横浜にいたイラストレーターと作家が嬉野温泉でカフェを開業するまで
嬉野温泉 旅館大村屋がお届けする「嬉野温泉 暮らし観光案内所」にようこそ。嬉野温泉に月1で泊まっている、ライターの大塚たくま(@ZuleTakuma)です。
今回、旅館大村屋の北川健太さんに紹介してもらったスポットは2020年9月4日、嬉野温泉街の路地裏に新規オープンしたコーヒースタンド「おひるね諸島」。
空き物件となっていた、とある企業の元保養所を再活用している「RIVER SIDE HOUSE」。
店内には以前の看板が残っていた
元保養所の建物を旅館大村屋が引き継ぎ、利活用を行っています。その玄関にできたコーヒースタンドです。
嬉野温泉のコーヒースタンド「おひるね諸島」とは
保養所のレトロな面影と、モダンなカフェスタイルの融合。
独特だけど、なんだか落ち着く空間です。
カフェスペースの中には「BOOK KIOSK.」と称した、古書や新書の販売スペースがあります。個性的なラインナップとなっており、ここでの本との出逢いはまさに一期一会。
さらには1回500円でできる「ぶっくじ」なるものもあります。本に加えてコーヒー引換券や温泉券、イラストレーターの大門さんの似顔絵や作家の中村さんのマグカップが当たるという、充実の内容。すごい。
メニューは今後も変更する可能性があります。コーヒーがウリですが、コーヒー以外のメニューも人気なのだとか。バナナジュースも美味しかったです。
おひるね諸島
住所:佐賀県嬉野市嬉野町岩屋川内甲89 RIVER SIDE HOUSE by Ryokan Oomuraya
※営業時間等は公式Twitterをご確認ください。
おひるね諸島を運営する大門さんと中村さんはアーティスト
「おひるね諸島」を運営するお二人は、二人ともアーティストでいらっしゃいます。大門光さんはイラストレーター。
イラストレーター・大門光さん
写真とイラストをコラージュした作品を多く拝見しました。ゆるいけど、スタイリッシュなタッチのイラストが魅力です。
大門光さんの作品
作品はおひるね諸島で展示されていますし、購入することもできます。
中村将志さんはさまざまな形態で作品をつくる作家です。器をつくるときは、椎猫白魚(しいねしらうお)という作家名で活動されています。
作家・中村将志さん
中村さんは、この建物の旧大浴場をアトリエとして活用されています。「大浴場をアトリエって、どういうこと?」って思うじゃないですか。
こういうことなんですよね。
中央の不自然な空洞は元浴槽です。陶芸のアトリエなのにお風呂っぽい香りがします。
シャワーがそのまま残っていました。今にもお湯が出てきそう。なんだか、アトリエそのものがアートみたい。
こちらも、作品はおひるね諸島で購入可能です。ぼくが行ったときには「試作品」コーナーもありました。
このコーナーなら、500円や1,000円という値段で作品を購入できます。お気に入りの作品を見つけてみてもいいかも。
中村さん(左)と大門さん(右)と北川さん(中央)
コーヒーを片手に、玄関前のコーヒースタンドに集合。コーヒースタンドを開店したてのお二人とお話ししました。
オリジナルフリーペーパー「らららリバーサイド」
――フリーペーパーの「らららリバーサイド」、1~3号まで拝見しましたよ。
すごい。「らららリバーサイド」が資料として活躍しているじゃないですか。この前、うちの常連のお客様が「あっ、らららリバーサイドの第3号が出てる」と言って、持ち帰っていましたよ。
月に1度発行している1枚物の嬉野情報ペーパー
大事なファンですね。この前も「3号が出てる」って、持って帰ってくれる方がいらっしゃいました。
ゆるい嬉野情報誌。じわじわ人気上昇中
――やっぱり続けるのが大事ですね。
やっぱり「連載」って大事なんですね。「暮らし観光案内所」もきっと続けていけば……。
――たのしみにしてくれる方が出てくるのかもしれないですね。
なぜ嬉野に住むようになったのか
――もともと、おふたりはどちらで出会われたんですか?
