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これが俺の“J-JAZZ”道 〜熊谷ヤスマサ『Last Resort』リリース記念Interview〜

11月11日、世間ではポッキーの日、一部界隈では「ベースの日」ということでSNSが賑わっていた最中、ジャズシーンに一際目を引くジャケットの
アルバムがリリースされた。
ピアニスト熊谷ヤスマサ

『Last Resort』

がそのアルバムだ。
もはやレギュラートリオといって過言ではない、
古木佳祐(ベース)と山田玲(ドラムス)にトランペッターの広瀬未来を迎えたカルテット編成。

90年代〜2000年代のヒップホップのアルバムでありそうな(具体的にこれ!というイメージが出てこないのも、もしや狙いなのか)、強面の男たちの表情のインパクトさながら、中身はジャケットそのままの荒々しさかと思ったら、「洗練」という言葉の方がフィットする高純度のジャズアルバムに仕上がっている。ラテンフィーリングも押し付けがましくなく、いたって自然体に織り込まれた素晴らしいアルバムだ。

12月9日より、各種ストリーミングでも視聴できる。

“Happy New Year”

熊谷は自身のYoutubeチャンネルでも“レジェパク”と題して、ハービー・ハンコックやマッコイ・タイナーなど先人の偉人達の奏法エッセンスをタイトルのキャッチーさに反して、至極真面目に分析、解説。硬軟織り交ぜる姿勢は日々の発信からも表れている。
とはいえ、さすがに今回のアルバムのジャケットと中身の良い意味でのギャップに驚かされた。今回、このように大変興味深い作品をリリースした熊谷にオンラインインタビューを敢行。

最新作『Last Resort』の制作過程や、作品内容はもちろん、YoutubeやTwitter、ブログなど独自のSNS展開をする熊谷のSNSとの付き合い方についても聞いてみた。そして、熊谷が見据える“J-JAZZ”の未来とは!?それではどうぞ熊谷節炸裂のインタビューを下記よりお楽しみください。

プロレスのポスターみたい


-5年ぶりのアルバムリリースおめでとうございます。
タイトルの『Last Resort』とは“最終手段”という意味だそうですが、アルバムライナーノーツでCDが売れない、という話をミュージシャン間でされると書かれていましたよね。
デジタル配信が主流となっている昨今、熊谷さんにとって、CDという形にしてリリースする事へのこだわり、意義とはどういったものなのでしょうか。

日本はストリーミングの普及が遅れていて、CDを買う層がまだまだいると言われているのもありますし、まあ、レコーディングしたらCDを作ってライブで売るって言うのも根強くあるんで、やっぱりCDも作っちゃいました。その代わり、ジャケットはデザイナーの和田君(※ギタリストの和田陽介)と何度もやり取りをして、かなり手の込んだモノを作りました。
主にアメリカ南部のラッパーのジャケットを参考にしたのですが、和田君は僕と年齢も一緒で同世代ならではの、その辺の趣味が意気投合した部分もあって、根気強く細かい要望にも応えてくれました。おかげさまで身近な人達からは、かなり反響がありましたが「プロレスのポスターみたい。自分で作ったの?」という声がけっこう多く、和田君すまない!って思ってます(笑)。せっかく形に残るモノを作ったので、ぜひ皆さんには“現物”を所有してもらって、部屋に飾って貰えたら嬉しいです。

みんなで口ずさんでくれたら嬉しいな

-やはりラッパーのアルバムからヒントを得ていたのですね(笑)。本当にインパクトが大きいです。一度見たら忘れられない、という掴みの部分では大成功だと思います。
さて、掴んだ所で肝心の(笑)、アルバムの中身についてお伺いしていきます。今回、初めてアルバム曲順にレコーディングしたそうですが、熊谷さん自身がCDライナーに書かれている、1日の始まりから終わり、というよりも私は実際のライブのセットリストのように感じました。
もちろん最初からとても素敵なのですが、終盤にかけてテンションが上がっていくような印象を受けました。実際、今回のようにレコーディングしてみて、いつものレコーディングとの違いを感じましたか。

