おやじパンクス、恋をする。#240
「た、達巳さん!?」
可哀想に佐島さんは一瞬で狼狽えちまって、むしろこの爺さんの恐ろしさを知らねえ梶商事の若い奴らがなんだこの爺さんみたいな顔で睨みつけ、いやつうかハッピってことはこいつらカズんとこの会社の社員かよ、なんでこんな武闘派な雰囲気なんだとか何とか考えているうちに、あっさりと佐島さんは戦意を喪失。二時間ドラマの最後で心情を告白する犯人みてえにうなだれてしまった。
「佐島ぁ、一人ごとでやっとっちゃダメだろうが。会社はよ、みんなで会社じゃねえか」
カズのおやっさんの言葉に、佐島さんはブルっと震えた。
今更のようにそうか、と思う。確かカズの話じゃ、梶さんとカズのおやっさんは兄弟分みたいな関係だった。つまり、その部下だった佐島さんからすれば、クソおっかねえ社長の兄弟、つまりどう考えても頭の上がらない相手なわけだ。
「け、けど……達巳さん、こいつら私をいきなり襲ってきて……」
つっても佐島さんも一応はこの場のボス、社員たちの手前か、意を決したように顔上げて言った。
「私らは被害者ですよ。さっきなんて殺されかけて――」
「なあ、ここは俺の顔を立てて収めてくれや。梶の忘れ形見も泣いてんじゃねえか」
カズのおやっさんが言って、うん? 忘れ形見? ああ雄大のことかって思ったんだが、違った。おやっさんの後ろから、カズとボンに付き添われるような形で現れたのは、他でもねえ彼女だった。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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