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味の深まる秋の夜のえーえん・貴ふかまり特別純米

どうもどうもこんばんは、りょーさけです。
「今日は仙禽の後編です!」と見せて貴です!

プチトラブルで家に届いてなかった貴を宅配センターまで取りに行ったのです。ふふふ。

いやあ…これはテンションが上がるラベルです。
この最低限かつ季節を感じさせるの飾り気…とても素敵ですね。

ふかまり、というネーミングがよいですね。
少々調べてみたところ、年々出荷が早くなってコンセプトがよくわからなくなっている「ひやおろし」というジャンルに対する提言を含んだネーミングだそうです。

(※ひやおろし…簡易に説明すると、冬にしぼられた日本酒がひと夏の熟成を経て秋に出荷される時によくつけられる名前。秋の季節モノ日本酒…ということになっている。日本酒は時間経過とともに味がまろやかになり旨味が強くなる傾向があるため、ひと夏しっかりと適温で熟成されたお酒は確かに味が乗っていて美味しい。しかし近年では商業的な理由により本来まだ「熟成中」であるべき8月にすでに出荷が始まっていたりする。そういう光景を見るために世のイケてる人たちは「こりゃいかん」と思っていたりする。もちろんうまく調整すれば冬しぼって夏にいい熟成感のある酒を出すことは可能であると思うが、早期に市場に出回る酒をいくつか飲んでみたところ寡聞にも「いい酒だ」と感じた経験は少ない。私は。)

…カッコなが…ぜえぜえ…。珍しく長めに解説してしまった。

あえて簡潔に言うならば「そういう形だけのお酒とは違うぜ、ウチの『ふかまり』は…」ってとこでしょうか。なんて男気あふれる?宣言なんだ…!とてもかっこよい。

では、味についてもちょっと語りますかね。せっかくだから。

入りは驚きのみずみずしい青リンゴ。熟成香が苦手な人には嬉しい仕上がり。例えばたくあんの香りだとか、カラメルの香りだとかそういったものとはまだ無縁。みずみずしいです。まずここにびっくり。質感はややとろみがある。丸い。ここにひと夏を越した酒らしい親しみやすさとまろみを感じます。で、甘みと同時に舌をややゴリマッチョな酸が包む。そこからフィニッシュまではスムーズ。飲み込んだ後は甘みと深い酸味が混じり合って舌の上で溶けていく。

良酒は一見両立不可能そうな特質を軽々と併せ持つ…というのは持論なのですがこのお酒もそれをやってのけている。熟成のまろみは感じさせても風味は古めかしくさせない。丸くなっても新しい。

そして全体としては素直な味なのだけれど、そこに得体の知れない酸がプラスされている。細身に見えるけど、実はめちゃくちゃ背筋が強くて150キロのストレート放るんです…みたいな。
高校時代のダルビッシュ有や大谷翔平を思い起こさせる…。

素敵だ。昨日の仙禽も素敵だったけれど、貴も言いようもなく惚れ惚れする。

で、このお酒ですが実はサイドにこんな事が書かれていてですね…。

「二杯目は、ぬる燗で。」と。

はい、指示通りに飲みますよ。ぬる燗で。

…!!!
驚きであります。

なんですか、この酸の鮮やかさは!
酒の温度が体温に近づいたことで口当たりがよりなめらかに(というか異物感が全くなくなるといったほうがいいか)なるのはわかる。そして温度上昇でより味が甘く感じられるのも理解できる。

しかしこの酸の鮮やかさはなんだ。きらめきは。
湖面に浮かぶ星の光たちがが夜空に向かって一挙に駆け出していったような美しさです。光に羽が生えて秋の真夜中を飛び回っている…!

「ふかまり」という落ち着いたネーミングからは想像がつかないキラキラとした酒です。口の中がまばゆい。
キラキラと言ってもどぎつい色が輝いているのではない。密度の高い秋の空の青が輝いている…。

(比喩長すぎて味の説明がおいてけぼりじゃね…?)

ってことで、ここらへんにしておきますか!
超オススメです。このお酒は!それだけ言っておきます。

さて。最後にぜんぜん違う話題を一つ。
今日私はとある歌人の短歌集を読んでいたのですが、その中に衝撃的なものがあったので紹介させてください。

えーえんとくちから
えーえんとくちから
永遠解く力を下さい

笹井宏之さんの『えーえんとくちから』の1つ目の歌です。
衝撃的すぎて言葉を失いました。

こんなに飄々と世界の不思議や人生の不思議を伝えられる、しかも優しくユーモラスに伝えられる短歌が存在していたことに驚愕しました。

たったこれだけの文字数ですが、様々に想像力を掻き立てられます。

例えば…
・言葉遊びをしていてそこからこんなに切実な思いにジャンプしたのか???
・「えーえん」なんて表記使っちゃうの?!3つ目のオチのために?!
・え、これなんというか即興で思いついたの???それくらい軽そうな感じだけど
・はたまたなんだろ、これまで人々が口から言葉を発して「永遠」みたいな理解不能そうに思えるワードを理解しようとしてきた営み、その歴史のことをユーモラスに語ってるの???
・このひと言葉が発されるところまで完璧にイメージして短歌つくってる
・そんな緻密な設計ができるひとが即興で組み立てるわけない
・シンプルだけど、シンプルじゃない…

とか、うん。こんな感じで考えてしまう。

インパクトがすごい。はい、それだけです。
教訓めいたことを引き出すとすれば「シンプルイズベストはそれを受け取ったひとの感想にしか過ぎない」ってとこでしょうか。

とても軽い短歌に見えます。一見。
しかしここには積み重ねが見える。
本当に偶然に、あまたある言葉の組み合わせからたまたま誰かがこの語群を選び取って瞬時にこの短歌を形成する可能性はゼロではない。

しかししかし、これはきっとそういう歌ではない。そんな気がするのです。

短く分かりづらく言えば、たとえ結果は同じでも

1/1と1/1000000000000000000は違うのです。


これは言語表現に限りません。
素人がたまたまプロのような料理を作る事はあるでしょう。
しかし同じ食材や調味料に関して1万通りのレシピを持っている料理人がその料理を作るのと、たまたまそれができたというだけ(1/1)は違うのです。たとえ瞬間的に食べたひとにもたらされる幸福量が同じだとしても、違う。

よくわからん話になったかと思いますが、そんなふうに思います。
貴はまたしばらくしてから飲もう。

いい夜だ。2日続けて。
明日は休肝日なので仙禽後編は明後日以降にします!ではでは貴に乾杯!!!

酒と2人のこども達に関心があります。酒文化に貢献するため、もしくはよりよい子育てのために使わせて頂きます。