見出し画像

医療事務職が他業種の「経営」に目を向ける必要性


【はじめに】

 私は大学を卒業してから公的総合病院に入職後、転職し現在は中小病院で勤務をしています。
所謂、医療業界以外の一般企業を知らない「医療機関の経営思考に染まった人材」と言えると思います。
そこで改めて医療業界に勤めて約10年経過した中で一般企業経営と医療機関経営との異なる点に焦点を当て私なりの見解を交えつつ書き記したいと思います。


【価格競争の違い~価格差別化の度合い~】

 一般企業と医療機関の経営における大きな違いの一つ目は競合との「価格競争の違い」だと思う。言い換えると価格の差別化の度合いである。
言うまでもなく一般企業は自社のサービスを自由に価格設定し販売できる。
一方で医療機関は国からの様々な制度や対策による規制を強いられ、一部の自費サービス等(自由診療や個室料等)を除いてほぼ全てが診療報酬(1点10円)による公定価格となっている。
このサービスにおける対価に関しては一部の医療機関側からすると「他医療機関よりも質の高いサービスや技術力を提供しているのになぜ平等なのか」と不満の声が上がるかもしれない。
この発言には何とも言い難いが、一般企業に比べて多くの医療機関はサービスの価格設定やサービスそのものを新たに考案する時間はあまり発生していないと思う。
言い換えるならば一般的な企業におけるリスク要因が医療機関では少ないという事であり、むしろ時間というリソースを他に費やす事も可能と言える。
つまり、医療機関はサービスの価格が公定価格である分、ある程度医療制度や診療報酬改定等の動向を確認する事で将来予測が可能であるという点において、一般企業と比較すると環境要因におけるリスクが低い特徴がある。

 上記を踏まえて私なりの見解であるが、良くも悪くも医療業界は国からの恩恵を受けているにも関わらず価格競争がない為、他者との違いを生み出し新たなサービスを考案するという「生み出す習慣」のない経営人材が多い印象を受ける。(※私自身も含む)
例えば一つ医療事務職員(医事課所属の事務)を例にするとレセプト点検において算定漏れ防止にあまりにも時間をかけて注力する人材が多い。
勿論、算定漏れを防止する事は医療機関の収入に直結する為注力すべき必須の業務である。しかし、それはあくまで医療事務として最低限の業務であり新たに価値を生み出してはいない。
それよりもレセプト点検業務には一定の限度を設定し、接遇等のサービスを充実させる時間を捻出し他院との差別化を図ったり、自費サービス等に関して新たなサービスを考案する等の他院との違いを生み出す為の時間に費やす方がよほど重要だと思う。
しかしあくまで理想論でもある為、各々の医療機関の方針・体制・特性に合う独自のサービスを検討することが必要である。


【需要と供給の母数の違い】

 二つ目の一般企業と医療機関の経営における大きな違いは、競合相手や顧客がほぼ日本国内に絞られている為、「安定した需要が見込まれる」点。
まず「医療」は人が生きていく上で欠かせない本質的なサービスである為、他業種と異なり必然と需要が見込まれやすい業種と言える。
また、日本国内で言えば所得に関係なくほぼ全ての人が利用できあらゆる医療機関へフリーアクセスもできる。
社会保障費や医療費に関する問題は山積みではあるものの一般企業と比べると需要の高い業種である事は間違いない。
 今や先進的な一部の医療機関は世界へ進出し事業拡大に取り組んでいる動きも見受けられるようになってきた。また、メディカルツーリズムも今後需要は増えていくだろう。
とはいえ、未だに多くの医療機関の競合相手は日本国内の医療機関であり、顧客(患者)も日本国内が多いのが現状である。
そういう意味でも一般企業のように世界を相手にサービスを提供するようなスケールとは違い、医療機関は主に国内を相手にサービスを提供する点において、需要と供給に関して明らかに母数に違いがあると言える。

【まとめ】

 上記で述べたような医療業界独自の特色の弊害が昨今「医療機関にも経営が必要だ」と常々言われている一つの理由だと思う。
確かに私自身も声を大にして言える立場でも無いが、他業界に就職している友人や知人の話を聞く限りでは、自院の将来を見据えた分析や戦略のできる人材、新たなサービスを生みだす視点を持った人材、等の育成に関して医療業界ないし病院事務職は今以上に改善していかなければならないと感じている。
 今後も当面の間、多くの医療機関は医療制度や診療報酬制度のレールに合わせた経営をする事を余儀なくされるだろう。
しかし、そのレールから脱線しない程度に新たな独自のレールを作り出す視点が更に必要になってくると考えている。
ましてや「病院完結型」から「地域完結型」医療へ更に舵取りをしなければならない状況下では、院内の枠に留まらず外部への広い視野が必要な事は言うまでもない。
 
 現在、コロナ禍で人々の生活様式が劇的に変化している。
一般企業や医療機関の経営の違いを改めて振り返る事でお互いに相互補完し合える「一般企業×地域完結型医療機関」を今以上に掛け合わせた医療を目指す事が今後さらに必要になっていくと思う。


※コーチングやキャリアカウンセリングに関するサービス内容についての
お問い合わせ、お仕事のご依頼やご相談等はお気軽にDMをお待ちしております。

ホームページ
https://www.tsurubami-careerconsulting.com

Twitter
https://twitter.com/ru_ba_go


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?