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短編小説

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2023年1月の記事一覧

【始まりの鐘】

【始まりの鐘】

 姉と私はそっくりな双子。そんな姉は私の知人とイイ仲らしい。姉を大事にしてくれるだろうか。
「君たちを幸せにする」
 彼の真剣な目。嘘ではないらしい。
 しかし「結婚しよう」とためらいなく求婚された。残念。
 人違いしてるようじゃダメでしょ、と指摘すると。
「違わない。僕が結婚したいのは君の方さ」

【拡散希望】

【拡散希望】

 拡散希望。
 その一文以外には、犬の自撮りのごときドアップ写真。愛犬の可愛さをシェアしたいってか?
 にしては妙だ。住所の表示と、変な構図。まるで、場所を伝えるかのような。
 は!
 と、俺はそこへ走る。
 なんとか間に合った。倒れた男性が映っていたのだ。
 にしても、この投稿は一体誰が……?
「ワン!」

【1/100,000】

【1/100,000】

 出発前の機内、不安がる友人。
「事故の確率は10万分の1。それに私は強運。この空の旅も10万分の1の当選確率よ」
 安心させていざ離陸。
 が。

「見事に引き当てたわね」
 ハイジャック、嵐、片翼損傷で大パニックだった。
 着陸後、呆然とする友に微笑む。
「それだけあって無傷だったのが幸運ってことで」

【氷の魔法使い】

【氷の魔法使い】

「ちゅーもーく」
 クラスの中心で叫ぶ。
「今から氷の魔法を披露しまーす」
 なに、急にどうした、とざわつく皆。
 注目を浴びる中、両手で力を溜めるような仕草をして。
「大寒波ッ!!」
 一気に解き放つ。
 ……静まり返る教室。
 あまりのつまらなさに失笑すら起きない。
 俺は得意げに笑う。
「ほら、凍りついた」

【豊かな心】

【豊かな心】

 心を豊かにしたい。思い立ち、何でも屋へ依頼した。
 SNSのどうでもいい俺の投稿に、依頼通り百のいいねがついている。
 その後、数が数を呼び一万。
 だが、いくらいいねが供給されても心は満たされず、悟った俺はSNSをやめた。

 数日後。
「豊かになりましたか」
 と何でも屋。
 苦笑し、豊かだ、と答える。

【さよなら】

【さよなら】

 流行りの映画を面白いと感じない。
 そんな時に悲しくなるのだと、昔の彼は言った。
 そんな彼の描く作品が、大好きだった。誰の評価も得られず、闇の中で寂しげに咲く一輪花。
 今やその彼も一流作家。世界から賞賛を浴びる男は、きっと近頃の流行を楽しんでいることだろう。
 もう、私が知る由も無いけれど。

【死のノート】

【死のノート】

 隣の席の女子。前髪で片目を隠しており、いわゆる中二病っぽい雰囲気だ。
 彼女はときどき、真っ黒な表紙のノートを取り出しては何やら書き込んでいる。

「アイツ、また死のノート書いてるよ」

 遠巻きに二人の男子がバカにする。よく知りもせず馬鹿にするもんじゃない、とやんわり注意してやった。

 放課後、忘れ物を取りに教室に戻ると、彼女の机上に例の黒いノートが。開きっぱなしのそれを、俺は好奇心から覗い

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【私にも優しい人】

【私にも優しい人】

 雨は嫌い。でも、今日に限っては好都合。彼と相合傘ができるチャンスだから。
「入る?」
 下駄箱前。私の問いかけに驚いた彼は、少し、気まずそうに。
「それ、俺の傘だよな?」
 ……バレたか。黙って返し、立ち去ろうとすると。
「傘、無いんだろ?」
 そう言って頭上に傘を広げてくれた。
 これだから、もう。

【告白】

【告白】

 疫病対策でマスク必須の世の中。賛否両論だが私には好都合。コンプレックスを隠して恋愛できるから。しかし、ついに素顔を見せ合いたいと迫られた。きっともう終わりだろう。裂けた口元で、これでも綺麗と言えるのかとニヒルに笑う。
 あまりに驚いたのか彼の眼球が転がった。
 え?
「僕、実は義眼なんだ」

【おふくろの味】

【おふくろの味】

 おふくろの味。いわゆる母親の手料理だ。
 俺にとっては亡き父が一度だけ作った料理がそれにあたる。
 あの味をもう一度味わいたい。
 そのために料理学校へ通い、海外修行までした。
 そしていざ、再現を試みる。
 うーん、近いけどやはりおふくろの味ではない。
 同じ人肉でも、人によって多少は味が違うらしい。

【一日一卍】

【一日一卍】

 とある創作仲間から、一日一万字を書き続けると宣言された。これまで口ばかりだったが、やっと本気を出すらしい。応援したいと心から思った。彼のSNSを開くと、『卍』というひとことが投稿されていた。次の日も、その次の日も。そんな日々が続いたある日。俺はゆっくりと、ミュートボタンを押した。

【秘密】

【秘密】

「聞いてよ」
 いつものごとく彼女が話しかけてくる。
「『異世界エイリアン』の最新話でさあ」
 愛読するweb小説の話だ。こんな時代に小説なんて。まあ、個人的には嬉しいが。
「推しキャラが殺されたの。作者が目の前にいたらぶん殴ってやる!」
 言えない。つじつま合わせのために退場させた、だなんて。

100作目:虹のふもと

100作目:虹のふもと

 彼は知らなかった。虹には触れられないことを。
 ふもとには何もないことを。
 辿り着いたその地で、虹の代わりにこれまでの旅路を思い浮かべる。

 初めは一人だった。
 出会い、別れ、沢山の冒険をした。
 実体ある確かな記憶に、ふ、と微笑が浮かぶ。

 そして彼は再び歩き出す。
 その水晶体に、新しい虹を映して。

78作目:苦汁を飲む

78作目:苦汁を飲む

 不摂生がたたり体調を壊した。先日行ったギャンブルでは大負け、おまけに話を聞いた妻が不機嫌になり、機嫌を直してもらうための金も無い。「まったく、お前は本当に仕方がないヤツだ」腐れ縁の友人に何とかならないかとたかると。「お前はこれでも飲んどけ」と粉末を渡された。青汁の。「まずは健康」