セットリストのように、というのは、まさにその通りで、ライブのセットの始まりっぽい曲、中盤っぽい曲、終わりっぽい曲というのが自分の中であって、実際そういう並びになってます。
最後の2曲は続けて録っているのですが、いつもと違う異様な緊迫感はありましたね。多分、録り直すのはダルイよっという気持ちをみんなで共有してたのかな(笑)。普通レコーディングはウォーミングアップ的にやり慣れた曲から録ったり、難しい曲は序盤に終わらせるとか、手法は人それぞれですが、今回はレコーディング前の2日間をこのバンドでライブをしたので、そのままの感じを録れたらいいかなと思って、そうしてみました。結果的に非常に良かったなと。

-『Last Resort』には熊谷さんのピアノの新たな魅力もたくさん詰まっていると思います。
今回はトリオとは違い、ホーンがフロントに入った上での演奏となりましたが、どういった点を意識しながら演奏されましたか。

ソリストが1人増えるだけで、曲のソロ回しや構成のバリエーションが増えるのでむしろ楽な部分はありましたね。演奏中はやはりソリストが中心になるので普段と変わらないですね。
3人(広瀬、古木、山田)とも、ボクの意図を色々察してくれるのでホント楽でしたね。
普通、人数が増えるとなにかとレコーディング時間は伸びるもんなんですが、今回はスムーズに行き過ぎてあっさり終わってしまった感すらありましたね。もっと録りてーなみたいな(笑)。

-ライブした後の余韻というか、そういう感覚がレコーディングにも活きたのかもしれませんね。
今回のアルバムは8曲中6曲が熊谷さんのオリジナルですが、大晦日のライブ前にできた曲(“Happy New Year”)や、日本のキャッシュレス化が遅れている事を表現した“Dough”など、日常生活の中で曲のアイデアが生まれている印象がありますが、熊谷さんは日頃から作曲アイデアを探している印象を受けました。作曲には何か共通するテーマというものがあるのでしょうか。

“Dough”

多分僕は日本でトップランクに入る、“曲名の適当な人”だと思います。全曲タイトルは後からつけていて、ほぼ意味は無いのですが、何度も演奏していると意外とそのタイトルの雰囲気に聴こえてくるのが不思議で、それこそが「音楽の力」というものですかね。
作曲についてですが、僕は曲を書く時は最初にリズムのフィールを決めます。スイングとかラテンとか。それでテンポを決めて、後はひたすら試行錯誤ですね。主にメロディーを作ってコードやキックやベースラインを足していきます。ジャズってだけでマニアックなんで、メロディーはせめてキャッチーにしたいと思っていて口ずさめる感じにはしているので、高校で流行って、クラスのみんなで口ずさんでくれたら嬉しいな。


-高校の教室で『Last Resort』の曲が流れたら、J-JAZZとしては快挙だと思います。
熊谷さんは、コンテンポラリーなラテンジャズがお好きだという事ですが、お好きなラテンジャズのアーティストや作品があれば教えてください。

ダントツでダヴィッド・サンチェス(ts)ですね。多分、彼のリーダー作は全部聴いてますし、十数年前に来日した時も聴きに行きました。お客ガラガラで、聴きに行ったボクと仲間内だけバンドの目の前でブチ上がっておりました。後はミゲル・ゼノン(as)とかヨスバニー・テリー(as)もかなり聴きました。作曲の時はとても参考にしてます。

広瀬未来、古木佳祐、山田玲について

-今回の大きな特徴として、ご自身のリーダーとしては初のホーン奏者参加のアルバムですね。
トランペッターの広瀬未来さんが参加されていますが、ニューヨーク時代からの知り合いである広瀬さんとは、アメリカでどういう経緯で知り合ったのでしょうか。また、アメリカ在住時の際の広瀬さんとの印象的な出来事、想い出があれば教えてください。

ちょうど僕が帰国する数ヶ月前くらいだったと思いますが、ニューヨークにあった「Cleopatra's Needle」というお店のジャムセッションで、彼を何回か見て、「最近よくいるな、この日本人」って思っていて。だけど、人相悪いから特に話さなかったのですが、ある日知り合いの飲み会で彼がいて、「広瀬未来です!」ってめちゃめちゃハキハキ挨拶してくれて、人相悪いのに、すげーイイ奴だなってなったのが最初の絡むキッカケですね。その後、僕はすぐ日本に帰ってしまったので、むしろ日本に帰国した後に仲良くなっていきました。

