生きることを諦めた#02

生きることを諦めた人はどうなるか?
死んだように生きていく?
どこか生まれた場所から遠く離れる?
自殺企図?これらのどれもが僕には当て嵌まらなかった。
どうしたか?じゃなく、どうなったか?
そう、眠りについた。永遠の眠りに。
思春期と呼ばれる時分、悲しいこともなく、寂しいわけでもない。家庭や学生生活でたいして困ったことも無い。教師や親に何かを無理強いさせられる訳でもなく、兄弟にも恵まれている。でも漠然と生まれた得体の知れない何か。
実際に何をするわけでもないが、それが自殺願望と名のつくものということをやがて知る。
四季が移ろい、それを象徴している
その季節の折に用意されたかのように咲き誇る花たち。それを眺めるたびに
憂鬱だった。花見らしい花見なんてしたことがない。テレビに映される、酔って
迷惑行為に走る人達。だいたい何が悲しくて春なんて名ばかりの雪も降ったりすることもある時期に、陽も射さない時間から、ブルーシート広げて昼頃に
来る人間の為に場所取りなんてしなくちゃならないんだ。そこまでしてどうしてもやりたいイベントか?ただただ悲しいだけだ。いい大人が酒を飲んで騒ぎたいだけだ。時折、明らかに未成年と思われる年頃までお決まりの安いビールもどきを煽っている。あんな不味い水にお金払うくらいなら、炎天下で飲み物買い忘れて散歩に出てやっと見つけた公園の水に倍以上の価値を感じる。
そんな時ほど、無限と思われる勢いで放出される水。あんなにうまいものはない。ビールにはなぜあんな味付けをするのか。大人になるに従って色んなことから興味が薄れていく。鈍感になってしまう。いつしか、あんな苦みに救いを求めて、溺れる。

いつも友人と集まり汗を流したバスケコートのすぐ傍のベンチにビールを片手に佇む中年のおじさんは言っていた。
「酒の味なんてガキの間に嫌って言うほど飲んで覚えとけ。」と、
「どうして?子供は飲めないよ?」と返すと、「大人になってから酒を覚えたやつなんて、ロクなやつがいない。」と嘲笑していた。
「これはお前たちに言っているようで自分に言っているんだ。これも含め
大人の言うことなんてアテにしちゃいけない。大人も元々は子供で20になってもガキだと上の人間に言われ、30過ぎてもこれからだ、なんて言われ、
40過ぎたらおっさんなんて呼ばれ、社会の理不尽さに揉まれて夢なんて気がつけば
忘れていて、思い出した頃にはもう遅い。なにもかもが遅い。生まれた時点で環境で大体の人間が成れるものが決まっている。少年、お前たちは夢を忘れるなよ。」と物憂げに笑っていた。僕らは返す言葉が思いつかなかった。
その日を境にその人に会うことはなくなった。
色んなことを諦めていった大人たちに僕はよく出くわした。
医者じゃなく医療事務となった人。
作家じゃなく図書司書になった人。
ミュージシャンになれずスタジオや楽器売りのスタッフになった人。
人生、諦めも肝心だ。それは成りたいものに成れなかった自分を
正当化するための言葉でしかない。
かと言って成りたいものになれた人間は?
幸せか?不幸ではない、でも幸福か、そればかりではない。
経験してきてわかること。それ故の苦悩も伴う。
それでも追いかけた夢が崩れ去っていく
目を覚ましたら、全て終わりになっていたという
やりきれない感覚、誰を責めることもできない。
呪うなら憎むなら、自分だけ。
目を覚ますことすら、奇跡だった。
こんな僕をまだ待ってくれていた家族がいた。
僕にも家族がいた。
目をさますことがなければ、僕らは永遠に家族だった。目をさました、その日を境に僕らは家族から、知り合い、他人、まるでそんなふうに関係性は
移ろっていった。そう、四季のように。
もう戻ることは出来ない。何を言っても、何をしても、余計に溝が深まるばかりで。

泣くことでこの現在が良くなる。
そんな都合のいい話はロードムービーのなかだけでしか起こり得ない。

じゃあどうして?何の為に僕は目を覚ました?
幸せとは到底呼べない日々に自ら舞い戻る。
合理性や整然性、科学や医学
発展すればする程に 自然 から
遠ざかっていく。
どうして人間は僕はこんなにも
非合理的な生き物なんだろう。

この涙はどうして、止まらないんだ。
拭えば拭うほどに溢れる。
眩しい夏の空の下の公園の水
なぜか
あの光景が重なって、それは僕から離れようとしなかった。
ひとつの生を繋いでいく象徴。
僕はまだ泣くことができる。生きることを選べる。
もう諦めない。僕は僕を諦めない。
例え今何かを諦めたかのように捉えられてもいい。
今、欲しいものが手に入るならそれまでの全てでも捨てよう。
それほどに欲しい明日があるなんて、どれだけ恵まれていることか。
頑張ってね、なんてまだ言われるようなら今の三倍は言われずともやってやろう。

生きることをもう二度と諦めたくない。

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