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【倉敷市水島地域おこし協力隊】 村上雄一さん 〜1年間の活動の軌跡

 2023年4月から岡山県倉敷市水島で地域おこし協力隊として活動し、2024年3月で任期を満了する村上雄一さんに密着取材(2024年1月)をした。村上さんの地域おこし協力隊としての1年間の活動をまとめる。

取材前の村上雄一さん

【村上雄一】
1998年生まれ、兵庫県伊丹市出身。
地域創生、地域活性化に興味があり愛媛大学社会共創学部に進学。
卒業後、小物家電を取り扱う商社に営業職として就職。
まちづくりに対する想いが再燃し、倉敷市地域おこし協力隊として水島に赴任。
Instagram:https://www.instagram.com/mizushima.life/

【目次】
・はじめに
・水島の特徴と課題
・課題と克服
・成果と影響
・今後の展望
・取材当日の様子
・終わりに

【はじめに】

 地域おこし協力隊とは、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取り組みのことを指す。(総務省HPより引用)

 水産庁の令和4年度データによると、全国の受入自治体数は1100団体以上あり、協力隊の隊員数も約6800人と地域おこし協力隊の取り組みは拡大を続けている。各自治体によって具体的な活動内容や条件は異なり、協力隊自身も各人の専門や強みを活かした活動を行っている。

 村上さんは、転職先を探しているときに地域おこし協力隊の制度を知った。愛媛大学では社会共創学部に所属していて地域活性化を目指した取り組みを行っていたため、地域おこし協力隊の活動に自身の経験が活かせるのではないかと考えた。もともと地方に移住してみたいという気持ちもあり、自身が取り組みたい活動内容の求人があった「水島」を選択した。


【水島の特徴と課題】

 倉敷市は製造品出荷額が西日本第一位のまちであり、2021年の出荷額は4兆6185億円に上る。その出荷額の9割を占めているのが「水島コンビナート」である。水島コンビナートは、日本でも有数の工業地帯であるため全国的に知名度が高い。

水島コンビナート

 「水島はどんな街と聞かれると、水島コンビナートしか思い浮かばない方も少なくないと思います。実は、水島には50年以上続く喫茶店、雑貨屋、飲食店などがたくさんあり、レトロな雰囲気や魅力を味わえるお店が多くあります。しかし、その情報の多くはネットには出回っていません。そんなベールに包まれた街とも言える水島の魅力を発信していくことが協力隊の役割ではないかと思っています」と村上さんは話す。

 また、水島は他の地域と比べて公園の数が多い。公園や空き家の利活用、シャッター商店街となっている水島商店街の再開発なども大きな課題となっている。

 水島に地域おこし協力隊が赴任するのは村上さんが初めてであったため、地域住民からの期待も非常に高かったという。村上さんは、地域おこし協力隊の活動がスタートすると、課題となっていた公園や空き家の利活用を進めるための活動に取り組んだ。


【課題と克服】

 村上さんは、活動を続けていく中で「新しい取り組みを始める」のではなく、「今ある魅力を最大限にアピールする」ことが大切であると考えるようになった。初めは、公園や空き家、商店街の再開発など新しい取り組みをしようと考えていたが、実際には地域住民や行政の賛成、反対意見があり取り組みを進めていくことが難しいと感じたという。そのため、今ある魅力を伝えるための「情報発信」に注力することを決めた。

 住民に水島の魅力を聞くと、「生活に必要な店は一通り揃っている」「家賃4万円で贅沢な家に住める」「ゆっくりと流れる時間を感じることができる」などの回答があったが、情報発信をする上で地域外の人に伝える魅力としては少し弱いのではないかと村上さんは考えた。

 村上さんは、水島と似た街に兵庫県尼崎市を挙げる。尼崎市には工場地帯があり、かつては「鉄のまち」と呼ばれていた。その影響もあり、大気汚染や治安の悪さなどのイメージが強い地域であったが、近年は駅前の再開発が進みその情報を発信したことで「住みよい街、尼崎」というイメージに変わってきている。尼崎市の事例を参考に、水島でも情報発信をすることで他の地域の人に興味を持ってもらえるのではないかと村上さんは考えた。

【成果と影響】

 村上さんは、情報発信の取り組みの中で「水島焼肉マップ」を作成した。水島には、分厚い牛タンが食べられる店や国産和牛が安価で食べられる店など、他の地域では珍しい店が多くあるという。しかし、「地元の人はそのような焼肉屋があることが当たり前のことだと思っていて、魅力だということに気づいていない」と村上さんは話す。

 現在、水島焼肉マップには10店舗が掲載されていて、実際に取材に行って分かった各店舗の魅力や特徴が書かれている。水島のまちづくりに関わる人たちも店への取材を担当していたりと、多くの協力者に支えられながら作成した。水島焼肉マップは2024年3月に公開され、紙媒体とWEB媒体で運用していくという。