-今回のジャケットでも広瀬さん、見事な表情です(笑)。熊谷さんが感じる広瀬さんの演奏の魅力を教えてください。

まだ彼がアメリカに住んでいた頃、日本に帰って来るたびにライブによく誘ってくれたんですよ。
そしたら、ニューヨーク時代は知らなかったのですが、彼のオリジナルがめちゃくちゃイカつくてカッコいいんですよ。そんで演奏は皆さんご存知の通り全曲爆発。なんじゃコイツっ!ってなりましたね。
そんでアメリカでの土産話が、またモチベーション上がる話ばかりでホント憧れましたね。アメリカで長年活動するのはハンパない事ですから、純粋に尊敬です。演奏面において具体的に言うと、フレーズがジャズの言語をちゃんと勉強したのが分かる感じですかね。僕はコードに対して緻密なアプローチをするタイプの人が好きなので、彼なんかは、さすがって感じですよね。そんでなんと言ってもグルーヴですね。
大半の日本人はグルーヴが浅くて、欧米のプレーヤーとやるとハマらないのですが、彼はもう、グルーヴがアメリカですね。米国ですよ。そんで人柄もめちゃめちゃ良くて。こんな人、本当にいるんですね(笑)。

-レコーディングメンバーでのライブ映像-


-レギュラートリオとして長く共演している古木さんと山田さんとついにレコーディングとして形を残すことになりましたね。
おふたりと共演している時に熊谷さんが感じる、
それぞれのすごさを教えていただけますか。
古木さんについてはライナーで「あら、いいねこのベース」と書かれてましたが、どういう面が良いと思ったのかと知りたいなと。

そうそう、古木君は最初ライブで共演した時、なんかいいなと思って。確か“Monk's Dream”をやったんですけど、終わった後、彼がブラッド・メルドーのレコーディングでラリー・グラナディアがこういうアプローチするんですよみたいな話をしだして。僕はそうゆうの大好きなんで、いいなって思って、いまだに一緒にやってますね。彼は家ではピアノで色々音を取って研究してるらしく、ピアニストとしてライブ出来るくらいの腕前なので、かなり音楽わかってますよね。

-山田さんについてもルックス面(反社、半グレ…笑)ではなく、具体的な演奏面についての熊谷さんの印象を教えてください。

山田君は、ルックスこそ最初は小学生みたいな若者で、いつの間にか洗練されて“あの域”に達したのですが、演奏の方は当時会う度に良くなっていったんですよね。彼の中で何か掴んでいっているんでしょうね。特に思ったのが海外のミュージシャンと日本人半々出演するコンサートに彼が抜擢されて出演したのですが、そのコンサート後に共演したら、ガラッとグルーヴが深くなった感じがして、若干焦りましたよね。
あと2人に共通しているのは、アンサンブルでもバンドを良く聴いてるし、一緒にやってる感が良いですよね。
まぁ、なんと言っても2人の魅力は、一緒にYouTubeで漫才やコントみたいなことを真剣にやってくれる所ですかね。本当に逸材ですよ。

世界に発信しているんだ!!

-なんといってもの魅力はそこですか(笑)。
でも本当に息が合っているということなんでしょうね。
本題に話を戻しまして、この作品のレコーディング(2020年2月前半)の後に新型コロナウィルスの影響が日本でも強く出てきましたが、この作品の制作に影響はありましたか。
またご自身の活動への影響にも、教えていただける範囲でお答えいただけないでしょうか。

レコーディングは2月前半だったのでその時点ではそこまで関係無かったのですが、コロナの影響でジャケットの撮影とかが押しに押して、結果あのジャケットになったので、結局良かったのかな(笑)。活動への影響ですが、ネガティブな影響は皆さんお察しの通りですが、音楽的に良かった点もあって、3月あたりの自粛中にすごく練習出来たし、特にTwitter用にバトンで短い演奏動画をみんなUPしていたと思いますが、あれが回ってきた時、いざ撮り出したら自分の演奏が気に入らなくて、3日くらいかけて撮り直し続けたりして。結果的にシビアに自分の演奏を追求できて良かったと思いましたね。

-先ほど、Twitterの話題が出ましたが、熊谷さんはほぼ毎日ブログ更新、Twitterでは「#JJAZZあるある」というハッシュタグもJ-JAZZ界隈で話題になりましたよね。私の主観ですが、かなり独自のSNSツールの使い方だと感じています。熊谷さんにとってのSNSツールはどういう存在でしょうか。

