テレビは「部屋の中心」から「体験の中心」へ
かつて、テレビはリビングのレイアウトの中心的な存在でした。しかし現在、テレビの存在感は従来の文脈と変化しつつあります。今回のライブ配信では、RoomClipに蓄積されたテレビにまつわるデータを読み解き、2021年7月にプレスリリースしたRoomClip 住文化研究所の調査レポートのご紹介とともに、レポートには掲載されなかった周辺の変化や注目のアイテムについてお届けします。(※本テキストは、2021年7月に実施されたライブ配信『「テレビ・プロジェクターの価値変化」おうちのテレビのポジションはどう変わった?』のダイジェスト版です)
・スピーカー:
ルームクリップ株式会社 住文化研究所 研究員 竹内優、水上淳史
●完全版テキストは文末のリンクからダウンロードいただけます●
「テレビ」が話題にされなくなった?
【竹内】「リビング」投稿に「テレビ」タグはどれくらい付けられていたか、2017年から2021年6月まで調査したグラフがこちらです。
2018年をピークに、リビングの写真を投稿する際に「テレビ」タグが使われることが減っています。
また、2016年から2018年にかけて、テレビ排除を意図するタグが登場しました。
【水上】一時期、ナチュラル風のインテリアが流行った頃、「テレビがインテリアに馴染まないから布をかけて隠している」という方をよく見ましたね。
【竹内】プロジェクターなど、テレビの役割を別の機器に置き換える動きもありました。
しかし「テレビ」に関するタグ付けが減ったとはいえ、実際、家庭からテレビが消えたのでしょうか? 疑問に思い、投稿された写真をさらに深層学習を使用した画像認識の結果から見てみることにしました。
こちらが2019年から2021年現時点までの画像の投稿水準の推移で、テレビが写っていると認識された写真の枚数を表したグラフです。結果はほぼ横ばい。つまり、「テレビ」タグを付けた投稿は減っていても、テレビ自体はリビングからなくなったわけではなかったのです。
代わりに、次の写真の例のように、テレビが写っている投稿には「グリーンのある暮らし」「子どもとの暮らし」などのタグが目立ち始めています。
つまり、SNSの話題がいわゆる映えと呼ばれるものから日常にシフトしている中、「リビング」の話題はそこでの暮らしが興味の中心となり、ただインテリアとして置かれるだけではテレビについて言及されなくなったのだと推察します。
大画面をよりうまく住まいに取り入れる。
壁掛けやプロジェクターが人気に
【竹内】暮らしの中でテレビの在り方はどう変わってきたのか。別の視点からも見てみます。
テレビの設置方法に関するタグTOP3のグラフをこちらにご用意しました。
2017年から2020年まで投稿数のトップ3は、1位「テレビボード」、2位「テレビ台」、3位「壁掛けテレビ」。これが過去は不動と考えられるものでした。しかし「壁掛けテレビ」の投稿数が緩やかに上昇を続け、2020年前後には月によって「テレビ台」を超えるケースも発生し始めました。
この背景に、壁掛けをDIYするためのアイテムや活用法などの投稿は、2015年頃から登場しています。
2020年前後にはお手本となる投稿がSNS上でかなり充実した結果、順位の逆転が起こり始めたということです。
【水上】賃貸でも使えるノウハウがたくさん紹介されて、汎用性がすごく高まったんですよね。
【竹内】現在はそこにコロナ禍によるステイホームも後押しした形ですね。
また、テレビ台がなくなると部屋が広く使えて掃除がしやすくなる、というような壁掛けのリアルなメリットも多く話題にされがちになりました。
大画面を省スペースで取り入れたい、というニーズも壁掛けに関心が集まる理由の1つでしょう。それに連動して、プロジェクター関連の投稿も上昇が続いています。
プロジェクターの投稿はテレビの投稿数に比べたらほんの数パーセントではありますが、伸びがすごいんです。2016年から比べると、全体で3.8倍、一人暮らしの方の投稿に絞ると5倍に増えています。
おひとりさまのおうち時間を充実させるアイテムとして非常に盛り上がっています。ライブ配信のコンサートを楽しんでいる投稿、プロジェクター周りのライティングも演出してゲームを遊んでいる投稿なども珍しくはありません。
テレビの話題は、「スペック」から「体験」へ
【竹内】そして押さえたいのが、テレビとの向き合い方への変化です。最近の投稿では、テレビで何を見ている/しているか、もしくは誰とテレビを見ているか、という話題が非常に増えています。
こちらは、2019年と2020年の「テレビ」を含むコメントに出現するキーワードTOP10です。
以前はスペックやブランド、置き方などの話題が中心だった中、楽しみ方、体験へと話題がシフトしつつあるんです。
インテリアとしてリビングの中心にあるだけのテレビではなく、体験の中心にあるテレビという視点に変わっていることが、データからも実感できます。
未来のリビングの姿を占う
シーリングライト型プロジェクター
【竹内】大画面のニーズに対して体験志向でもっと部屋が変わっていく、そのトレンド変化に連動するアイテムをご紹介します。シーリングライト型プロジェクターです。
マニアックな商品だと思っていたのですが、今このプロジェクターが刺さっている層は、いわゆるデジモノが好きな方だけでなく、お部屋をすっきりと演出したい方々にも届いているんです。
投稿内容も、単に「買いました」報告ではなく、導入によって変わった新たなライフスタイルが紹介されています。象徴的な変化だと思います。
設置方法の変化によって、関心はテレビ裏へ
【竹内】最後に、リリースしたレポートには入りきらなかった発見をご紹介します。
壁掛けニーズに連動して、テレビ設置アイテムにも動きがありました。テレビスタンドや壁掛け風のボードも投稿の上昇が続いています。
設置方法が変わることによって、テレビの裏側、つまり配線ですね、それから周辺機器のつなぎ方に対する関心も高まっています。
コロナ禍で導入が増えたゲーム機の配線をいかに見えないように収納するかは、特に関心事です。
メーカーさんもテレビ裏収納棚や壁掛けの穴を生かして使うグッズなどを色々と開発されているなど、新たなニーズをキャッチアップされています。