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【続編】精神科救急医療実録2 第6話 それでも、あなたは自殺を心から止めれますか?

 今回は、続編として精神科救急医療実録2第6話を、お伝えできればと思います。

報告

 主治医にAさんとの面談内容を報告しました。

 主治医は、内容を確認すると
 「ボーダーっぽいね」
 と、所見を伝えてくれました。

 私は資格的に診断をすることはできませんが、意見は一致していました。

 主治医が言う
 「ボーダー」
 とは、
 「境界性パーソナリティ障害」
 のことを指します。

【境界性パーソナリティー障害】
 対人関係の不安定性および過敏性、自己像の不安定性、極度の気分変動、ならびに衝動性の広汎なパターンが特徴

 境界性パーソナリティ障害患者は孤独に対する耐え難さが内在し、見捨てられることを避けるために死に物狂いの努力を払い、他者が救助または世話をしてくれるよう仕向ける形で自殺のそぶりをみせるなどの危機を生み出す

治療方針

 Aさんが、
 「境界性パーソナリティー障害」
 で、あるとするなら、看護職員のみならず、他の患者を巻き込んだトラブルになることも予想されました。

 主治医は心配そうに
 「ボーダーなら、病棟が大変だね」
 「そうですね。短期間で解決できる問題ではないですし...」
 「治療はスキーマ療法でいこう」
 「わかりました。短期的なアプローチはどうされますか?」

【スキーマ療法】
 認知行動療法、愛着理論、精神力動的概念、および感情焦点化療法を組み合わせた統合療法

 この療法は、限定的な育て直しにより、思考、感情、行動および対処に関する生涯の不適応パターン(スキーマと呼ばれる)、感情を変化させる技法、および治療的関係に焦点を当てる

 主治医と相談の結果、長期的な治療方針として
 『スキーマ療法』
  ※早くても数ヶ月〜数年の期間が必要なため、退院予定日までに効果が認められない恐れが高い

 短期的な方針としては
 『オペラントの条件付け』
 で、不穏行動の改善を図ることになりました。。

【オペラントの条件付け】
 認知や行動面へ働きかける治療法の基本的なモデルで、行動主義心理学の基本的な理論であり、
 「人間の能動的な行動を促すためのモデル」
 でもある

 つまり、自主性や主体性を育むことを目的にした教育手法の基本モデルとも言え、オペラントの条件付けを基本モデルとして発展したのが、認知行動療法と言われてる

 「オペラント」
 とは、自発的な行動を意味する
 「オペレーション(Operation)」
 をもじった言葉とされる。

 ある一つの行動というものは、
    刺激   「どのような条件や状況のとき」
    反応   「どのような行動が見られ」
 反応の結果「どのようなことが起きたのか」
 の3つに分解することができる

 オペラントの条件付けでは、報酬や罰といった
 「反応の結果」
 つまり、
 「行動の結果として得られるものや与えられるものに適応して、自発的に行動を行うようになること、つまり、"反応"できるようになること」
 を、
 「学習すること」
 として理論づけている

 現在では、動作や運転などの技能訓練、嗜癖や不適応行動の改善、障害児の療育プログラム、身体的・社会的リハビリテーション、e-ラーニングなど、幅広い領域で応用されている

条件付け

 条件付けの報酬と罰には、主治医と相談し
 ・妹さんとの面会
 ・福祉施設の入所
 を用いることにしました。

 つまり、
 『妹さんとの面会』
 『福祉施設の入所』
 を報酬とした目標を設定し、
 『不定愁訴』
 『希死念慮』
 『自殺企図』
 などの行動が認められた場合、罰として、目標達成日が遠のく、という枠組みを設定し、行動変容を試みました。

 しかし、このアプローチは問題点があります。

 それは、不定愁訴や希死念慮、自殺企図といった言動が、
 『境界性パーソナリティー障害の見捨てられ不安からくる感情なのか』
 『他の疾病から生じる症状なのか』
 を、どうやって見分けるか、ということでした。

 そこで、Aさんの不穏な行動の理由を
 『看護師と話しがしたい』
 と仮定し、仮説を立てました。

仮説

 『看護師と話しがしたい』
 を分解し、
 『人と話しがしたい』
 『寂しいから』
 とし、Aさんへの対応を事前に定め、同意を貰います。

 決定した支援内容は
 ・「話しがしたい」と言った場合は5分間の面談を実施
  ∟手が空いてから
 ・面談の時間は2時間以上開ける
 ・不定愁訴の場合は頓服を服用(プラセボ"でんぷん粉")
 ・希死念慮、自殺企図は保護室対応
 ・私との交換日記の実施(同日返却)
  ∟病棟への不満も書ける様に
 ・ギブアップカード
  ∟支援を中止し、翌日フィードバックする
 ・上記の対応に要す基準時間を10分/1回とし、10分以上経過した10分毎に面会日と施設入所日が1週間延びる
 といったものになりました。

 そして、まずはテストとして1週間試してみることになりました。

 精神科救急医療実録2 第7話へ続く

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
 このコラムは私の個人的な知見に基づくものです。他で主張されている理論を批判するものではないことをご理解いただいたうえで、一考察として受け止めて頂き、生活に役立てて頂けたらと思います。

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