マガジンのカバー画像

短編小説

487
これまでの作品。
運営しているクリエイター

2022年12月の記事一覧

64作目:良いお年を

64作目:良いお年を

 世は新年を迎える準備中。俺は待つのは嫌いだ。待ちの姿勢では人生楽しくない。だから行くんだ、進取の精神で発明したタイムマシンに乗って。

「あけましておめでとうございます」

 カレンダーを見ると2021年。おや、過去に戻っちまった。タイムマシンも壊れてる。はあ。待つのも大事ということか。

63作目:鏡の夜

63作目:鏡の夜

 翌日に外出を控えたある夜、窓を見ると自分が映っていた。
 鏡代わりにして表情を作ったり、髪型を整えたりしてみる。

 明日は大事な日だ。なんてったって、最近できた彼氏との最初のお出かけなのだから。

 窓に映る自分を前に、笑顔や、上目遣いや、あれやこれやと練習する。
 彼は私のことを気に入ってくれるだろうか?

 一抹の不安が表情に出たらしく、窓に映る自分の表情も物憂げなものになる。
 こんな顔

もっとみる
62作目:分かる夫

62作目:分かる夫

「くう、年末の生は最高だ!」
 口の周りに白い泡をつけた夫。
「我慢したかいがあったぜ」
 しばらく禁酒していたから喜びもひとしおらしい。
「俺のためにいいビール買ってくれたんだろ? 俺には分かるぞ!」
 夫の問いかけに無言の笑みで答える。
 健康維持のためにノンアルコールなのは、この際黙っておこう。

61作目:不具合

 Twitterの様子がおかしい。自分の投稿にいいねがまったく付かないのだ。表示回数も異様に少ないし、RTも全然。ふと画面右を見ると、「Twitter不具合」がトレンド入りしていた。同居人に話すとアカウントを見せて欲しいと言われ差し出す。

「あなたのアカウント、何にもおかしなとこ無いみたいだけど」

60作目:恐怖

 不思議なお店だった。個室なのに、四方はガラス張り。……かと一瞬思ったそれは、どうやら鏡だった。ガラスにしては、あまりにくっきりと自分の姿が映っていたのだ。

「いや、あの店、普通にガラス張りだよ?」

 後から友人に聞いてぞっとした。言われてみれば確かに、私があんなに不細工なはずはない。

59作目:なれそめ

「学祭に出るバンドの歌詞を書いて」
 と、好きな女子。
 なんとか仕上げると、陳腐でありがち、ひとつも面白くないと散々。
 ふざけんな、こちとらお前のために必死だったのに。
 いっそクソくらえとめちゃくちゃな歌詞を書いてやった。
 すると、最高にロックだと好評価。学祭も大成功、その子は彼女になった。

58作目:人気の実況者

 今日から冬休み。毎日ゲーム三昧。こたつでぬくぬく、最高だ。
 そんなことを呟くと、リスナーの一人がスパチャと一緒にコメントを残す。
「こたつでぬくぬく以外、いつもと変わらなくて草」
 まあ、その通りだ。ちなみに、今冬のお年玉は昨冬より多いことだろう。

57作目:変態観測/幼馴染詐欺

 午前二時、踏切へ望遠鏡を担いで行った。ラジオによると雨は降らないという。
「〇君?久しぶりに会いたいな」
 幼馴染からのメッセ。あの日の震える手を、今は握ってあげられる。期待を胸に約束の地へ。

「こんばんは」
 そこに現れたのはブリーフを被った上裸の男だった。予報外れの雨、頬を濡らしていく。

56作目:みんなやってる

「5万円入金アリ。残高確認はコチラ」
「当選しました!受け取りは下をクリック」
 みんなから毎日のように来るメール。うんざりだ。そんな金あったらこんなになるまで貧乏してないっつーの。ぶーたれつつ、文章を入力して送信。

「100万円が当選しました。まずは受取手数料5千円をお支払いください」

55作目:免罪符

 愛する人との子を流産してしまった。悲しいのは事実だが、私に泣く権利なんて無い。殺してしまったのは私だからだ。故意では無くとも私の責任だ。私の身体が弱いから。
「なあ、今夜はカレーにしよう」
 愛する人が、好物のカレーをせがむ。
「一緒に作るからさ。玉ねぎは任せたよ。……多めに切ってね」

54作目:裁き

 うちの父はとても仕事ができる。労働基準監督署にて、各企業の労働条件などを確認し、労働者を支える仕事だ。
「ご家族の方ですか?」
 ある日、父が倒れたとの電話。命に別状はないらしい。
 病室の父はなんとか元気そうだった。
「あなた、聞いたわよ」
 母が厳しい視線を父に向ける。
「過労だそうじゃない」

53作目:盗作

「これ、実は盗作なんだ」
 美術館に同行した祖父が言う。
「俺が昔描いた絵の、な」
 目の前の絵画は、自作をそっくりそのままトレースしたものなのだと。
「だったらなぜ、声をあげないんだ?」
 富も名声も、祖父のものだったはずなのに。
「実はな」
 ひそやかに祖父が言う。

「俺が描いたのも盗作だったんだ」

52作目:人の気持ちなんて、誰も。

【作者の気持ちを答えなさい】

 まさかこんなに楽勝な問題が出題されるとは。恥ずかしながら実は現代文が苦手なのだが、この問題だけは例外だ。

 後日、返却された解答用紙を見て俺は激怒した。
「先生、これ採点ミスでしょ?」
 抗議するも、教師は取り合わない。あり得ない、俺が書いた作品の出題なのに。

51作目:【誰かと一緒なら】

 イルミネーションなんて、ただの電球だろうに。はしゃぐカップルたちを、バス停から馬鹿みたいだと冷めた目で眺める。
「ねえお兄さん、バスまで時間あるっしょ?」
 突然、見知らぬギャルから声をかけられた。
「イルミネ、見にいこ?」
 彼女の指さした先、ただの電球が、美しい景色へと変貌を遂げていて。