愛されたかった少女


18時、新宿歌舞伎町。

日が落ちて街が闇に包まれる
この時間が私はいちばん嫌いだ。

すっかり日が傾き始めた16時頃
のそのそと起き出し
いつものようにタバコをくわえる。

子宮の奥がずしりと重い。
何を食べても太らない華奢な身体は
この仕事をするには不向きだ。


最近はタバコしか吸わない日もあるくらい
どんどん食欲と体力が低下している。


生きる気力さえも失ってしまった。


両親の不仲に耐えられず、
18で家出した私はその夜、歌舞伎町で
声をかけてきた男にほだされて
デリヘル嬢になった。


客は私の傷だらけの手首を見て
いつも余計な詮索をする。

まともで誠実にやっている店は
まず、リスカ癖のある女の子は採らないので

必然的に私は
グレーゾーンの店に潜るしかなかった。

そういう店は客の質も悪く
マナーやルールを守らず、
無理矢理本番行為をすることも少なくなかった。

店は見て見ぬふり、
女の子を守ろうとしない、最低の店だ。


例にももれず、
ついに私も妊娠してしまった。

いつも体調が悪かったから
中々身体の変化に気づかず
苦労したけど

誰にも言わずにひとりで中絶した。

両親は私が家出しても
何の連絡もなく、居なくなったことにさえ
気づいてないんじゃないかと思うくらい、

私のことなんていつも無関心だった。


母親はとにかく私のことが邪魔で、
幼い頃から『あんたがいなければもっと
〇〇できたのに』と
いつもうんざりした顔をしていた。

そんな環境で育てられた私は、
とにかく母親から早く離れたかった。

なんで私なんか産んだんだろう。

嫌なら産むなよ。

中絶すれば良かったのに。


私はそんな母親を見てきたから
絶対、子どもなんか産まないと決めていた。


実際この仕事をやっていると
妊娠した話はよく聞くけど

驚くことに産む女もけっこう多いのだ。
大抵は客かホストが相手だが、
どこの誰か分からない子どもを産む女もいる。


そして結局育てられなくて、捨てられる。


そんな女たちを私は心底軽蔑する。


そんなんだから、
邪魔になるんじゃんーーー

私は母を許せない、
簡単に子どもを産む女たちも許せないー。


でも何でこんなに涙が出るんだろう。

愛せないから、育てられないから、
私は産まなかった。

私は正しいことをしている、
あんな女たちよりずっとまともだ!!


でもこの1ヶ月ずっと、
なんとも言えない虚無感に包まれている。

手首の傷が痛み出し、
私の中にまたひとつ痛みが増えた。

大丈夫、痛みには慣れている。

私はこの痛みを抱えて生きていくーー。

【テーマ→家出、華奢、許せない】

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