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ドイツの建築家資格について <前編>

およそ2年前の2019年の始めに、ドイツの建築家資格を取得しました。

ここでは自分自身への記録も兼ねて、ドイツの「建築家」の称号について、また資格の申請要件などについて個人の体験をもとに紹介していきたいと思います。
(2021年1月現在)

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免責事項
この記事は、あくまで筆者個人の体験と各関連機関のホームページ等の情報を基にした内容です。必ずしも正確性を保証するものではありません。内容を参考にした結果、いかなる不利益が生じても、筆者は責任を負いません。予めご了承下さい。

ドイツにおける「建築家」の称号について


ドイツでの「建築家」の認定と、その称号の使用について、ノルトライン・ヴェストファーレン州(以下NRW州)を例に、以下のようになっています。

NRW州建築家会議所HPより引用

Um als Architektin oder Architekt, Innenarchitekt, Landschaftsarchitekt oder Stadtplaner arbeiten zu können, müssen Sie Mitglied der Architektenkammer NRW werden. Anderenfalls dürfen Sie die Berufsbezeichnung "Architekt/in", "Innenarchitekt/in", "Landschaftsarchitekt/in" oder "Stadtplaner/in" auch in Wortverbindungen und ähnlichen Bezeichnungen nicht führen. Dies regelt das Baukammerngesetz des Landes Nordrhein-Westfalen (BauKaG NRW).

(筆者訳)
建築家、内装建築家、景観建築家、都市計画家として働くためには、NRW州建築家会議所の会員にならなければならない。そうでない場合、職名「建築家」「内装建築家」「景観建築家」「景観建築家」そのほか類似表現の称号を使用してはならない。これはNRW州の法律(BauKaG NRW)により規定されている。

つまり、ドイツにおける建築家資格要件は州ごとに異なる法律により定められており、各州の「建築家会議所 -Architektenkammer」の建築家名簿に登録されている者(会員)のみが有資格者となります。また有資格者のみが「建築家」の称号を使用することができ、「建築家」として働くことができます(いわゆる業務独占かつ名称独占)。

日本の一級建築士と同様に、ドイツでも名刺やメールの署名欄に「建築家」の称号が併記されます。資格の有無にかかわらず氏名の後に学位(学士、修士など)が併記されることが多いです。人によっては大学名を併記している人もいます。 

ドイツNRW州建築家会議所

NRW州の建築家会議所は私の活動拠点でもあるデュッセルドルフ市内にあり、建築家フランク・ゲーリーのアイコニックな建築が建ち並ぶZollhofに位置します。

“Neuer Zollhof” (image : risa kagami)

写真右手:建築会議所(image : risa kagami)



まずNRW州で申請をする場合、前提としてNRW州に滞在し、建築に携わる就労をしていること、もしくは開業等の活動をしていることなどが挙げられます(NRW州建築家会議所のHPより)。

滞在地と活動拠点で州をまたぐ場合も考えられますが、私の場合、滞在地であるデュッセルドルフを拠点とするドイツ人建築家の建築設計事務所で働いていたので、あまり迷うことなくNRW州での申請をすることになりました。

ちなみに、建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を受賞した建築家・槇文彦氏もNRW州の登録建築家(名誉会員)です。

活動拠点地を含む主な申請条件は以下のようになっています。

(NRW州建築家会議所のHPより引用)

Voraussetzungen
- Ihre Hauptwohnung, Ihre Niederlassung oder Ihr Beschäftigungsort liegt in Nordrhein-Westfalen.
- Sie haben ein Studium der Architektur, der Innenarchitektur, der Landschaftsarchitektur oder des Städtebaus mit einer Mindest-Regelstudienzeit von vier Jahren erfolgreich abgeschlossen.
- Sie erbringen einen Nachweis über eine zweijährige praktische Tätigkeit, in deren Verlauf praktische Kenntnisse und Tätigkeiten in den wesentlichen Teilen der Berufsaufgaben erworben wurden.
- Sie weisen Weiterbildungsmaßnahmen im Umfang von 80 Unterrichtsstunden gemäß der Fort- und Weiterbildungsordnung der Architektenkammer NRW nach

申請要件(筆者訳)
- 申請者の主な居住地、または勤務先・支社等がノルトライン・ヴェストファーレン州にあること。
- 建築、インテリアデザイン(内装)、造園(景観)、都市計画のいずれかの分野の4年以上の標準的な教育課程を修了していること。
- 2年以上の実務経験を通して、専門的業務の主要部分における実践的知識やその活動が身についたことを証明する書類を提出すること。
- 建築家会議所NRWの研修規定に基づき、80時間の研修を実施したことを証明しています。


専門分野による称号の違い

各専門分野による称号(申請枠)はそれぞれ、

建築家 Architekt / Architektin(男性 / 女性の呼称)
内装建築家 Innenarchitekt / Innenarchitektin
景観建築家 Landschaftsarchitekt / Landschaftsarchitektin
都市計画家 Stadtplaner / Stadtplanerin

に分類され、申請者の教育課程や実務経験に基づき異なる申請区分となります。

申請者の対象区分による資格要件の違い

資格要件は申請者の国籍や経歴により異なり、主にEU国籍であるか否か、ドイツ以外のEUの建築家の有資格者であるか否か、ドイツの建築教育課程を修了しているか否かなどにより異なります。(申請書類より)

私の場合、日本人かつ学位も日本で取得していたため、審査のより厳しい対象区分による申請(申請区分2.7 § 4 Abs. 3-5 BauKaG NRW)となり、以下8項目の要件を満たす必要がありました。

申請要件

0.建築家会議所への申請書
1. 高等学校の各種証明書
2. 大学/大学院の各種証明書
3. 実務経験 各種証明書
4. 建築家会議所による講習の受講証明書
5. 居住証明書 / 活動拠点証明書
6. プロジェクトの図面
7. 申請料

このように、基本的には経験をもとにした書類による審査(書類提出時に面接あり)で、日本の一級建築士のような筆記や製図の試験はありません。

ちなみに「3. 実務経験」は単純に2年以上の実務経験であれば認められるというわけでもなく、建築設計段階(フェーズ)などに関する諸々の付随条件をクリアしていなくてはなりません。「6. プロジェクトの図面」に関しても同様の付随条件があります。

そこで後編では上記0-7のそれぞれの申請要件の詳細と、申請の具体的なプロセスなどについて記していきたいと思います。

引き続きご笑覧いただけると幸いです。
ありがとうございました。


引用・参考文献

Architektenkammer NRW / NRW州建築会議所
Baukammergesetzドイツの建築家資格制度 
公益財団法人建築技術教育普及センター




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