僕自体が無名なので、なんでもいいから見てくれってとこはありますね。
あと、小学校とかでクラスに面白い奴っていたじゃないですか。それのジャズバージョンになりたいって願望はありますね。
SNSは無料で世界中のあらゆるジャンルの人と交わる場所なんで、そこで何か面白いこと言いたいなっ、ていう。
ホントはもっとお笑いの要素を真剣に取り入れなければならないのですが、あまり出来てなくてすみません。あ、誰もそこ困ってねーか。

-困ってません(笑)!あと、面白いなぁと思うのは、ご自身のYoutubeチャンネルで「レジェパク」と題して、ジャズピアノの偉人たちの奏法解説を継続的にされていますが、その経験は近年のご自身の演奏に影響がありますか。

これがけっこう影響あるんですよ。前からよく思ってたのですが、大学(※熊谷は2017年より国立音楽大学非常勤講師を務めている)で生徒に教える時、自分も反復して弾いたりするんで、けっこうフレーズとかコードを覚えられるんですよ。それと全然結果に出て来ないんだけど、意識高い系の自己啓発の本などを何十冊も読んで、アウトプットすると記憶が固定されて身につくと言われてて、本来ミュージシャンのアウトプットはライブなりレコーディングなりだと思うのですが、YouTubeでレッスン動画としてアウトプットするのもアリだなと思って続けてるのですが、やっぱり、いちおう人に見られると思うとそれなりにキチンとしてからUPするようになって真面目にやるので、結構身につくんですよ。ある意味オススメの勉強法ですね。


-熊谷さんは常々、日本のジャズシーンを「J-JAZZ」と呼んでいますが、実際にアメリカに滞在していた熊谷さんにとって、日本のジャズシーンとアメリカのジャズシーンの違いはどのような点だと思いますか。

僕がアメリカにいたのは2003年までなんで、今では色々変わったとは思いますが、当時ロバート・グラスパーがHip Hop Jam Sessionってのやってて、ちょいちょい行ってたのですが、即興でループを作ってラッパーがフリースタイルをやったり、楽器はソロ回したりで3時間くらいずっとやってるんですよ。その辺のサウンドがそのまま進化して作品になったのがExperimentの『Black Radio』だと思うんですよ。
ああ、こうやってアメリカから世界に広がる音楽が出来てるんだなって当時思いましたね。
で、J-JAZZが当時のアメリカに影響を与える事はなかったわけで、アメリカから発信されたものをこっちでも追いかけていたと思います。
ところが最近YouTubeやSoundcloud、Apple Music 、Spotifyなどで世界中の音楽が手軽に聴けます。かなりディープなエリアにあるであろうハードコアな教会のゴスペルもYouTubeに無限にアップされてます。
僕は今まで聴いたことなかった、中東、アフリカあたりの音楽なんかも、かなり聴くようになりました。つまり世界の距離が近くなって、世界中の音楽が混ざりやすくなってきたと思います。
ここで我々J-JAZZもクオリティの高いものを発信できれば少しでも世界に届くチャンスがあるのではないかなと。まあ、その域に達するにはとてつもない鍛錬と経験、クリエイティビティーが必要なわけで結局努力あるのみ!なんですが、面白い時代になってきたなって思いますね。ということでずっとアメリカを追っていたJ-JAZZも今や、世界に発信してるんだ、この野郎っ!!て心持ちでいっちゃっていいんじゃない?

たしかにインターネットの普及で時間も国境も容易に越えれるようになって久しいですが、音楽の世界ではさらにそれが様々なツールによって進んでいますよね。“J-JAZZ”から世界のシーンを揺るがす作品がどんどん出てほしいですね!熊谷さんの今回の『Last Resort』がその先陣の一つとなる事に期待しています。

<『Last Resort』配信、CD販売情報>

・Spotify

・Apple Music

・amazon

・ディスクユニオン

<ディスクレビュー記事>

・The Beat Goes On

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ジャズライター/ジャズフリーペーパー「VOYAGE」編集長。寄稿媒体▷ジャズ批評/JAZZ JAPAN/kobejazz/JAZZ TOWN KOBE/The Beat Goes On etc…