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短編小説|後悔だけは…

どもども、明原星和です。

今回は、先月半ばにコロナウイルスにかかったとき、そういえばコロナがはやり始めた高校三年の初め頃に書いた小説があったな~、と思い出した小説を投稿します。

ちょっとした恋愛小説になりますので、コロナ関連の記載はあまりありません。

それでは、どうぞ。


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「やっほ、元気してた?」

 そう言いながら、スマホ越しに映る彼女、佐々木ささき暦美こよみは笑顔で手を振っていた。

「おう、元気だよ。お前は?」

 そんな暦美の質問に対し、俺、早川はやかわ啓太けいたはいつも通りの返事を笑顔と共に返す。

 今、世間はコロナウイルスの影響で混乱の最中にあり、日本でも外出を自粛するように政府が伝えている。そのせいか、今外を見てみても人っ子一人見当たらないという状態だ。

 日曜日の昼下がり。いつもなら子供たちが公園で遊んでいる声が聞こえてきたり、近所の奥様方が、世間話に花を咲かせている声が聞こえてきそうなものだが、聞こえてくるのはただひたすらに、の音や鳥の囀りだけだった。

 高校二年生がもうじき終わるという頃に、コロナウイルスが急に流行りだし、学校が休校になってしまい高校の二年生を共に過ごしたクラスメイトとも、名残惜しさを残したまま別れることになってしまった。更には、卒業式までもが中止となってしまい、部活でお世話になった先輩方の卒業を見送り、お祝いをすることもできなかった。

 そんな不幸が連鎖する中、俺の高校三年生は自粛という形で幕を開けたのだ。
 今まで経験したことが無かった感染症による恐怖は想像以上のもので、このままいつまでたっても収束はしないんじゃないのか? 何の楽しみも思い出も無いまま高校を卒業してしまうのではないか? などの普段なら絶対に持たない心配を抱えたり、ニュースでコロナウイルスについての悪い情報を聞くたびに、自分もコロナに感染してしまうのではないか? 酷い時は、コロナに感染して死んでしまうのではないか? という悪い想像が、頭の中を駆け巡り、不安で仕方がなかった。

 長い自粛期間は想像以上に不安で、そして想像以上に退屈でもあった。
 コロナウイルスが流行る以前ならば、かなりやっていたゲームも、今ではほとんどやらなくなっていたし、寂しくなって友人と電話をしたりしたが、楽しさよりも会えないことに対する寂しさのほうが増していき、そちらもしないようになっていた。

 ただひたすらに毎日息を吸い、吐く。吸い、吐く。

 勉強をしたこともあったが、なぜだか一人で黙々と勉強をすることに、これまでにない虚しさを感じてしまい、長くは続かなかった。

 そしてまた息を吸い、吐く。吸い、吐く。の繰り返し。

 時にはベッドに横たわりながら、時には椅子に座りながら、時には部屋の中をグルグルと歩きながら、ただひたすらに生きるをしていた。
 そんな不安と退屈が混ぜ合わさった日常を送る俺のもとに、ある日一通の電話がかかってきた。半ば放心常置だった俺は、ほとんど無意識にスマホを取り、電話に出た。すると、耳元からは聞きなれた声が聞こえてきた。

「やっほ」

 暦美の声だった。
 暦美とは高校からの付き合いで、一、二年生と同じクラスで、部活も一緒だった。
 お互い家が高校から離れており、電車通学なので、帰りはほとんど毎日一緒に帰り、行きでたまたま会うことも少なくなかった。
 そんな暦美からの電話に、最初は驚いたがすぐにその驚きは無くなった。
 その日から暦美は、毎日のように俺に電話をかけてくるようになった。初めは会えない寂しさのほうが強かったが、日に日に暦美と話すことが楽しくなっていき、会えない寂しさよりも暦美と話すことの楽しさのほうが強まっていった。
 いつしか暦美との電話は、一日の一番の楽しみになり、次第にコロナウイルスに対する不安や自粛で感じていた退屈さは薄まっていった。


* * *


「お前さぁ、いつになったら暦美ちゃんに告んの?」

高校二年生の夏。学校から帰宅中、隣を歩く伊瀬いせ俊馬しゅんまに不意に放たれた言葉だ。

「はぇ?」

 予想外の言葉に、思わず変な返事をしてしまった。

「はぇ? じゃねえよ。暦美ちゃん競争率高いから、さっさと告んないと誰かに取られるかもかもしんねえぞ」

 そう言いながら、俊馬はニヤニヤと笑う。
 俊馬とは小学校からの付き合いで、いわゆる幼馴染で親友と言うやつだ。
 こいつは昔からこうで、俺の全てを見透かしているぞと言わんばかりの言葉を放ち、そしてニヤニヤと笑う。最初の頃は、まったくの的外れなことを言ったりと、正解率よりも圧倒的に不正解率が多かったが、一緒に過ごしていくうちに段々と的を射る発言が増え正解率も高まっていき、今では本当に俺の全てを見透かしているんじゃないかと思うほどに、的確な発言をしてくる。長い付き合いの幼馴染で親友とは恐ろしいものである。

 しかし、今回の発言が的確かどうか。それは、当人である俺にも分からなかった。
 暦美のことが好きか嫌いかと問われたら、間違いなく好きと答える。しかし、それはあくまで人として、友人としての好きであり、異性としての好きではない。と、俺は思っている。
 正直な話、今まで恋というものを経験したことが無いので、異性として好きという感情が分からないのである。
 暦美と一緒にいるのは楽しい。とても楽しい。一緒に部活をする時も、一緒に帰宅する時も、暇な時間にただ喋っているだけの時も、どれも例外なく楽しい。
 暦美とずっと一緒にいれたらどれだけ楽しいだろうかと考える時もある。
 でも、これが恋愛感情なのかは、俺自身よく分かっていない。

