません。

当初の私は、上位にこの項目が入ってくるだろう、と予想していました。

なぜなら、OMO時代を想定して顧客へのオムニチャネル行動に対応していくことの重要性は、ガートナーのMarketing Prediction for 2021 and beyond をはじめ様々な調査機関、メディアでも語られていることです。また、何よりも、顧客のために行動することはハレーションを起こしやすい組織内部を動かす最もリーズナブルなアプローチだと思ったからです。

私の知るある経営者は、ブロックチェーンの技術導入にあたって、常に顧客にどういうメリットがあるのか、ということをしつこくその技術を提供するスタートアップに確認しながら、社内を動かされていました。

このアプローチ方法は、例えテクノロジーに精通していなくてもDX推進が可能であることを証明していますし、「それって結局お客さんのためになるんだっけ?」とシンプルに問うことが、経営リーダーの仕事なのだと改めて気づかされた瞬間でした。

改めて、このDXという企業変革にとって重要なことは、DXが最終的に顧客にどういった便益を提供してくれるのか?という疑問に全てのステークホルダーがシンプルに答えられる状態が作れているのかが、その成否を分けるのではないかと思いました。

さいごに

上記のような簡単な考察を通じて、「DXが最終的に顧客にどういった便益を提供してくれるのかにシンプルに答えられるか」が大事なのではないか。という問題提起をさせていただきました。

文字に起こしてみると、「そんな当たり前のことを何を今さら言ってるんだ」と思われるかもしれません。ただそんな当たり前のことが、様々な課題意識の中に埋没してしまい、見過ごされているのが現状なのではないかと思います。

こうしたことが起きてしまう背景には、短期的に取り組むべきことと、長期的に取り組むべきことが同列に語られていることや、DXを通じてできることと、今の会社の成長ステージに合わせてやるべきことが混同されていること。デジタルへの苦手意識から、デジタル化を通じて達成できることが過大評価してしまっていること、などがあるのではないかと推察します。

改めて、DXでできることと、やるべきことを時間軸と合わせて整理し、自社のステータスとDXが事業に与えるインパクトを考慮しながら優先順位を決めることが、遠回りに見えて、一番の近道になるのではないでしょうか。

以上、長々と3回に渡ってお話させて頂きました。DXトピックを通じて、再度自分たちのお客さんとの関係について考えるきっかけになれば幸いです。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

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