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30代で大企業を辞めてセールステックで起業して1億調達するまで

初めまして、amptalk(アンプトーク)株式会社の代表の猪瀬です。

アンプトークはオンライン商談周りの業務を自動化するツールで、Zoom Phone/DialpadなどのクラウドPBXツールやZoom Meetingsの書き起こしを中心に出来るプロダクトです。

大企業にて

私は元々いわゆる日系大企業の出身で、かつ30代で起業をしました。どうして大企業からこの領域で起業しようと思ったのか、どんな苦労があったのかを2021年の締めくくりに書いてみたいと思います。

私は元々ヘルスケアをやっている日系大企業に勤めておりました。ヘルスケアを選んだ理由は、高齢化社会の中で明らかに加速していく潮目があると考えたというのと、単純に「病気の人を救う」という矛盾がない課題解決というところに魅力を感じたからです。かつ、旅が好きだったこともあり、グローバルに活躍できる場所を探して新卒で入社しました。

最初は営業として働き、かなり揉まれながらも活躍の機会をいただき、最終的に目標だったアメリカの買収した企業でのPMMの経験をさせてもらう機会もいただきました。帰国後は数百億のプロダクトのGTMまでやらせていただいたりしたものの、やはり大企業の「イノベーションのジレンマ」はとても強い重力として存在しているのを常に感じていました。

小学生で体験したイノベーションのジレンマ

「イノベーションのジレンマ」に関して話が前後するのですが、私は小さい頃から発明が好きで、色々なものを作るのが好きでした。小学校の頃に体験したことで未だに自戒として覚えているのが、4年生くらいの時に応募した発明創意工夫展というコンテストに、ミニ四駆のタイヤと軸を使って「チューブ絞り機」という、わさびなどのチューブの最後の絞り残しを効率化するプロダクトを作って全国大会まで出場しました。惜しくも優勝はできなかったのですがとても嬉しく悔しかった体験でした。

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これで嬉しかったので翌年リベンジしようとして、色々考えまくった結果、ミニ四駆のタイヤにメッシュをつけて油をつけた「コロコロ掃除機」というものを作って学校の審査レベルで落ちました。今思い出してもなんで作ったのか分からない代物です。

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未だに思い出すのですが、小学生の個人で既に「イノベーションのジレンマ」を体験していました。小さな成功体験で自身の知識やアセットに縛られてProblem Solverではなく、慣性の法則でうまくいった「事」や「物」に縛られて自由な発想ができなくなりました

まだ柔軟な思考が出来る小学生ですら囚われることに、数千人の大企業が影響を受けないはずがない、と思い続けるきっかけになる出来事として常に覚えてます。

世界に解くべき問題が転がっているのにも関わらず大企業にいては「イノベーションのジレンマ」から脱することは出来ないのは、スタートアップ→買収が多いアメリカの環境を見て確信できました。(所属していた企業が悪いとかではなく仕組み上起こり続けることだと思います)

起業経験のある友人との再会と決意

私は元々スタートアップには興味がなく、大資本でグローバルにデカい事やりたい、くらいの考え方しかなかったのですが、昔からの友人で既に起業・売却経験があった友人と食事をしている時に「後、社会人人生30年しかない。焦るわー。」と言っているのを聞き、ここまで達成した奴がそれを言っているのを聞いてる自分のダサさに落ち込みました。適当なやつなので本人は言った事を覚えてないでしょうし、本気で思ってたのか怪しいですが。

これ以降、大企業の速度感で仕事をしていると自分の残りの社会人人生の中で大部分を調整などで取られることと考えると、自分の実力を発揮するならスタートアップしかない、と考え始めました。

その間欧州のアントレ中心の大学院で学んだりした経験を経て、起業の方法を見てきて思ったことが、「これなら自分でも出来るな」ということでした。基本的には自信過剰なので、多分勘違いだったのですが、縁がなさすぎて得体が知れなかったものが、ファイナンスの仕方など俯瞰的に理解できて一気にイメージが湧くようになりました。

その後、起業を決意し、元々相談した友人の彼に壁打ち的に話をしていると、色々協力してくれることになり、「社会にとって猪瀬が起業しないとダメージがあるから俺は手伝っている」などと適当なことを言ってくれて、やるしかないな、と奮起して進めました。