「まぁなんだ。ゆっくりと関係を進展させるのも悪くはないと思うけど、あんまりゆっくり過ぎるのも考え物だぜ? 少しくらいギアを入れて、進展スピードを上げてもいいんじゃないか?」

 その言葉を最後に俊馬とは別れ、俺は自分の岐路に着いた。

 その間、ずっと俺が暦美のことを好きなのかどうかを考えていたが、結局答えは出ないままだった。
 その先もずっと、このことについて悩んでいたが、結局どうなのかの結論は出ず、そうこうしている間にコロナウイルスが流行りだし、自粛期間が始まった。
 はじめは不安で退屈だった自粛生活も、暦美との電話を皮切りに、不安も退屈も吹き飛んで、楽しい生活を送れるようになっていった。
 そして、暦美との電話の中で俺は、早く暦美に会いたい。会って一緒にまた楽しい生活を過ごしたい。と強く思うようになっていた。
 そこで、ようやく俺は自分の気持ちに気付いたのだ。

 ——あぁ、そうか。俺は暦美のことが好きなのか。


* * *


 長い自粛期間を終え、今日はついに登校日だ。
 あれほど長く感じた自粛期間も、過ぎてしまえばあっという間で、授業が再開してしまうことへの面倒くささは少々あったが、やっと学校が始まるということへの高揚感のほうが断然強かった。

 家から最寄り駅まで歩いて電車に乗り、五つ行った先の駅で降りて学校までまた歩く。

 二年間、毎日ほぼ欠かさずに通っていた道が、今では異様に懐かしく思える。

 家の近所で飼われているよく吠える犬も、最寄り駅に立っている、古ぼけて錆び付いている郵便ポストも、自転車に乗って登校している同じ学校、もしくは違う学校の人たちも、今まであまり目に留まらなかったものでさえ懐かしく感じる。

 高校の校門が見えてきた。
 それと同時に、胸の中から何か熱いものがこみ上げてきて、目元が少しだけにじんでしまった。
 またいつも通りの日常が始まると思うと、嬉しくてたまらないのだ。
 今まで頑張ってきた部活動の最後の大会は中止になってしまった。これから先、体育祭や文化祭などのイベントも中止になってしまうかもしれない。でも良いのだ。また、今までのように学校で、友人たちとくだらない話で盛り上がったり、一緒に騒ぎながら登下校できるというだけで、俺は大満足だった。

 しかし、一抹の不安もあった。

 それは、コロナウイルスの影響で、またしても自粛しなければならない時が来てしまうかもしれないということだ。
 先の自粛期間で、俺は大いに思い知らされた。
 いつもどおりが奪われてしまう恐怖、孤独であることの寂しさ、ただ無益に日々を過ごすことの虚しさ。そして、気持ちを伝えられないかもしれない、伝えてしまったらどうなってしまうのかという不安も。
 少し重い足取りで校門の前まで来たところで、背中を軽く叩かれる。
 反射的に後ろを向くと、そこにはいつもと変わらない笑顔の暦美が、胸の前で右手を小さく振っていた。

「やっほ。久しぶり。元気してた?」

 俺はいつも通り、「おぅ」と返事をしかけたが、既の所で飲み込んだ。

 暦美への気持ちに気付いた時、俺はこの気持ちを暦美に伝えたいと思った。

 でも、同時に伝えるのが怖いとも思った。

 この気持ちを伝えてしまうことで、今までの関係が崩れてしまうことが怖いのだ。

 でも、そんなことに怯えて、この気持ちを伝えなかったら、俺はきっと一生後悔するだろう。そうだ。今回のことで嫌というほど思い知っただろう。この気持ちが、いつでも伝えられるわけじゃない。いつもどおりなんていつ奪われてしまうか分からないんだ。

 そう思い、俺は決意する。この気持ちを、好きという言葉を暦美に伝えると心に決める。

 今すぐじゃなくていい。少し時間がかかるかもしれないけれど、今まで以上にスピードを上げて、関係を進展させよう。そして、いつもどおりが奪われる前に好きと伝えよう。

 たとえ結果がどうなろうと構わない。振られることよりも、気持ちを伝えないまま永遠に後悔し続けるほうがよっぽど嫌だ。

 後悔だけは、絶対にしたくないから。

 そう思い、俺は暦美に返事を返す。いつも通りの返事ではなく。いつも以上に優しい笑顔で。いつも以上に気持ちを込めて。言葉を発する。

「久しぶり。ずっと会いたかったよ。暦美」

 そう言い放ち、俺は進むスピードを上げた。


~END~

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
冒頭にも書きましたが、こちらは高校三年生のコロナウイルスがちょうどはやり始めた頃に書いた小説になります。
当時の僕は小説というものに触れ始めたばかりで、今まできちんと小説というものを書いてきたことがありませんでした。
ということですので、ほぼ修正せずに投稿しましたこちらの作品は事実上の処女作ということになります。(黒歴史小説を除いて…)
別にだからというわけでもなく、保険というわけでも何でもないのですが、文章がつたない箇所があったかもしれません。申し訳ないです。
ほぼ処女作となるこちらの作品と、今後とも投稿させていただく作品との差といいますか、成長ぶりを見ていただく…なんて楽しみ方をしていただけますと、幸いでございます。

#短編小説
#恋愛小説

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