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恋は、3年で冷める

「恋は、3年で冷める」はきっと本当だ。3年が経った後も同じ気持ちでいられる恋は、恋ではなく、愛である。

ずっと彼を好きでいられる恋がしたかったとは思うものの、私には到底無理だった。

先日、4年近くお付き合いした恋人と別れた。別れの原因に大きな出来事はない。小さな不満が徐々に膨れ上がって、やがて蒸発して消えた。

一緒に過ごしていく中で、2人の将来に先がないことを薄々感じていた。お付き合いを始めて、2年が経った頃に同性が始まり、2人の運命を大きく変えた出来事だ。同棲は一緒にいる時間がどうしても長くなりがちだ。相手のいいところだけでなく、悪いところが嫌でも目につく。一緒にいることが当たり前になって、自分が抱える感情が彼を思う気持ちなのか、同情なのかがわからなくなった。

お付き合いが始まったばかりの頃は、一緒にいるだけで幸せだったし、たまに会えるからこその新鮮さや、私が抱える好きが本物であることに確信を持てた。長く時間を過ごせば過ごすほどに、一緒にいられるありがたさや、彼に対して新鮮な気持ちを持てなくなっていったような気がする。

どんな出会いにもいずれ終わりが来るものだ。花は散り際が1番美しいし。綺麗になるからこそ、育んできたものを誇りに思える。時間が流れることに身を任せるか、彼との関係にピリオドを打つか。1年かけて、考えた結果。彼との関係をこれ以上維持しても、きっと幸せにはなれないという結論が出た。

***

彼との別れ話は、私たちがお付き合いを始めた当初からずっと通い続けている近所のカフェだった。普段なら一緒にカフェに向かうのだけれど、今日は彼が仕事だったため、1人でカフェへと向かった。

夕日が沈みゆく中自転車を漕ぐ。手を繋いでカフェに行ったこと、店員さんと仲良くなったこと、私の思いが本物だったこと、これまでの思い出が走馬灯のように蘇り、涙が出そうになった。

「ごめん、待った?」
「ううん、今着いたところだよ」

彼は嘘をつくときに目を逸らす癖があって、すぐに嘘だとわかった。私に気を遣わせないように嘘をつくところは、彼のいいところであり、悪いところでもある。最後の最後まで彼は私にやさしい嘘をつき続けた。彼の優しさが好きで嫌いだった。

「いらっしゃいませ〜!あら、まなちゃんとゆうくんじゃないの」
「こんばんは」
「いつものでいい?」

笑ったときに目がくしゃっとなる店員さんが私たちに問いかける。それでお願いしますと返すと、店員さんがニコッと笑って、カウンターに戻った。お付き合いが始まった当初から通い続けているお店で、まさか今から別れ話をするなんて、店員さんは微塵も思ってもいないだろう。

2人を知っている人が何人もいて、もちろん応援もしてくれている。結婚というゴールは目の前にあった。周りの人は2人が結婚すると思っていたことだろう。いつ結婚するの?という言葉がずっと痛かったし、2人は本当に仲良しだねという言葉がずっと無理をしてきた2人が犯した過ちだった。

彼と別れたくない?ううん、一緒にいた事実を忘れたくないだけ。終わってしまうからこそ、一緒にいた思い出がきれいに見えるだけだよ。今日で終わりにするって決めたの。自分にそう言い聞かせて、私は彼の前に座った。

アイスコーヒーが出てきた。私はいつもシロップを半分しか使わない。彼が余ったシロップをもったいないからと言って、普段がブラックでしか飲まないのに、自分のアイスコーヒーに入れるがお決まりだ。いつもの私ならありがとうと素直に言えるのだけれど、終わりを知っているからこそ、彼の優しさが痛かった。

「じゃあ話そっか」
「うん」
「俺らが付き合ってもう4年が経つんだね」
「そうだね」

彼が思い出を延々と語る。目の前に座る彼の頬には涙が流れている。この人も泣くんだ。彼の涙を一度も見た覚えがなかった。恋が終わってしまう実感。彼と一緒に過ごした事実が、やがてもらい泣きを引き起こす。私は涙のせいで相槌しか打てない。楽しかったこと、悲しかったこと、何度も壁を乗り越えてきた。それでも結婚という大きな壁だけは乗り越えられなかった。

「俺のことちゃんと好きだった?」
「うん、その気持ちに嘘はない」
「俺もだよ。でも、今日で終わりなんだね」
「もうこの話やめよ」
「わかった」
「じゃあ。帰ろっか」

お会計の際じ、店員さんが何も言わずにニコッと笑った。きっと2人の終わりを認識したのだろう。そして、もうこの店に来ないことも。そのまま外まで2人を見送る。店員さんが深くお辞儀をして、最後に「ありがとうございました」と言った。

「恋は、3年で冷める」はきっと本当だ。3年が経った後も同じ気持ちでいられる恋は、恋ではなく、愛である。私たちは恋をしていただけで、愛を知らないままで終わった。ただそれだけのこと。同情で過ごした1年間を、無駄だと思わない。けれど、できるならば、恋を愛にしたかった。

帰路の途中で、流れ星が流れる。

次は愛になりますようにと,そっと願いを込めた。

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