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グラフィックデザイナーになってよかった。

これからは、noteのプラットフォームでたまに文章を書いていこうと思っています。

ラフに文章を書いていこうと思うので、書籍のように推敲を重ねた形でリリースするつもりはありませんが、お気軽に読んでもらえれば幸いです。

自分は「アートディレクター」という肩書きを看板に掲げて仕事をしていますが、それはディレクション側の立場が多くなったことで、レイアウトなどのいわゆるデザイン作業、と呼ばれている活動の機会が減ったというのもあり、「グラフィックデザイナー」という肩書きに気後れしているからなのですが、やはり自分の根源はグラフィックデザインにあるのだとあらためて思っています。

グラフィックデザインという仕事を僕なりに定義すると、「対象をうまく抽象化し、要素どうしの関係性を構築すること」という結論にたどり着きました。このことについては、またの機会に詳しく書きたいと思いますが、このグラフィックデザインの能力というのは、大切に育てていくと、実に多くの領域で応用範囲があると思っています。

写真、イラストレーション、タイポグラフィー、パターン……。これら「デザインの要素」の良い部分を状況に応じて組み合わせていく職能は、そのまま人の能力をうまく繋いでいくことに通じています。つまり、アートディレクションの技能とは、姿を変えたグラフィックデザインの能力ということも言えると思います。

このことに気づくと俄然仕事が楽しくなってゆきます。美しい写真に綺麗なタイポグラフィを組み合わせるということも、それは快感ではあるのですが、その向こう側にグラフィックデザインの本当の楽しさは隠されています。クライアントが抱える、先方だけでは整理しきれなかった問題点を客観的に洗い出し、課題の本質を見極め(大事な部分を抜き取ることを「抽象化」と言います)、もともとクライアントが持っていた財産をつなぎ合わせ、新しい味付けも加えて、みんなが思ってもみなかった形で解決してみせる。これこそがグラフィックデザインの醍醐味だと思います。

もう一つ、この仕事の良さとして大事なことがあります。それは「量産性」を持っているということ。

その話のために、脱線させてください。幸せになる条件ってなんだとおもいますか?(いきなり宗教的な話になったけど引かないでくださいね。)

好きな人が自分のことを好きだったり、美味しいものを食べたり、お金がたくさん儲かったり、といろんなことが思い浮かぶと思うのですが、僕はその中でも、人に付加価値を与えること、そして与えた価値を自分も実感できることが強く幸せに繋がると思っています。

この付加価値の与え方として、僕は「お母さん型」と「アイドル型」という2つのかたちを考えてみました。

付加価値の総量を「一人に与えた価値の量」×「与えた人数」で求められると仮定してみます。

「お母さん型」は少数の人間に大量の価値を与えることです。ちょうど強い母性で子供に大きな価値を与え続けるお母さんのような存在です(お父さんももちろんですが、呼び方がキャッチーなのであえてこう呼ばせてください。)

「アイドル型」はたくさんの人間に少しずつの価値を与えることです。一人一人に対して、くまなく強い影響を与えることはできないですが、多くの人に小さな(人によっては大きな)幸せを少しずつ運ぶ仕事です。

人が働くこと。それは社会に対して付加価値を与え、その対価として報酬をもらうということです。そしてその量を実感することが精神的な満足につながります。その状況によって、与える価値がお母さん型なのか、アイドル型なのか、その中庸なのか、ということが変わっていきます。多くの人はある場面ではお母さん、ある場面ではアイドルとなり、自分が与える価値の総量を稼いでいくのです。

やっと話が戻ってきますが、グラフィックデザイナーという仕事は「量産性」という効果により、生み出した一つのデザインが、多くの人に価値を与えるという、この「アイドル型」の価値を生み出しやすい枠組みにあるといえます。

グラフィックデザイナー界隈では、zineやカードなどのプライベートプレスやリトルプレスが人気です。自分1人で仕切ることのできない大きなプロジェクトや、量産性の高い仕事に疲れたデザイナーがその反動として、手の匂いのするもの、アート性の高い少量生産のものを作ろうとするのでしょう。

もちろんそのような活動も楽しいのですが、「量産」の素晴らしさ、付加価値をたくさんの人に与えることの意義を、もう一度思い直し、自身の日々の仕事に誇りを持ってほしいなと思っています。

なんども修正が入るパンフレットやチラシ、理解の薄いクライアントからの理不尽なダメ出し、万人受けを狙うことへの疲弊など、デザイナーさんたちは試行錯誤や苦労の連続でものを作っています。なんども自分を曲げて作ったもの、自分が作ったと言いたくないものを、世に出さねばならないことも多くあると思います。

しかしその先に自分が納得できるものが一つでも生まれるなら。量産の効果によって、印刷した部数に比例して、あなたが作ったチラシやパンフレットを見て、買いたい、足を運びたいと思ってくれる人が生まれる可能性があるのです。

自分のつくりだした価値を、短い期間で大量に、毎日毎日こんなに届けられる仕事は、なかなかないと思います。

届く先を、与える価値を想像できることは、奇抜な造形を考えることよりも、カッコ良いフォントを版面に配置することよりもずっと楽しい、デザイナーに与えられた特権なのかなと思っています。

グラフィックデザイナーをもし目指そうとする人がいればぜひ、そのことを伝えたいといつも思っています。



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