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近未来SF連載小説「惚れ薬アフロディア」No. 11-2 絶壁の教会(2)

Previously, in No.1~11-1 (全12回):


分裂した人格のワル美にフル・コントロールされた朋美は、カクテルを片手にサラサーテ首相の演説に聞き入る人たちの中を、絶壁の岩島の頂上の会場の簡易トイレが並んだ一角へと向う。

設置された簡易トイレのひとつに、扉の前の2段くらいの段を上がって入る。中から鍵を閉める。

イベント用の昔ながらの最小限の作りのものにちょっと高級感をもたせたもので、トイレそのものは上部の大きなタンクからの水で流して下部の大きな汚水タンクに貯めるだけのシンプルなものだった。事前情報どおり、内部の上部にある水タンクは蓋がはずれるようになっている。

ヒールを脱いで、蓋をした便器の上に立って、タンクの蓋をはずす。

遠隔起爆装置となる腕時計をはずして、爆発物が織りこんであるパースにいれる。

そしてそのパースをタンクの中にそっと沈める。映画ゴッドファーザーの警官暗殺シーンでアル・パチーノが隠された拳銃を取り出すのとまったく逆の動作で。

すべてが計画どおりだった。

後はMr. Xのチームが、花火打ち上げ後のタイミングで遠隔で起爆装置を起動させて、強烈な爆風を起こすという新型特殊爆弾を作動させるだけであった。

ワル美に残されたミッションは、怪しまれぬようにそこからなるべく遠く、できれば300m以上離れた岩島の中腹くらいまで退避すること。その時間は十分あると説明されていた。起爆はワル美が安全な場所まで離れたことがGPSで確認されてから実行されると。

トイレに入ってすぐ出ると怪しまれるので、5分ほどトイレにとどまる。

外ではちょうど熱狂的な口調のプチドモン首相の演説が聞こえてくる。

マイクがルウェリン首相に渡されたころ、ワル美はトイレを出る。

監視の目があったのでトイレから直接外へと続く石段のほうへ行くのは辞める。

いったん、リュイスいる方向に戻ってから石段へと向かうことにする。

ルウェリン首相が、毒舌で皮肉たっぷりで怖いもの知らずのコメントを早口でずばずば言っている。

思ったより早く演説が終わる。マイクがホストのサラサーテ首相に戻される。

スタッフに促され、3人の首相は、壇上で笑顔で肩を組む。

四方に据え付けられたカメラがその様子をそれぞれの母国そして世界にライブ放映している。島の上空にはドローンカメラも数機飛んでいてその映像を捉えている。

サラサーテ首相がバスク語で高らかに、「独立万歳」と叫ぶ。

島に仕掛けられた花火がいっせいに打ちあげられる。

歓声があがる。

それと同時に、轟音がする。
簡易トイレのひとつが爆発する。

そして連鎖的に10室ほどあったすべての簡易トイレが爆発する。不思議にも引火を伴う爆発ではなく、風船が破裂するような、爆音と爆風が起こる爆発だった。

爆風が、簡易トイレの壁とともに中にいたゲストの体を吹き飛ばす。

腕や脚や頭や抉られた内臓や、ばらばらに引きちぎられた体の部位が鮮血を赤い飛沫のように飛び散らせて四方へ飛んでいく。

パーティ会場にいた参加者全員、壇上の三首脳も、スタッフも、警備の人間もことごとく強烈な突風でその場になぎ倒される。ほぼ皆が気を失って死体のように転がる。

すべての電気系統、ライト、カメラが破壊され、ライブ中継は突然中断される。空中のドローンカメラも吹き飛ばされる。視聴していた全世界の8000万人のビューワーのTV画面が突然固まる。

絶壁の岩島の上半分が一瞬の内に爆音とともに夜の闇に消えた。

爆風は、海上から島を警備していた警備艇を大きく揺らした。

(No.12 「エピローグ」に続く)


今後の予定
No.12 「エピローグ」(最終章)

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとはこれっぽっちも関係ありません。医学的な知識はまったくでたらめで、SFなので政治的な内容はまったくの妄想で幾ばくかの根拠もありません。

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