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撮影日誌│2023 Febrary
「遺影を撮ろうよ。」
なんて話をしていたわけでは全くない。
今年の2月、福岡から東京に来た彼女と小旅行に出掛けた。
この寒さの中、わたし達が目的地に選んだのは、海の近くの小さな民宿。さらには暴風注意報が出ていて、風が吹けば悲鳴が出るくらいには寒かった。
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貸切の家族湯。
写真を撮るかどうかは分からないけど、一緒にカメラを持っていく。
身体と髪を洗って湯船に浸かる。
そうしているうちにやはり写真を撮りたくなる。
バスタオルを巻いて、脱衣所にカメラを取りに行く。
あたまを下に向けてファインダーを覗くと、水滴がぽたぽたと落ちて困ってしまった。それをみている彼女は愉快そうにしている。
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息を止めて、水中に沈んでいく。
口の中に貯めた酸素が端からぶくぶく。可視化されたそれをみて、生命活動が円滑に行われているんだなあとか、当たり前のことをぼんやり思う。
そうしているうちに、水中から勢いよく顔をあげる。
「ねぇ、前髪が今すごく変だよ。」
プレビューを見せると、最高に面白いね!と声をあげて喜んでいる。
なおしなよとは言ったけど、結局それは聞き入れられなかった。
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旅が終わり福岡へ帰る彼女を見送る。
帰宅した彼女からメールが届く。
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「ねぇ、あの変な前髪の写真あったでしょう?」
「なにかあるつもりも、変な意味も全然ないんだけどさ。もし私になにかあったら、あの写真を遺影に使ってよ。」
そんな話をしてからまだ半年も経っていないが、最近の近況を尋ねてみると、まだ年の若いパートナーが手術の出来ない癌を患って、抗がん剤治療を受けているんだと言っていた。
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とても不謹慎かもしれないのだけど、彼女の人間としての輪郭がくっきりとして私は少し安心している。諸々落ち着いたら正式に家族になる準備を始めていくようだ。