起業しようと決心してから、”営業戦略が現場の末端のメンバーまで伝わらない”という課題を日米で体験していたこともあり、それを解決するプロダクトを作ることにしました。

エンジニア探しとヒアリング

この段階で自分がやるべきことは二つ。①プロダクトを作れるエンジニア探し②課題のヒアリング、でした。まず、①ですが、これは自分のバックグラウンドがテックが関係ないこともあり死ぬほど苦労しました。良くどうやってエンジニア探したのかと聞かれますが、「やれることは全てやった」と答えてます。もちろん周りのテック系の友人知人に声かけたり、FB、LinkedIn、Twitterなどでメッセージを数百名送りまくったり、知らないスタートアップのBBQに寿司桶持って単身乗り込んで行ったり、道を尋ねてきた人に「エンジニアですか?知り合いにエンジニアいませんか?」と聞いたり、エンジニアのミートアップ系のイベントには片っ端から顔を出したり。それぞれの言った先で興味がないという人でも「どうしたらエンジニアに会えますか?」と必ず確認して、ドラクエのようにヒントをもらってあらゆる手を尽くしてきました。ちなみに今のところヒントは役に立った事はありません。

そもそもテックの知識も経験もないので、最初の頃は不安感しか与えない会話しか出来てなかったと思います。最初の頃、SNS経由でご丁寧に返信いただいてお会いいただいて「SaaS作りたいんですけど、SaaS作れますか?」という謎の質問をしていたり、「好きなプロダクトは何ですか?」と聞かれて、「プロダクトってなんですか?」と答えたり。

毎回フラれては死ぬほど反省しながらも、エンジニアとある程度まともに話せないと①を突破できないと考え、空いてる時間で狂ったように勉強をしました。

現CTOとの出会い

そんなこんなで色々紆余曲折がありながらも、紹介の紹介の紹介のような形で、現在のCTOの鈴木と出会います。最初の印象は寡黙ながらも闘志を持っているんだろうなという感じでしたが、そもそも当時大企業で働いていてスタートアップとは?という感じでした。会った時、彼に言われたのは「最強のフルスタックエンジニアになりたい」ということでした。じゃあ一緒にスタートアップやろうぜ、と言いながらも、自分も良くわかっておらず説得力もなく、最初は不信感しか持たれていなかったかな、と思います。し、今も不信感6割かもしれません。

ただしつこく何度か会って相談している内に、プロダクトが進まない感じに痺れを切らして、優しい彼は「とりあえずお金は良いんで作りますよ」と言ってくれました。これが自分も初めてのテックプロダクト作りです。UXデザインのクラス受けながらFigmaでデザインを作ってプロダクトを作っていきました。エンジニアと仕事をするのは初めてで、凄腕エンジニアとの会話で失礼がないように、自分も極力理解できるようになろうと努力をしました。鈴木とやり始めてから、プロダクトの成長速度が加速していくのが手にとるように分かりました。当時、休みの日に夜明けまでコードを書いてくれて、本当に感謝しかないです。

ヒアリングの必要性?

コードをかけない私は同時に②ヒアリングをこなしていく必要がありました。色々な起業家の方とお話ししているとヒアリングの話が多く出てきます。とある会で100人以上ヒアリングしたというお話をされていた方のお話を伺い、なるほど、と思い、私もLinkedInにすぐに課金して毎日数十名の営業関連の方に申請をしてヒアリングを依頼するという作業をしていきました。本業があるので、夜や休日を使ってヒアリングしていきました。ある日、都合がつかなかったので出先で仕事帰りに外で片手でタイピングしながら立って携帯で話していたら、後ろから女子高生に写真を撮られまくっていたという事件もありました。終わってからTwitterで「#立ってタイピング」で検索しました。(幸い見つからず)

まず課題を特定するために100名以上ヒアリングしていったのですが、結論、プロダクトを作る前のヒアリングはやらなくてもよかったと思います。ヒアリングの鉄則として課題をこちらから言わずに聞く、などのノウハウが転がってますが、それを100名にやった結果、「モチベーションマネジメント」、「内部調整に時間がかかる」などめちゃくちゃバラつきます。結果、こちらからヒントを話していって「戦略の浸透での課題ありますか?」など絞って話を振っていって、「まあありますよねそりゃ」的な感じに必ずなると言う誘導尋問ぽい事態になってました。能力がないだけかもしれません。

