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『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を読んで。~くたばれテンプレート!虚飾の向こうにある超リアルを我々は求めている!~

1989年生まれの著者の語彙力に圧倒されながらも、ようやく読了。
文中で、鴨長明を諳んじるほどの、人文肌ディレクターのグルメ体験記だ。

随所に顕れる文学的表現と、見覚え聞き覚えのない単語たちが網羅されており、とにかく文才を感じとる。

文学肌の人間が、この世の終わりのような世界の片隅に赴き、死にそうになりながら、現地の人間の食をリポートする番組のスピンオフ本。

世界中の不幸が、肉眼と、カメラと、舌で、記述されている。


著者の上出遼平は、1989年生まれ。現在30歳前後といったところか。

社会ではこれから活躍を期待される頃でもあり、世の中も色々見えてきて、自己のアイデンティティもほぼ確立されてくる年齢だ。

上出氏の、一貫している姿勢は、人間という動物のリアルなありようをルポルタージュしたいという気持ちと、矛盾への問いかけ。
それらが全て、瑞々しい感性に貫かれている。

この地球で生きる事の意味を、食を通して、読者や視聴者に直球で投げかけてくる。それは、場末のテレビマンとして、自分のやりたい事が深夜番組とは言え、出来るという喜びと、ある種の反骨、何かの革命を狙っているような怖ささえもある。

気骨のある30歳が、まだ日本にいたものだと、やたらと感心してしまった。

安易なテンプレ人生を送る若人、
誰かの受け売りで、世の中舐め腐って生きている奴、
ふんぞり返って世の不幸とは無縁の権力者、
そういう者たちへのアンチテーゼとして書かれているような気がしてならない。

この世の悲惨の全てをかき集めたようなリベリアでは、人食い少年兵を通して、戦争の無意味さ、残酷さを改めて浮き彫りにしている。
大国のエゴによる後進国の戦争。少年・少女たちはどこまでも犠牲者なのだ。

ロシアのカルト宗教村への潜入食レポもなかなかにスリリングだ。
宗教という日本のメディアではタブー視されているエポックに、若き著者は、持論を堂々と挟み込んでくるし、その視点には、若者の葛藤が顕れてて、率直に共感できる。

勧誘したい教団側、バラエティ的録れ高が欲しい著者との攻防など、日本にあるどの宗教団体でも行われている日常茶飯事が、ロシアの僻地でも同様に繰り広げられている事が滑稽でならない。

宗教というものの持つドグマとマインドコントロール、そして信者たちの熱心な布教のありようは、それそものが、自己と他者への救済だと信じて疑わない者たちの、お節介にすぎないのだが。
それらの行動によって、ステータスを得られるのは事実なので、そこを部外者が断ち切ることはできない。
勧誘される側がどれだけ、迷惑をこうむっても、相手はガチンコの善意なのだから、どれだけ言っても無駄なのだ。度を過ぎれば、法を犯すが、そのあたりは、信者たちは過敏に感じ取って一線を引く術も心得ている。

そういった、ドグマに支配された人間と、日本の文学肌の青年との、やり取りは、ある種ユーモラスに映るし、その感情を上手に記述している著者の語彙力が、とても素晴らしい。

願わくば、この新進気鋭のテレビマンのディレクターに、信濃町に潜入して頂いて、かれの目から見た、日本最大の宗教団体のありのままを、体験してほしいし、それを世の中に広めてほしいと思う。

虚飾の向こうにある、超リアルを、我々は求めているんだな。

テンプレートはくそくらえっ。