『空翔けるファーストペンギン』第16話「ペンギンたちの作戦会議③」


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「本っっ当に、本当に本当に、本当に……! 本当に私とタッグを組んでくれるんですか!?」

「ま、まぁ、せっかくカケルさんが誘ってくれたんですから。正式に組むかどうかはまた別として、とりあえず話し合いだけでもしておこうかと思いまして。方向性が合えば組むし、合わないなら組まない。とても簡単な話でしょう?」

 肇が柚希にDMを送った日から数日後。お互いの休日が一致した日を見計らい、柚希を肇の自宅へ招く形で話し合いの日を設けた。柚希にとっては、「福岡小説の会」終了後に酔っ払って転がり込み、そのまま酔った勢いでタッグを組もうと申し出た日以来の肇の自宅であった。

「いやぁ、まさかソラさんが申し出を受け入れてくれるなんてなぁ。今からワクワクしてます! 一体どんな作品が出来上がるんだろうって!」

「ち、ちょっと待ってください! まだ正式に組むとは決まっていませんからね! 第一、まだお互いのことすらよく分かっていないんですから。そもそも、自己紹介の時点ですでに方向性が違うなって思う可能性も無きにしも、ですよ? また、仮にタッグを組むにしても、ベテランのバンドグループが方向性の違いで解散するように、ある程度活動してから解散するのもなかなかキツイじゃないですか。芽が出ず年月だけを重ね、大したスキルも持たずに残りの人生を……」

「ソラさん! ソラさん!」

「この昨今、再就職も厳し……、ん?」

「まだ何も話し合ってないのに、よくそんなに饒舌に話せますねぇ。さすが、日本語力や文章力、表現力なんかに長けているだけある!」

「ちょ……、カケルさ……」

 褒められているのか馬鹿にされているのかよく分からない柚希の言葉に、肇は面食らってしまう。それと同時に、柚希の指摘通り、まだ話し合いどころか自己紹介すらスタートしていないのにもかかわらず、自分の意見を捲し立ててしまっていたことに恥ずかしさを覚えた。

「う……うゔん。た、大変失礼しました。気を取り直して、まずは初めに自己紹介からいきましようか。じゃあ僕から」

 肇は自身の本名や小説家を目指している理由、そのために定職には就かず時間の融通の効くバイトをしていること、そして自分の書きたいジャンルや得意としているジャンルなどを伝えた。

「そうだったんだ! ソラさんが書く小説は、ソラさん自身の経験やソラさんが実際に見聞きしたことなんかが元になっていたんですね! そこにソラさんなりの演出を加えていくと。ソラさんは文章が上手なだけでなく、そんなことまで出来ちゃうんだ!」

 柚希は決してお世辞でもなんでもない、率直な意見を肇に伝えた。ただひとつ、どうしてそこまで出来るのに話が単方向でつまらなくなるのか? というネガティブな意見を除いて。

「でもなぁ……。いくら面白そうな話が書けそうな経験があって、そこにプラスする魅力的なアイデアが浮かんできても、不思議と全然読まれないんだよ。なんでだろうね?」

 それはあなたの話の構成力や工夫が足りないからでは? など、柚希はとても言える雰囲気ではなかった。言ってしまうと、すぐにでもタッグを解消されかねないからであった。

「じゃあ次はカケルさんの番ですね。自己紹介よろしくお願いします」

 肇から促された柚希は、肇に倣うように本名や小説家を目指している理由、今は介護施設でパートとして働いていること、そして自分の書きたいジャンルや得意としているジャンルなどを伝えた。

「なるほど。カケルさんは割といろんなジャンルを書いてるけど、どれもちゃんと面白いですよね。期待を良い意味で裏切るというか、読者を飽きさせない工夫と、話の構成力が抜群に上手だなっていつも思います。しかし……」

「しかし……?」

「カケルさんは日本語力や文章力があまり高くないから、読んでいて凄く気持ちが悪く、モヤモヤしてしまいます。これではせっかくの良い物語も台無しになってしまう。面白い話を書く以前に、読者に気持ちよく読んでもらうというのは大前提でなければなりません。その前提が崩れてしまっているので、面白いなって思っても途中で読むのをやめてしまう。これは非常にもったいないことだと思いませんか? そもそも……」

「ち、ちょっと待ってください! ストップ! ストーップ!!」

 管を水がなめらかに流れるように捲し立てる肇を、たまらず柚希が止めに入る。それに気付いた肇は、まるで自分に取り憑いていた何かから解放されたような感覚に陥り、そして一旦、話すのをやめた。

「あ、あぁ、すいません。つい熱が入っちゃいまして」

「いや、別にいいんです、いいんですよ。私の悪いところをズバリ指摘してくれているので。でも、ちょっとペースが早いですかね。全くついていけませんでした」

 そう言われて初めて、少し言い過ぎてしまったと肇は反省した。肇は恐る恐る、柚希の顔を改めて覗く。すると、不思議なことに、柚希の顔は笑っていた。

「少し言い過ぎてしまいましたね……。カケルさん、怒ってないんですか?」

 そう聞かれた柚希は、先程の笑みに加えて、さらに笑顔になり、終いには、壊れたおもちゃのように突然笑い出した。

「はっはっは! そのズバズバと物言うソラさんが良いんですよ。まるでこう、マシンガンのような? 聞いていて心地良いくらいです。いやぁ、ソラさんは本当に面白い人だなぁ」

 笑いながら話す柚希に、肇は少し恐怖を感じた。そして、再び反省する。いや、後悔の方が近いかもしれない。心の中でこう呟いた。

「俺はなんて変な奴とタッグを組んだのだろうか」




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