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63作目:鏡の夜

 翌日に外出を控えたある夜、窓を見ると自分が映っていた。
 鏡代わりにして表情を作ったり、髪型を整えたりしてみる。

 明日は大事な日だ。なんてったって、最近できた彼氏との最初のお出かけなのだから。

 窓に映る自分を前に、笑顔や、上目遣いや、あれやこれやと練習する。
 彼は私のことを気に入ってくれるだろうか?

 一抹の不安が表情に出たらしく、窓に映る自分の表情も物憂げなものになる。
 こんな顔じゃ、いけない。
 少し自信を失いうつむいた。

 コン、コン。

 窓の方から音がして、驚いて顔をあげると。

 窓に映る「私」が満面の笑顔を浮かべていた。
 それから「私」は私の驚いた顔を見つめ、

 だ、い、じょ、う、ぶ。

 と声に出さずに口を動かした。

 私は呆れて妹の名前を呼ぶ。

「もう、びっくりさせないでよね!」

 私にうり二つな双子の妹。
 彼女と私の部屋はベランダでつながっているのだ。
 いたずらではあるが、おかげで勇気が出た。

「おねえちゃん、どうかしたの?」

 背後から私の部屋の扉を開ける音と共に、妹の声がして、
 あれ? と、扉の方を振り返る。

「あんた、今の今まで窓の向こうに……」

「何言っているのおねえちゃん」

 妹は本気で、私が何を言っているのか分からない様子だった。

「窓に映る自分の姿でも見てたんじゃないの?」

 そんなはずはない、と、改めて窓を見る。
 そこには紛れもない自分の顔がうっすらと映るばかりで、先ほどまでのはっきりとした光景は噓のように霧散していた。

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