水島焼肉マップ

 村上さんは、独自の水島ホームページも作成中で、飲食店やイベントの紹介記事、公園などの情報を載せた地域マップなどを掲載する予定だという。水島ホームページは、村上さん以外に水島の魅力を発信したい人も編集できるようにするという。

 他にも、SNSなどで水島の情報を発信していく中で「SNS発信の仕方が上手いね」「自分ではできないから代わりに発信してくれてありがたい」などの声をかけられたという。「多くの人から感謝の声をいただいてとても嬉しかった。情報発信が自分のやるべきことだと思った」と村上さんは話す。水島を始めとした地方の市町村では、情報発信に長けた人材が少ない場合が多い。地域の魅力を知ってもらうために、村上さんのような情報発信ができる人材は貴重である。

 倉敷市は村上さんの活動を受けて、水島の地域おこし協力隊としての募集要項をより情報発信に重点を置いた内容に変更した。

 村上さんに密着取材をする中で、「村上君が水島に来てくれて本当に良かった」「可能なら今後も水島地域おこし協力隊として活動を続けて欲しい」という声を多く聞いた。村上さんは地域の人との関わりを大切にしたことで、多くの人に愛され頼られる存在になった。


【今後の展望】

 村上さんは、地域おこし協力隊として水島に赴任する前は強い不安に駆られていたという。両親をはじめとした周囲の人に地域おこし協力隊として地方に移住することを反対されたことや、地域おこし協力隊についてのネガティブな情報に触れてしまったことなどから「賛成してくれる人がいなくて、地域の人にも受け入れてもらえなかったら自分はどうなるのか」と不安を感じていた。しかし、実際に水島に来ると地域の人に温かく迎え入れられた。「水島の人が自分を受け入れてくれて本当に嬉しかった。水島を盛り上げることでこの恩を返していきたい」と村上さんは意気込む。

 村上さんは、地域おこし協力隊の任期満了後も「ミズシマもりあげ隊」(マルシェや婚活パーティーを手掛ける地域団体)に所属し、水島を盛り上げるための活動を続けていく。「地元の人が水島の魅力に気づき、周りの人に伝えられるようになって欲しい」と村上さんは話す。地域おこし協力隊としての活動は終了するが、今後も水島のさらなる発展に貢献していく。


【取材当日の様子】

水島商店街振興連盟会長 藤原さんとの打ち合わせ


みずしま財団研究員 林さんとの打ち合わせ


みずしま財団副理事長 福田さんとの打ち合わせ


植田製作所社長 植田さんとの打ち合わせ


お店取材(坂本鶏卵)


お店取材(エスプレッソをひとつ)


【終わりに】

 日本は少子高齢化による人口減少が加速している。特に地方の市町村でその傾向が顕著である。今後も若者を中心に、地方から都市部への人口流入が進むと予想されていた。しかしコロナ禍を経て、人の考え方と動き方に変化があった。テレワークが普及し、場所を問わずに働ける可能性が広がったことや、外出が制限され自宅で過ごす時間が多くなったことで、自分や家族の暮らしについて考える時間が増えた。実際に、コロナ禍の2020年7月から毎月連続して東京都からの転出者数が転入者数を上回った時期もあった。2024年現在は、再び転入者数が転出者数を上回っている。

 「都市集中」か「地方分散」か。2017年に京都大学の研究者らが公開したAIを活用したシミュレーションによると、日本社会の未来の持続可能性にとって、人口、地域の持続可能性や格差、健康、幸福といった観点からは「東京一極集中に示されるような都市集中型より地方分散型の方が望ましい」という結果が出ている。そして、都市集中型か地方分散型かの後戻りできない分岐が2025年から2027年の間に生じる可能性が高いと言われている。

 2024年現在、日本は今後の社会を決める重要な局面を迎えている。地方分散型社会を目指すのであれば、「あらゆる環境で働ける環境づくり」や「交通面での利便性の向上」など、インフラを整えることが必要不可欠である。しかし、インフラの整備だけで地方分散型社会を実現するには限界がある。最も重要なのは、「地方自体」を活性化することで人口流出を避け、移住・Uターン者を増やすことである。地方を活性化させる上で新しい取り組みを始めることももちろん必要だが、村上さんが話したように「既にあるものを洗練し、その魅力を発信していく」という視点で活動することも重要である。

 全国各地で活躍する地域おこし協力隊が担うのは「日本の未来」であると言っても過言ではない。今後さらに地域おこし協力隊を志す人が増え、その活動によって全国の地方市町村が活性化することを願っている。


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