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未来をラミネートして:アパレル店長物語 Epi.6

「インフルエンサー」や「Google」や「ソーシャルメディア」の時代の前には、私たちは自分の足で物事を発見しに行かなければなりませんでした。あの積極的だった日々を再発見しましょう。

前回のあらすじ:
取締役の言葉に触発され、新しい挑戦を決意しました。全顧客にサンクスメールを送る戦略を実行し、携帯サイトも作成して商品情報を配信しました。テナントの歳末抽選会で、私の顧客様が、フィジー旅行に当選し、一緒に行くことに。心身ともにリフレッシュしました。元旦に川崎大師でおみくじを引き、「大吉が出るまで引く」という祖母の教えに励まされ、決意を新たにしました。前職の上司の紹介で人材育成のスペシャリストA氏に出会い、コーチングの本を受け取ることで、新たな方向性を見つけました。

3.4 ビジネスの基本3原則

その頃、私はホームページ作成とインターネットマーケティングで成功していた本田晃一さんのメルマガを購読していました。ある日のメルマガが私の目を釘付けにしました。

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さて、今回は僕の大好きなテーマ「お金の稼ぎ方」についてです。皆さんは、ビジネスの基本3原則をご存知ですか?

それは、
1. 新しいお客さんをたくさん見つける(新規顧客開拓)
2. 来店時にできるだけたくさん買ってもらう(客単価を上げる)
3. 何度も来店してもらい、何度も買ってもらう(リピーター)
ビジネスをシンプルに言うと、この3つに尽きるのです。

* * * * *

「Wow! この3つの視点からやるべきことを考えればいいのか!」と、まさに私が知りたかった情報でした。しかし、どこから始めるべきか? いや、全部一斉に実行するのだ。新規のお客様をリピーターにして、毎回のお買物で客単価が高ければ、セールスが上がることは確実だ! 興奮が込み上げてきました! 

私はこれまで、接客力を高めることや顧客力を強化すること、働きやすい職場作りに取り組んできました。しかし、最も重要な「新規顧客の獲得」に手を付けていないことに気付かされました。
さらに、ショッピングモールの店長会議で研修コンサルタントが言いました。「内側から見ている店長はまだまだ。外側から観る店長ができる店長だ」と。私がやっていることは内側のことばかり。社長が「渋谷店のウインドウは、学芸会みたいだね」と言い放ったとき、それが社長が「外側から見ていた」ということに気付かされたのです。また、私の評価をするどの上司も私が内側でやっていることなんて、知る由もありません。やっていたことの小ささに気づきました。

だんだんと自分が取り組むべき課題の構造が見えてきた頃、『幸せの小金持ち』の小冊子を下さった男性のNさんが、ドライブに誘ってくれました。それはとても良い気分転換になりました。その帰り道、なぜかキンコーズに立ち寄りました。その日の写真をプリントするためです。シャチと撮影した写真をプリントし、Nさんがパウチしてくれました。そして、「ひとみちゃん、ここにサインを書いて、『ついてる!』と書いてくれる?」と言うのです。その提案に爆笑しながら、私は応じました。もしかしたら、サインをする未来が来るかもしれない! そう信じました。

3.5 質問の魔法:自分で見つけた成功の鍵

さて、新規顧客をどう獲得するか? まず考えたのはウインドウディスプレイ。しかし、それだけでは不十分です。2004年当時、ファッション誌の影響力はまだ強かったものの、社長の戦略で銀座店のブランディングが進められる中、渋谷店の露出は今後減らされることが決定していました。雑誌に商品が掲載されないとなると、新しく渋谷店を知る人が減ってしまい、とても不利な状況に感じました。

私はお店のメルマガと携帯サイトを始めましたが、これはリピーターを増やすための戦略に過ぎません。もっと渋谷店を外の人に知ってもらうにはどうすれば良いのか? さらに、私の給与も入社してから2カ月後に店長手当でアップした以降、変わっていませんでした。引っ越しで家賃も上がり、給与もアップしたいと強く思いました。
「月5万円、給与をアップさせるにはどうしたらいいでしょうか?」

