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人生を変える一週間

荒れ果てた土の大地を歩き、うっそうと茂る森を抜け、ひたすら目的地に向かって歩き続ける。古の時代より続く聖地への巡礼路。ローマ、エルサレムと並ぶキリスト教の三大聖地サンティアゴ・デ・コンポステラ。スペインの西端にほど近いこの地に向かって、世界中から巡礼者が訪れる。主要なルートはフランスとの国境ピレネー山脈をスタートとするルート。スペイン国内だけでも900km以上もある巡礼路。

スペイン巡礼を知ったのはいつだったか。大学4年の夏、短い夏休みで何をしようか考えていたときだった。将来の進路に悩みつつ、結論を先延ばしにしていた頃だ。そのときふとスペイン巡礼のことを知った。人は人生に悩んだとき、聖地への道をひたすら歩き、人生を見つめ直すという。

「これだ!」と思った。今これに行かなければならない、そう強く感じた。「神に呼ばれた」とも言える感覚だった。そして早速夏休みの計画を立て、最後の約200kmを一週間で歩くことにした。この一週間で何が変わるとも言えないが、何か変えたい、そんな気持ちだった。

一人で巡礼をしている日本人の少年はとても珍しいのだろう、どこに行っても気安く話しかけてくれる。遅い時間に宿に到着すると、スープがあるから一緒に食べようぜと声をかけてくれたり、ワインをごちそうしてくれた。道中休んでいると「大丈夫か」と心配してくれた。宿のオーナーの子どもと遊んで、彼らの名前を漢字で書いてあげたりもした。

一人で歩き続ける孤独な旅だと思っていたが、気づけば多くの人たちに助けられ、多くの笑顔に囲まれていた。それぞれが巡礼に出たきっかけや生い立ちを夜遅くまで語り合ったこともあった。朝になれば別々に旅立ち、でも次の街でバッタリ再開することもある。人の縁は不思議なものだと思いつつ、この世から悪人が全部滅びたのではないかと錯覚するほど、いい人たちに巡りあうことができた。

6日目、遂にサンティアゴに到着。大聖堂を訪れ、旅の無事を感謝してお祈りを捧げる。ひとまずここがゴールなのだが、さらに海まで続く道があった。フィニステーラ、まさに地の果てという意味のスペイン最西端の地だ。

翌日バスでこの地に向かった。巡礼者の中でもここまで来る人はそんなに多くないみたいだ。地の果てに立ち、大西洋を眺めながら日が沈むのを待つ。永遠とも思えるこの時間の中で、巡礼の一週間を振り返ってみた。「人生を変える一週間」になっただろうか。自信をもって「イエス」とは言えない。でも、たくさんの人の優しさに触れ、何か大切なことを学んだ気がする確信だけはあった。




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