元SmartHRの宮田さんのラジオは擦り切れるほど聞いてますが、個人的には宮田さんがヒアリングで成功したのは①ご自身が原体験として持っていたことではない課題(理解する必要がある)②ある程度絞れたセグメントで広範に課題が存在していて強力なソリューションがまだない状態の課題、の2要因がクリティカルにマッチしたからなのかな、と思ってます(違ったらご訂正ください)

結論、今はある程度自身の共通課題となりそうな原体験があるなら小さいものでも作っちゃって使ってもらってフィードバックもらった方が良いと思います。Figmaのプロトタイプでやってもらった方がいい説もありますが、個人的にはあんまり意味がないかなと思ってます。私が仮にZoomがSkypeと違う、というのをFigmaで説明されても「ああ」としかならないと思いますし、特にAI系はモックが作りにくいので作るしか試す方法がなかなかなかったりして難しいですよね。

ファーストプロダクトでの失敗

そんなこんなでヒアリングで否定されまくっているうちにα版的なプロダクトが完成したので、数社様に試しに使っていただきました。当時のプロダクトは双方向型のイーラーニングのような物で、本部の社員が現場の営業に戦略通りの売り方を実際にピッチしたりしてもらって周りが採点し、良い物は全員が参照出来るようになる、というコンセプトのプロダクトでした。

α版の前の段階で名だたるグローバル企業にアポイントを取って訪問して、「ログインとかの機能はまだ出来てないですけど録音したり採点できるので便利ですから使ってください」と言いに行ったのも良い思い出です。もちろん連絡はなかったです。

結論、最初のプロダクトは全然うまく行きませんでした。まず営業が「なんじゃこれめんどくせえ」となるし、営業に何かTaskを与えることをマネージャーは気を遣ってすごく嫌がる、ということが使っていただいてすごく分かりました。特にターゲットとしていたのがエンプラなので、教育チームや営業、マーケなど社内の気の遣い合いがものすごくある中での導入にはとても大きな障壁があることが分かりました。

この段階でチームで話し合い、練習という工数を増やすから嫌がるのであって、実際に工数増やさずにリアルなデータを取れるのであればZoomなどのオンライン商談のキャプチャをしてそれを解析してしまえば良いのではないか?という話になり、ピボットの案が出始めました。

ピボットをするか否か

ピボットをするか、否かで迷いましたが、1個目のプロダクトの開発に相当工数をかけてきた中で、「捨てたくない」という気持ちは私の中にすごく強くありましたし、実際に朝まで手を動かしてプロダクトを作ってきたCTOの鈴木はより強くその想いがあったと思います。ただ、とても大きな決断になるということもあったので、死ぬほど一人で考えて、上記した「小学生イノベーションのジレンマ事件」を思い出しました。そもそもイノベーションのジレンマに囚われたくなくて起業しようとしてるのに、既に囚われているようじゃ意味がない、と熟考を重ねて「ピボットさせてもらおう」と決意し、鈴木に時間をもらってジョナサンで自分の決意を相談しました。そこで彼が言ったのは「作るのに使った時間は関係ないから、ユーザーにとって最も価値があるプロダクトを作る決断をしましょう」と言う真の漢の台詞でした。未だに申し訳なく思いますが、彼がそう言ってくれた事でチームとしてレベルアップしたし、正しい決断を出来たと思ってます。

AIエンジニア探し

新しいアイデアになってから、AIが必要になります。現状様々なAPIなどがありますが、色々試した結果、本当にユーザーの課題を解決するためには自社で全て作る必要があるという結論にいたりました。音声認識や自然言語処理という更にレアなエンジニアを探す必要がありました。またも振り出しに戻った感覚で、ハッカーズバーに行ったり、SNSでたくさん連絡したりして探します。何十人と面談していく中で、最も波長が合いそうだった現在のAIの責任者の高信と出会いました。MLエンジニアの中でも特にユーザーを見て、プロダクトドリブンな考え方をしていて、一際輝いていました。

高信を中心に音声認識や自然言語処理の問題をあらゆる力を使って解決していきました。初期はお金がないので私がアノテーションしてました。大晦日に夜明けまでアノテーションしていたのはいい思い出です。

そして、更にSNS経由でフィードバックを色々な方にいただきながら、前のプロダクトとは違った感覚のフィードバックをいただいてきました。(この時点でLinkedInのフレンドの数は3,000名を超えてました)前とは異なり、「これが出来るなら死ぬほど使いたいけど出来ないっしょ」という感じになりました。

