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バロック時代における鍵盤技術、運指法、装飾音Part2

前回から続けて書いています。

フランスの作曲家、ジャン=フィリップ・ラモー(1683~1764)は『クラヴサンを弾く指の動きについて』(1724)という文献で以下のように述べています。

ラモー


ひじはいつもからだの両側で、「無意識のうちに」リラックスした自然な位置に下げなければならない。

両手の1と5の指はいつも「鍵盤の上に」置き、「まるで貼りついたように」キーと接していなければならない。2、3、4の指は常にシャープ・キーの前にあるように、曲げておかなければならない。(両手をリラックスした形でからだの両側に垂らすと、指に必要なカーブの程度がわかる。もっとも、指の長い奏者は、両手を鍵盤上に置いたときに2と3の指をもう少し曲げる必要があるだろう。)

指の動きは、「指のつけ根から始まるのであって、けっして他の個所からではない。手の動きは手首からである。もしも腕を動かす必要が生じたら、それはひじから行われる」。通常の演奏の場合、ラモーは肩からの動きをいっさい排除する。(そのような動きは両手が交差するときにだけ要求される)。1本の指が音を弾くとき「他の指が動いてはならない」。

「大きな動きは、小さな動きでは不十分なときにだけ行うべきである。手を動かさずに、ただ指を広げるだけでキーに届くとくには、必要以上の動きをしないように注意しなければならない」。

とりわけ、「いつも手が指を支えるのであって、指で手を支えてはならない。・・・けっして手の力で指のタッチに重さを加えてはならない。反対に手が指を支えることによって、指のタッチをいっそう軽くしなければならない。これはたいへん重要なことである」。この最後の点が、おそらくもっとも大切な原則であろう。ひとつの音や和音を弾くときに手首が上がると、指が手を支えることになってしまう。

クラヴサンを弾く指の動きについて(1724)

彼は「私は規則を述べるが、これらは理性に基づいているのだから、ひとつひとつ厳格に守らざるをえないだろうと思う」とことわっています。

たしかにひじの位置はリラックスした自然な位置に下げるべきことは重要だと思う。
パソコンでキーボードを打つ時も、そのような状態に近いとも思えます。ひじをあげてタイピングする人はいないですよね?タイピングするときはひじが下がっているはずです。

1と5の指、すなわち親指小指はピアノでいう白鍵の部分に接しているべきだということでしょう。

シャープ・キーとはおそらく黒鍵に当たる部分だと思うが、そこの前に人差し指、中指、薬指を曲げておくべきだと述べていますね。曲げ具合はその奏者の手の大きさにもよるので、人それぞれの調整があることでしょう。

黒鍵を弾くときは人差し指、中指、薬指が適しているといわれています。それは鍵盤の上に手を広げてみるとわかると思いますが、親指小指は手を開いても黒鍵から離れてしまいます。特に親指は鍵盤とほぼ垂直に近いような状態に位置していますから、ほぼ平行上に位置している人差し指、中指、薬指は黒鍵を弾くのには最適でしょう。

動きに関しては、やはり手を広げた時にその広げた範囲内で収まるのであれば、無駄に大きな動きをする必要はないでしょう。その範囲を飛び越えた場合のみ使うべきだということでしょう。

そして、鍵盤を弾くときに上がっているとたしかに指が手全体を支えながら、演奏することになってしまいます。

試しに手首を上げながら何か演奏してみてください。指に手を支える力が加わっているために、動きが鈍くなります。これでは弾けるものも弾けなくなってしまいます。

手首は上げず水平にして演奏することで無駄な力が入らずにすみます。

当時の音楽家たちがこのような文献を遺してくれていることは非常にありがたいことです。まだまだ探してみたいと思います。


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