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クラシックを聴き始めるには古典派から聞いた方がいいかもという話

個人的な見解ですが、クラシックに少しでも興味を持った人が、いったいどの音楽から聴けばいいのかを悩むことがあるかもしれません。長い歴史の中で様々な作曲家がおり、だれから手を付ければいいのかと考えるかもしれません。

このように迷った時に私がお勧めするのが、古典派の作曲家から手を付けた方が、ロマン派、近代と続く音楽の構造の発展をさらに理解することができる手掛かりになると私は感じています。

1 古典派以降とバロック以前の音楽の作り方の違い

バロック時代やルネサンス時代の音楽は古典派以降の音楽と作り方が違います。ルネサンス音楽では対位法の使用、バロック音楽では対位法に加え、通奏低音(低音部の旋律に数字を参考に自由に伴奏をつけるもの。通奏低音は必ず1人というわけではなく、低音部の旋律を弾く楽器(チェロなど)と和音を演奏する楽器(チェンバロやリュートなど)が使用される)などの当時の作曲、演奏様式があり、古典派以降の作曲技法とはまた違った方法で作曲されています。

J・S・バッハ フルートソナタホ短調BWV1034

パレストリーナ 泉の水を求める鹿のように

古典派以降の音楽ではホモフォニーによる作曲が主軸となりました。ホモフォニーは歌と伴奏のように、一つのメロディに対して他の楽器が伴奏を担当する構造の音楽です。

オーケストラでいえば、例えば第1ヴァイオリンとフルートがメロディを奏でているときは、他の楽器群は伴奏を担当します。次に伴奏を担当していたオーボエがメロディの担当へと移ると、今までメロディ担当だった第1ヴァイオリンとフルートは伴奏に移るわけです。

モーツァルト交響曲第40番を例に挙げてみましょう。

0:03~からヴァイオリンでメロディが奏でられ、ヴィオラとチェロ、コントラバスは伴奏を担当します。
0:16~からはメロディが木管楽器に移り、それまでメロディを担当していたヴァイオリンが伴奏にまわります。
0:23~からはまた再びヴァイオリンにメロディが移り、木管楽器が伴奏にまわります。

このようにメロディと伴奏とが代わる代わる担当を変えながら曲が進行していきます。

時代を経るにつれてホモフォニーによる音楽が主流となり、そしてその基盤、礎となったのが古典派音楽です。そして、この時代における重要な曲の形式がソナタ形式です。

2 ソナタ形式

以前もどこかでソナタ形式については解説したと思いますが、もう一度紹介しましょう。ソナタ形式の構成は以下の通りです。

ソナタ形式は提示部、展開部、再現部という3つの部分がから構成されており、提示部では2つの主要なメロディで曲を構成していきます。展開部では提示部で使用したメロディ、または素材が用いられることがおおいです。また、全く新しい素材を使用する場合もあるので、曲によって展開部の構成は様々です。最後の再現部では提示部で登場したメロディがまた繰り返し現れます。

大きく分けるとAーBーA'という3つの部分から成っており、これを3部形式というのですが、これを発展形がソナタ形式であるといえます。

そして、このソナタ形式が確立したのが古典派時代のことなので、この時代の作曲家たちはこの構造に則ってソナタ形式の楽曲を作曲していきました。

ハイドン交響曲第94番ト長調第1楽章を例に挙げましょう。

この曲は序奏とソナタ形式で作られているもので、ゆっくりな部分の序奏とテンポを速めたソナタ形式部で成り立っています。

1:16~から1つめの主要なメロディが登場します。曲を聞き進めていくとこの第1メロディが何度も繰り返されているのがなんとなくわかるでしょうか?時には転調もしながら何度か第1メロディを繰り返します。