ここで得た学びですが、使ってもらってフィードバックで強化していくのがSaaSの醍醐味だとは思いますが、最初の卵の段階で行き先はある程度制限されるということでした。前のプロダクトからだとどうやっても今の場所には辿り着けてないので、コアとなる部分は最初に間違えてはいけないけど、難しいのは卵の段階だと、みんな要らないと言うことです。最初のプロダクトでも、今後開発していけばPMFすると信じてましたが、多分しなかったと思います。卵が合ってるかどうかはどうやって見分ければいいのかわかりませんし、卵が正解でも孵化してからも上からきた鷹に食い殺される可能性はあります。

資金調達の苦労

話は戻しますが、「いける」と確信を得て、プロダクトを加速するために資金調達をした方が良いという判断をチームでしました。正直、資金調達は一瞬でいけるだろうという漠然とした自信を持っていたのですが、大分苦労することになりました

競合環境が激しい領域でどう差別化するかどうかというのが、うまく言語化できない部分があったりで、最初はうまくいきませんでした。色々親身になってアドバイスしてくださる方も多くいる中で、アドバイスを鵜呑みにしてプロダクトがちょっと変な方向性に行きかけたりもしました。ここで変な感じでピボットせずチームで意思を通したのは良かったと思います。

精神的にもアップダウンを体験してなかなかきつい瞬間がありながらも、最終的にはシードでの投資を決断してくれたジェネシアの鈴木さんMICの山中さんとの出会いがありました。(有り難いことに、その他にも投資のご判断をしていただいた会社様があり、とても感謝しております。この場を借りてご検討いただいたことを御礼申し上げます。)鈴木さんとの面談で印象的だったのは、最初の面談の際にこちらが競合差別化のスライドをあえて外していたにも関わらず、開始30秒で自分の考えている戦略を全て鈴木さんの方から言ってくれたことでした。

まずここまで面談前に時間を使ってくれていた事がすごく尊敬出来ると思ったし、プロダクトドリブンである事は以前からウェビナーなどを拝見して感じておりましたが、お話しする内に確信にいたりました。MICの山中さんは起業家に対する信頼を強く意識していて、不要な介入をせずにバリューアップを強く考えているのが伝わり、是非一緒にお仕事したいと決意しました。

こうして紆余曲折ありながらも、プロダクトもまだ完成していないのにも関わらず、チームを信じてくれた方々にシードで1億円の資金調達を意思決定していただきました。

私の想い

資金調達後に開発チームを強化し、CTOの鈴木とAI責任者の高信のとてつもないエンジニアリング/マネジメント力に加えて、白井やLinなどの凄腕エンジニア達の参画で爆速で開発し、9月には正式版アンプトークをリリースする事ができました。作り手には感謝しかないです。

色々なリーダーシップがあると思いますが、私はどちらかというとデカい事を言うタイプのリーダーではないです。シンプルに自分の子供たちの世代にはアンプトークが営業として当たり前として使われているような世界を作る、そのために目の前のユーザーの課題に真摯に向き合って最強のプロダクトを作る。ただそれだけです。

チームはどちらかと言うとTHEスタートアップって感じのメンバーではなく、なんとなく無骨でかつでダイバーシティあふれるチームです。B2Bぽい感じのメンバーが集まっており、基本集まるとふざけてしまうのですが、常にディスカッションしながら、ワンチームで働く時はとてつもない集中力でプロダクトを作っています。自慢のチームであり、現在の覇気はとてつもなく、どんな大企業が競合になっても負ける気がしません。

結果として大企業を辞めて良かったのか?という質問があれば、もちろん当時働いていた人たちは好きだったけれど、やっぱりこのスピード感とチームの一体感に替えられるものはないと思います。辛いこともあるけど、強力なレジリエンスとチームで最高の日々です。

そんな開発チームの多大な努力の賜物で、本日通話し放題月額2,020円/user(2021年12月現在)のZoom Phoneとの連携をリリースしました。今後、より多くの方に本機能をお届けし、組織を一気に成長させていきます。今後はより加速してインサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスを中心にユーザーの課題解決をしていく所存です。これからの成長フェーズでBiz/Eng共に募集しているので、もしご興味ある方がいれば是非ご連絡ください。

https://amptalk.co.jp/recruit.html

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