Nさんの知人であるTさんに相談しました。Tさんは、コンサルタントの仕事をしていたので、具体的にアドバイスを求めました。私は、どうアピールをすべきか? 一緒に考えることになるのかなと思っていましたが、Tさんのは、想定外の切り返しをしてきました。

「もし、月給100万円の店長なら、何をする?」と逆に質問してきたのです。私は即座に「ホームページを作りたいです」と答えました。するとTさんは、「じゃあ、作れば?」とあっさり言いました。まだその時代は個人でホームページを作っている人がほとんどいなかった時期ですが、Tさんは既に発信をしており、私の購読するメルマガのHさんもホームページを作って成功された方でした。そんな周りの人たちに触発され、私もいつか自分のホームページを持ちたいと考えていたので、「ホームページを作りたいです」と即答したのです。月給100万円なら、自分でホームページ作成のソフトを購入するのも容易なことです。すっかり気分が100万円店長になったのですから不思議です。

「どうすれば作れますか?」と質問すると、「ホームページビルダーを電気屋で買えるよ」と教えてくれました。

月5万円の給与アップにばかりこだわっていた自分が小さく感じました。月給100万円の店長ならば、他にも自腹でお金をかけて色々なことができるのでは? と、急に思考の制限が外れました。質問の力の凄さを初めて実感した瞬間でした。
思い立ったが吉日! 翌日、私は電気屋へ駆け込み、1万円のホームページビルダーを購入しました。もちろん、上司に断ることなく作業を開始。もしバレてお叱りを受けたら、会社を辞める覚悟も決めていました。

初めての試みでしたが、私は電化製品には勘が働くタイプでした。新築の部屋に引っ越したばかりで、仕事が終わった後も夜な夜な作業を続けました。その結果、トップページ、店舗の所在地、新商品のページを備えたシンプルなホームページが、5日間で完成しました。どうやって作ったのか? 言語化できないほど、無我夢中で取り組みました。ちなみに2004年3月、私の部屋のネット環境は、ADSLも開通していない頃です。

翌日、渋谷店のスタッフたちに見せると、皆が驚きの声を上げました。こうして、私はようやく「成長」への一歩を踏み出したのです。

3.6 ドレッドヘアの新人
渋谷店の新しい戦略が始まった頃、新人スタッフの採用が決まりました。面接を担当したのは副店長の男性で、そのときたまたま私は面接には関わりませんでした。採用されたのは20代前半の女性で、なんとドレッドヘア! 彼女のファッションは個性的で、目鼻立ちもはっきりしているため、初めて見ると少しとっつきにくい印象を受けるかもしれません。しかし、社長はその新人について、「最近渋谷店に入ったドレッドヘアの子、いいね」と言ったのです。この言葉には少し驚きましたが、思い返せば銀座店でも、店のブランディング戦略の一環として販売員ではなくモデルをアルバイトで採用する試みが行われていました。お店の看板娘のような存在も必要なのかもしれない、と考えるようになりました。

その新人スタッフ、Oさんとはどう会話を始めたらいいか少し戸惑っていました。けれども、経歴を聞いてみると、なんと私と同じ高校出身で、しかも担任の先生まで同じだったのです。この驚きのシンクロニシティに、私は彼女との出会いは必然だったのかもしれないと感じました。

ファッションに関して私は苦手意識があったため、Oさんから色々と教えてもらいたいと思い始めました。彼女の独特なスタイルやセンスは、私にとって新しい視点をもたらしてくれるに違いありません。

■編集後記
今回のタイトル(原題)は、Laminating the futureです。英国人の英会話の先生が、今回の話にはいろいとレトロなものが登場しますが、中でも「ラミネート」に大うけでした。私がラミネートをして、そこにサインを書いたものは、まさに「Laminating the future」だねと。(笑)
昭和にラミネートをしたスターのカードとかもありましたけど、自分のも作ってみるといいかもしれませんね。(笑)

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