横浜で大学院の在学中に出会いました。
――「横浜から嬉野」ってだいぶ突拍子がないような気がするんですが……。
突拍子ないですよね。みんな気になるところかも……。笑
わたしは東京出身なんですが、もともと九州には親しみがあって。母が鹿児島出身だったり、長崎旅行に行ったことがあったり。あと、中村くんも長崎出身なので。あとは、なんとなく「一番遠いところに行ってみたい」という想いも。
――一番遠いところ。笑
わたしは漠然と「福岡に住んでみたいなぁ」と思っていたんですが、「目的を持って行こう」という話になり。
佐賀県有田町に「佐賀県窯業技術センター※」というものがあるんですよ。そこの後継者育成の取り組みに参加し、焼き物の修行に行くことにしました。
※佐賀県窯業技術センター……県内窯業界の発展と振興のためにつくられた場所。研究開発、技術支援、事業化支援、人材育成等に取り組んでいる。
――なるほど。でも、それは有田町にあるんですよね。
仕事を探さないといけないじゃないですか。そしたら「地域おこし協力隊」にめっちゃ勧誘されまして。ぐいぐい勧誘されて。毎日メールくるくらい。笑
――「地域おこし協力隊」って、そんな一生懸命勧誘するんですね。笑
佐賀県庁はアツいんですよ。笑 行政マンっぽい人が少なくて、民間っぽい人が多い印象です。
「地域おこし協力隊は楽しいですよ~」「好きなことをやればいいんですよ~」って誘われて。
――だいぶ一生懸命だ。
そんなに勧誘してくれるなら「じゃあ行ってみようかなぁ」と。
――おお、懸命な勧誘が実った。
で、いくつかの候補地の中から有田町に近い嬉野を選びました。
いろんな理由が重なって、最終的に嬉野に呼び寄せられたわけですね。
――「神の見えざる手」みたいですね。笑
嬉野で芸術活動の発信をスタート
「新しい地域おこし協力隊」として、紹介してもらったのが大門さんと中村さんとの出会いです。最初は「子育て事業のために出向に来てる」という紹介だったので絡みはなかったんですけど、後から「ここで展示をしたい」という相談を受けまして。それが、がっつり一緒に何かをやった最初です。
当時の告知
――では「RIVER SIDE HOUSE by Ryokan Oomuraya」とはそこそこ長いお付き合いになるんですね。
2年くらいになりますね。
そもそも、もともと住んでたのがすぐ目の前のアパートだったんですよ。その近さもあったのかなあ、と思うんですけど。笑 あの時は現在、アトリエになっている大浴場を「アーティストカフェ」にしたんですよね。
浴槽の中に大門さんが入って、周りでコーヒーを飲むという。
――シュールな図だなあ……。
すごく寒い中ね……。でも、けっこう人は来てくれましたね。
来てくれましたね。周辺のクリエイターとか、編集者の方とか。そのあとは、子ども向けのワークショップをやりましたね。大広間で。
当時のツイート
そのあとは旅館大村屋でも展示を行いました。「RIVER SIDE HOUSE」だと、かなり興味のある方しか来ないんですけど、旅館ならちょっと立ち寄るという方もいるので。普段、あまりアートに関心がない方でも気軽に楽しめるような展示でした。
当時のツイート
旅館に泊まっているマダムたちが、湯上りにそのまま見に来てくれたりしました。
――なるほど。嬉野温泉でさまざまな芸術発信を、RIVER SIDE HOUSEや旅館大村屋で行っていたわけですね。
おひるね諸島ができるまで
――この「おひるね諸島」ができたのは、どういう経緯だったんでしょうか。
嬉野って「打ち合わせできる場所があまりないなぁ」と思ってまして……。打ち合わせの場所が、ファミレスのジョイフルやファミマのイートインとかだったんですよ。気軽に入って、気軽に出られるお店があるといいよね、という話になりました。それで(北川)健太さんに相談を。
「自らが使いたい、嬉野にないものをつくろう」という話もしましたね。嬉野はお茶が飲める場所はあるんですけど、コーヒーを飲める場所が減ってきていて。昔は純喫茶も何軒かあったんですけど……。
嬉野になかった「コーヒースタンド」
――今はカフェがなくなっているんですか。
静かにコーヒーを飲める場所が減りましたね。昔はけっこう純喫茶があったんですよ、嬉野にも。喫茶ブラジルとか。
――なるほど、ここは貴重な存在なんですね。
ゆくゆくは、奥の広間をアーティストやクリエイターのコワーキングスペースのような、自由に過ごせる場所にしたいなぁと思っているところですね。上の個室でも打ち合わせができたり、中長期滞在のゲストハウスみたいな感じにできればなと。
――へぇ、それはいいですね!
最初は「ゲストハウスからやるのはどうか」という話もあって、わたしもすこし興味がありました。
ゲストハウスがあちこちにでき始めた時期でもありました。でもですね…、ホラ、あるじゃないですか。
――えっ、なんですか。
「宿泊業、ナメんなよ」と。笑
――旅館の社長だった~~!
コワイ……。笑
いや、サービス業をやったことがない人がいきなりやるのは大変なわけですよ。お客さんのチェックイン、チェックアウト、その間に掃除、次の準備~~……とかしてたら、肝心の創作活動なんてできなくなっちゃうよ、と。
――なるほど。たしかにそうでしょうね……。
コーヒースタンドから始めて、慣れたらアーティストの人が中長期泊まるゲストハウスのようにするのは、まあアリかなと。まあ、これからも探り探りでやっていけるといいですね。
中村さんのインスタアカウントが面白い
中村さんは焼き物以外でも面白くて。ぼくがより中村さんに興味を持ったのはインスタグラムなんですよ。写真に一言コメントつけながら、嬉野の路地裏をさんぽする投稿が面白くて。
――へー、たしかに面白い。路地裏さんぽを始めたきっかけは何だったんですか?
車移動がどうしても多くなって、細かいところが全然見られないなと。目的地までの過程で面白いものがたくさんあるのに。
――う、うわ。響く……。ぼくなんて目的地の下調べめちゃめちゃやって、カーナビに目的地登録して、目的地しか見てないですよ……。
実際にやってみると、意外と面白いものがたくさんあって。
インスタのストーリーのアーカイブを皆さんに見てほしいですね。まず観光客が通らないような、嬉野市民の暮らしの街を通っているんです。
――おお、まさに「暮らし観光」。
そうなんです。ぼくも昔から、嬉野の路地裏は面白いなあ、と思っていて。面白く紹介できないかなぁ、と思っていたんです。
中村さんの路地裏写真はおひるね諸島にも展示されている
――ぼくも嬉野の路地裏さんぽ、やってみたいなー。
いいですね、行きましょうよ。中村さん、お時間あります?
はい、大丈夫です。
――おおっ、やった!行きましょう!!
今回はここまで!!次回は路地裏の先生・中村さんに案内してもらいながら、嬉野の路地裏散歩の模様をお伝えします。お楽しみに。
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