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「あちらのお客様からです」 〜短篇〜

 

 どもです、御子柴です。

 今日は、いつもの短篇集からではないところからお話を持って参りました。

 

本篇

 

「あちらのお客様からです」

 マスターが、カウンターの端に席を取っているあの娘へとカクテルを渡すのを確認しながら、俺は手元にあるジントニックを啜った。
 ときどきこのお店のカウンターで、ひとり楽しそうな笑みを浮かべながらお酒を楽しんでいる女性。
 キュートなえくぼと、まぁ、その、あれだ。
 ……素敵なバストをお持ちでいらっしゃる方だ。

 彼女が、少しだけ疑わしい目をしながらこちらを見てきた。
 できるだけ爽やかな感じで笑みを返すと、なんとも中途半端な笑顔が戻ってきた。
 えくぼは見えない。
 まぁ、最初はそんなもんだろう。

 彼女へのプレゼントは、アイ・オープナー。
 こういう時のために調べておいたカクテルのひとつ。
 
 お酒言葉というものを知っているだろうか。
 カクテルには、それぞれ花言葉のようなモノがあるわけだ。

 アイ・オープナーの酒言葉は『運命の出会い』。
 我ながら気障ったらしくてアレだとは思うが、酒の力さえあればこんなもの、障害になんかなりやしない。
 彼女がそれを知っていようがいまいが、関係ない。自己満足でも何ら構わないわけだ。
 さらに言ってしまえば、別段運命でも何でもないわけだったりするのだが。

 そんなことを思いながら彼女を見つめていると、徐にマスターへと耳打ちをし始めた。
 何だろうと思いつつもそのまま眺めていれば、今度はマスターがこちらへ向かって微笑んできた。しかし、何となく苦笑いのようにも見える。

 本当に、一体何なのだろう。

 そう思っているうちに、手早く一品作り上げたマスターがこちらへと近づいてきて、たった今出来上がった物を渡してきた。

「あちらのお客様からです」

「これは……?」

 まさか。

「シャンディーガフになります」
 
 要するに、ビールのジンジャーエール割り。

 カクテル言葉は、『無駄なこと』。

 もう、この角度から、彼女のえくぼが見えることはなかった。
 
  
 
 

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あとがき、とか

 テーマは酒言葉。

 花言葉や宝石言葉のように、お酒にもあるのですよ、ということで書いてみた作品。

 以前、Twitterで「泥酔執筆会」という名前……だったかは忘れてしまいましたが。お酒をがっつりと飲んだ状態で時間内に書き上げて、その書いた作品のスクショをアップするという企画に参加した際に書いたものになります。

 たしかこのときは、9%系の缶チューハイのロング缶を1本と、ウイスキーをストレートでちょこっとだけ入れてたはずですね(はい、結構飲む人ですw)。

 とくにタイトルは決めていませんでしたが、『あちらのお客様からです』で良い感じがしています。

 今度は、単独企画でこっそりやってみようかな。note限定で。

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