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おやじパンクス、恋をする。#221

 カウンターの向かい側にはテーブル席とソファ席がいくつかあって、その一番奥の、まあいわゆるVIP席みたいなところに、佐島さん達が座ってんのが見えた。

 佐島さんは絵に描いたような威張りっぷりで、ソファに身体を預けて両手を大きく広げ、足を組んで、咥え煙草で機嫌よさそうに話している。テーブルにはシャンパンだろうか、なんか高そうな酒が置かれていて、あれも社員なのかけっこうかわいいお姉ちゃん達も座っていて、なんつうかそこだけ銀座のクラブみてえな、ゲスい雰囲気がぷんぷんしてた。まあ、銀座のクラブなんて行った事ねえんだけど。

 店に入って三十分くらいだろうか、音楽のボリュームが下げられて、「えー、みなさん、お集まりいただきましてありがとうございます」とどっかから誰かの話し声がした。

 どこだ? どこだ? つってキョロキョロしてたら、テーブル席の一角にスポットライトが当たって、そこにマイクを持った嵯峨野が立っていた。梶商事に”新しいビジネス”を持ち込んだ出目金野郎だ。

「えー、本日はですね、既に私たちのビジネスに参画いただいているパートナーの方にも多く参加いただいております。もちろん、今後おつきあいすることになる未来のパートナー様も大勢いらっしゃることと思います。いずれにせよ、我々は共に時代の先端で未来を志向する仲間なのです」

 その語り口は独特で、淡々としていながらどこか熱を感じさせるっつうか、なんか聞き入ってしまうような声だった。ヤツが話している間もバックにはハウスミュージックが流れていたが、それがなんつうか、潤滑油的に作用している感じもする。

 とにかく嵯峨野は簡単な挨拶っていうか、テクノロジーがどうの哲学がどうのビジネスがどうのなんて結局何を言いたかったんだか分からねえような挨拶をして、今日は楽しむことに主眼をおいたパーティであること、とは言え一般公募にはない特典をプレゼントする用意があることを話して、引っ込んでいった。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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