2:26~からは2つめの主要なメロディの登場です。つまり提示部ではこの2つのメロディを主軸において構成されているわけです。

すなわち再現部でもこの2つのメロディが登場することになります。

そして、古典派時代の提示部は繰り返すことがほとんどなのでもう一度提示部を演奏して展開部に移ります。

5:31~からが展開部となります。この部分は曲によってどの素材を使うのかが分かれる部分です。出だしは提示部第1メロディを使っているがわかると思います。これは楽譜をチェックすると、それ以降は提示部で出た小さな断片的な素材が用いられていることが発覚します。今回は難しいことはスルーして、展開部では提示部の何らかの素材が使われていることが感じられればOKでしょう。

6:34~から再現部に入ります。提示部で出た第1メロディがまた登場しているのがわかると思います。また再現部は提示部をまるまる繰り返すのではなく、多少形を変えて曲が進行していきます。これは曲が冗長にならないように、変化をつけることによって音楽に彩を与えます。

7:13~からは第2メロディが再び登場します。ここでは第2メロディの扱いは控えめです。

7:29~では低音弦で第1メロディが再び現れ、それ以降は楽器を変えながら何度も第1メロディを登場させています。作品によって第1メロディか第2メロディかのどちらかに比重を置いていることが多いですが、この曲ではどちらかというと第1メロディを比重において曲を構成させていることがわかると思います。何度も何度もあちこちでこの第1メロディを登場させているので、ハイドンがこのメロディに重きを置いていることは聴いていてなんとなくわかると思います。

このように古典派のソナタ形式の楽曲は先ほどの定型に基づいて作曲されており、特に今回紹介したハイドン、モーツァルトのソナタ形式の楽曲はほとんどがこの定型に則っています。

また古典派時代の作品は和声、つまりハーモニーが明瞭で聞きやすいというところがクラシック音楽を聴き始めたいという方におすすめしたい理由の一つであります。

3 古典派以降の作曲家以外のおすすめ

時代を経るにつれて作曲技法も発展していくので、曲の構成、ハーモニーも複雑化していきます。ソナタ形式でいえばブルックナーのように提示部における第3主題の登場、ショパンのピアノソナタ第2番、第3番のように再現部において第1主題の省略など、ソナタ形式も型どおりではなく作曲家独自の発展をみせます。

また近代に近づくにつれてハーモニーの複雑化も目立ちます。近代、現代の作品はハーモニーが混沌とした作品もあり、初心者にはお勧めできません。むしろそのような作品を聞かせてしまうと、かえって「あ、クラシック音楽ってやっぱり難しいんだ」と思わせてしまう可能性もあります。

なので入門編としてハイドン、モーツァルトの作品から始めその後にベートーヴェン、そしてロマン派時代の音楽を聴き始めるのが良いと思います。
ロマン派ではメンデルスゾーンの作品はそこまで楽曲の複雑化がされていないと思うので、ロマン派入門にはよいかなと思います。またロマン派初期のウェーバー、シューベルトも聴きやすいと思います。ただシューベルトの作品は特に器楽曲では演奏時間が長いものが多いので、歌曲を中心に聞いた方がいいかと思います。音楽の授業でやったであろう『魔王』を改めて聞き直すのもいいかと思います。

日本では人気の高いショパンも、難しい構成をした作品も少なくありません。子犬のワルツのようなわかりやすい作品もありますが、先ほど紹介したウェーバー、シューベルト、メンデルスゾーンなどを聞いた後の方が曲に対する理解度を高めることができるかもしれません。時代的には後ろの方ですが、ドヴォルザークの作品はこの時代の作曲家の中ではハーモニーがかなり明瞭で聞きやすい作品もおおいです。彼もお勧めする一人です。

ドヴォルザーク 交響曲第8番第3楽章

4 終わりに

今回はクラシック音楽を聴き始めるにあたって、なぜ古典派がよいのかを説明していきました。
・曲の構成(ソナタ形式)が定型に基づいて作られていること
・ハーモニーが明瞭なこと

わかりやすい構造と聞きやすいハーモニーが多い古典派時代の作品を聞けば、初心者にとってとっつきやすいかなと思います。いきなり難しい作品を聞いて心が折れるよりはよほどいいかなと思います。これからクラシック音楽をかじってみようかなという方に参考になれれば幸いです。

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