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1万円札を受け取ってしまった

病院の駐輪場にて

近所の大学病院に目の検査で行ってきました。病院を出ると駐輪場は自転車であふれかえっていて惨憺たる状況です。

そんなとき、おばあさんも自分の自転車を取り出せないのか、ため息をついていました。

わたしは「大丈夫ですか」と声をかけると「自転車が取り出せなくてねえ」と一言。

そこで、まわりの一台一台を少しづつ取り出し、まずはおばあさんの自転車を怪人ハルクのように片手で取り出します。

これには、おばあさんもにっこり。私も日頃の底辺っぷりを挽回すべく「きょうはいいことをしたな」とそのまま華麗に立ち去ろうとします。

押し問答する

そのときでした。おばあさんが「ありがとう、ありがとう、ちょっとまってね。。」と言ってなにやらバックからゴゾゴソするとサイフを取り出します。

そしてお札を取り出して私に「どうぞ、もらって、もらって」と言うではありませんか。

私は最初冗談かと思うほどびっくりして「いえいえいえ、大丈夫ですから。受け取れません」と身振り手振りを加えながら全力で断ります。
いいおとながこんなことでお金を受け取るわけがありません。

しかしおばあさんも引き下がりません。「今日はとてもいい気分になったから。ぜひ受け取って!!」と私の胸に差し出します。ここで二人は日本人特有の「ここは私が払うから」のような押し問答状態。

もちろん私は受け取るわけにいきません。が、よくよくそのお札を見るとなんと1万円札ではありませんか。その額にもびっくりです。私はこれはよけい受け取ってはいけないとそのまま立ち去ろうとしました。

が、立ち去れません。足が動かないのです。「いえいえいえ」というその手ぶりもだいぶ弱まっています。「負けるな自分。ここで受け取ったらほんとうにどうかしてるぞ」と理性に訴えかけるのですが、どうにもこうにもグラグラ揺れはじめます。

おばあさんは優勢になったのかさらに強く「もういいから、受け取ってね。あなたみたいな子に受け取ってほしいの」といいます。「子」かあ、43なんだけど。。まあ子みたいなもんだよな。

そんなことで押し問答すること5分。負けました。わたしはついにその1万円札を受け取ってしまいました。「では、あの、すみません」って。

おばあさんは満足そうです。私は敗北感でいっぱい。「では、あの、すみません」ってなんだろうか。自転車に乗って颯爽と帰るおばあさんを見送ると、私はただ1万円札を握りしめて呆然と立ち尽くします。

そして我に返るとそのままポケットに入れて家に帰ってしまいました。

この話を帰ってから妻にすると「えっ最低、クズ人間すぎない。。」とただ一言。軽蔑の眼差しもじっと向けてきます。私はただ押し黙ってうつむき反省の色を見せているようで、その頭の中は1万円の使い先でいっぱいなのでした。

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