法の下に生きる人間〈第83日〉

私たちは、自分がどのような形で最期を迎えることになるか、そのときが来なければ分からない。

思いどおりの形で死ぬことができるなら、遺言書を書く余裕もあるとは思うのだが、思いがけず認知症になったり、不慮の事故に巻き込まれて死んだりすると、残された家族に何かを伝えることもできないままに終わってしまう。

だからこそ、元気なうちに遺言書を書いておくことは、相続などのトラブルを未然に防ぐ意味でもよいかもしれない。

それについては、民法では第967条で「普通の方式」として、3つの方式を明示している。

①自筆証書、②公正証書、③秘密証書である。

(普通の方式による遺言の種類) 
【第九百六十七条】
遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。 

(自筆証書遺言)
【第九百六十八条】
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。 

2    前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。 

3    自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

以上である。

公正証書や秘密証書として遺言を作成する場合は、第969条と第970条を読んでみると分かるだろう。ここでは、省略させていただく。

さて、自筆証書は、遺言者自身が自分の手で全文を書き、日付と自分の氏名も書き加えて押印する必要がある。

自筆しないで作成した財産目録があれば、その目録1枚1枚に、署名と押印が必要である。

また、いったん自筆した文言等に訂正があれば、変更した旨を付記して署名と押印をしなければ、単に二重線等を引いて直すだけでは効力が生じないということも定められている。

最近は、パソコンでの文書作成が当たり前になり、筆で何かを書くことは、よほど趣味や仕事でない限り、めったにないだろう。

しかし、自分が心置きなく安心して死ぬためには、遺言書だけでも一大決心して、昔のサムライのように半紙に筆で書いてみるのもよいかもしれない。

老後の備えに習字でもやってみるかと思い立てば、なお良いことだろう。

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