見出し画像

マーケティング戦略の肝〜STP分析〜

こんにちは。今日はマーケティングを学び始めた初学者及び実務者が陥りがちな罠、いわゆる「基本のキ」にあたるセグメンテーション及びSTP分析について解説したいと思います。

マーケティング初学者が陥りがちな罠

マーケティング施策を考えろと言われてやりがちなのが、いわゆるマーケティング・ミックス(4P)と呼ばれるフレームワークに当てはめて「いきなり」アイデアを考え始めるというパターンです。

4PというのはProduct(製品)・ Price(価格) Place(場所) Promotion(販促)の頭文字を取ったフレームワークの呼称です。これは具体的な施策を考える際によく使われますが、このアイデアを練るパートに手持ちの時間の大半を投入すると、必ずある問題が起きます。

それは「アイデアはたくさん出たけど、どれが一番効果的そうかわからない」という問題です。

その結果、やれそうなものからやる、というリソース・ベースでの判断が優先され、いつの間にかマーケティングが本来あるべき投資活動ではなく、一か八かの投機活動になってしまうというのがよく見る風景です。

私のクライアントさんや生徒さんからも、「うちのマーケティング部署は、社内の他部門(特にファイナンス部門)と相性が悪い」という声をしばしば聞くことがありますが、その背景には本来投資活動であるべきマーケティングがそう見えていない、というプロセスの問題があるのかもしれません。

話が逸れましたが、では正しいマーケティング施策を選ぶためにはどうすれば良いのでしょうか?

アイデアを生むことより大事な「よいアイデアを選ぶ方法」

先に結論を言ってしまうと、「顧客像」をクリアにすることが重要です。

え?そんな当たり前のこと?と思われるかもしれません。が、事業を行う者にとって顧客が誰なのかを決めることは、勇気のいる行為です。なぜなら、それを決めるということは、それ以外の顧客を切り捨てることだからです。

現場で起きがちなことは、特に想定顧客の掘り下げをすることなく、実在しないマス・ターゲットに向かって具体的な施策を考えるということです。結果、顧客不在のマーケティング戦略ができあがります。

ここで登場するのが、マーケティング戦略の肝となるSTP分析です。Segmentation(セグメンテーション)・Targeting(ターゲティング)・Positioning(ポジショニング)の頭文字を取った本フレームワークは、顧客の属性・価値観等を掘り下げる顧客像をクリアにすることで、効果的なマーケティング・ミックス(4P)を導き出すのに使えます。

セグメンテーションから始まるパーソナリゼーション

例えば、あなたが「新しいテーマパークを作って売り出せ」というプロジェクトのリーダーに任命されたとしたら、テーマパークに来てくれそうなお客さんは誰だと考えるでしょうか?

まず、そもそもエンタメ全般に興味を持たない人は対象外にするでしょう。テーマはなんでも良いがジェットコースターのようなエキサイティングなものは好き、という人もいるかもしれませんが、世界観以外だけの要素で広くお客さんを満足させるのは至難でしょう。

ではエンタメ好きなら誰でも良いかというとそうでもありません。映画が好きな人、ゲームが好きな人、アニメが好きな人、昭和レトロが好きな人、鉄道好きな人もいます。エンタメという言葉自体、皆さんなりに再定義が必要になるかもしれません。また、毎日のように好きなエンタメを追いかけている人もいれば、月に1度程度しか見ないという人もいます。

このように多様性に満ちた市場の中で、国境をひくように同じようなニーズや性質を持つグループに分けて考えることを「セグメンテーション」と呼びます。そしてこの切り分けたセグメントから、一つまたは複数の塊を対象顧客として選び出すことを「ターゲティング」と呼びます。

このセグメンテーションの具体的な方法に関して、よく使われるものは「地理的変数」(エリア、都市の規模、人口密度、気候など)や、「人口動態変数」(年齢、性別、家族構成、所得、職業、学歴、宗教など)といったものです。

ただこの2つの変数だけでは、ターゲティングの精度が落ちる懸念があります。例えば、現代のようにインターネットの広がりで地方・都市の情報格差が縮まり、高齢者も若者のようにデジタルの消費活動を行うような多様化した社会の中では、エリア・性・年代での分け方だけでは正確に顧客像を描くのは難しいですよね。

そこで「心理的変数」(社会階層、ライフスタイル、性格など)や、「行動変数」(購買頻度、購買動機、使用経験など)といったデータをベースにセグメントを作ることも有効だと考えられています。トヨタがプリウスを売り出した時に何よりもユニークだったのは、「環境志向/エコカー」というキーワードを庶民からハリウッドスターにまで属性を超えて浸透させることに成功したことでした。これはライフスタイルという心理変数を軸にセグメントがされたと予想できます。

当時、私の母もプリウスに乗っていましたが、普通の主婦とジョージ=クルーニも乗っていた(かもしれない)車が同じ、という現象は後にも先にもこれが初めてだったに違いありません。これが心理変数を使うことの威力です。

いずれにせよ、セグメンテーションを行うことの最大のメリットは、顧客インサイトと呼ばれる顧客の中にある無意識のニーズを把握し、それをベースに競合とは全く異なる形で個別のアプローチ(パーソナリゼーション)=「ポジショニング」を可能にすることです(ここは別の機会に具体事例も合わせてお話しできればと思います)。

このように、Segmentation→Targeting→Positioning(STP)というプロセスを経て顧客像がクリアになって初めて、そのターゲットに響くであろう4つの視点からの施策=マーケティング・ミックス(4P)を考えることが可能になるのです。

さいごに

マーケティング戦略の肝となるSTP分析についてみてきました。顧客像をクリアにすることは、どのマーケティング教科書でも書かれていることですが、口で言うほど容易いものではありません。

実務の世界では、トライ&エラーを繰り返すことでよってのみ正解に辿り着くことができると考えます。映画の本場 米国ユニバーサルスタジオから輸入されたUSJはもともと「映画ファン」のためのテーマパークでしたが、日本の「映画ファン」市場の大きさは米国ほどのサイズになく、事業としてはディズニーランド/シーに遠く及ばないものでした。

この「映画ファン」というセグメントを広くアニメ・ゲーム・小説も含む「エンタメファン」に切り替え、ハリーポッター、マリオ、FFやワンピースといった日本の代表的コンテンツを取り入れる決断をしたことが、今のUSJの成功要因の一つになっていると言われています。

成功するマーケティングとは、顧客との対話の先にあるというのは、今も昔も変わらないということでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?