生きるの、そんな上手じゃないみたい。
「なんで、そんなこともできないの」
「満点とれて当たり前って言ってるよね」
「家のことは人にペラペラ喋るな」
「あんな人と結婚せんかったら良かった」
全部、私が小さいころに、母が息をするように言っていたこと。
物心ついた時から、父は仕事で忙しく、ほとんど家にいなかった。
たまに帰ってきたと思えば、母と衝突して、巻き込まれる日も少なくなかった。
小さいころの私にとって、家庭は、指で少し押せば崩れそうなジェンガみたいなものだった。
でも、そう思いたくはなかった。
だから、「仲のいい家族」だと思い込もうとした。
母が怒らなかったら、癇癪を起さなかったら、家庭内での衝突は避けられる。
私は、いい子でいることを選んだ。
誰に言われるでもなく勉強をし、検定などの資格をどんどん取った。
プール、ピアノ、硬筆に将棋。学校が終わると、たくさんの習い事が待っていた。
毎年学級委員に選ばれて、児童会長もやった。
これ以上無いぐらい、頑張った。
ひたすらに、頑張った。
でも、母から褒めてもらえた記憶は、一度だってない。
私は、自分のことが心底嫌いだった。
***
私はただ、
テストで100点をとれば、褒めてほしかった。
日々の生活で不思議に思ったことを、一緒になって考えてほしかった。
日々の勉強とたくさんの習い事を頑張る私を、労ってほしかった。
周りの目や世間体じゃなくて、私の気持ちをもっと汲んでほしかった。
私の話を聴いてほしかった。
私を
見てほしかった。
だから、私は難病を自分の体に宿した。
自己否定が激しかった私が、自分のことを何とか肯定できたのは、
「難病という悲劇に襲われながらも頑張っている私」
という状態を手にすることが出来たからだった。
母も、私のことをちゃんと見てくれる。
やっと。
..............死ぬほど馬鹿だ。
でも当時は、気持ちの悪いことに、
難病になったショックよりも、どこから来ているのか分からない安堵を感じた。
***
年末に彼女に振られた。
三年近く、一緒に居たから、喪失感はものすごかった。
最初は、混乱して、色々な感情が頭の中をぐるぐると駆け巡った。
なんでこんなに苦しい時に、振られなきゃいけないんだ。
何をしても、別れる運命だったのだろうか。
自分のせいで、たくさん迷惑をかけてしまっていた。
すごくすごく申し訳ない。
でもお互い様じゃないか。
私だって、彼女が苦しい時には支えたし、精一杯のことはやった。
その恩は一体どこにいってしまったのか。
私以外の人間と恋愛をしたいっていうのは、どういう意味なんだ。
都合よく扱われているだけなんじゃないのか。
でも、今の自分にそれを止める権利はあるだろうか。
そもそも、彼女を幸せにすることが出来ていたのだろうか。
というより、彼女に本心からの愛情を持っていたのだろうか。
自分の心にぽっかり空いた穴を、都合よく埋めるだけの存在だったんじゃないのか。
自分のほうこそ、彼女を利用していただけなんじゃないのか。
共依存になっていただけじゃないのか。
今自分が抱いている苛立ちは、その甘え故のものなんじゃないのか。
情けない。
一緒に居たこの三年間は、一体なんだったんだ。
***
自分の非力さを、環境や他者のせいにするのは、気に入らなかった。
だから、自分の力で、自分の足で、生きていってやろうと、強く思っていた。
小さいころから、早くこんな家を出たい。
一人暮らしをしたい。
親の呪縛から解き放たれたい。
そう思っていた。
今は、親元を離れ、そして二人三脚で支え合ってきた彼女とも別れ、
誰にも干渉されない環境になった。
でも、死にそうになる日は多々ある。
外出自粛で、オンライン講義。
人との接触もグッと減り、このご時世で精神的に参っていない人の方が少ないのは言うまでもない。
「みんな頑張ってるじゃん」
「それは、ただの甘えでしょ」
そうなのか。
自分だけが上手くやれてないのだろうか。
親の呪縛を受けていた私は、
今度は「自分自身」からの呪縛を受けるようになってしまった。
何も生み出さない日々。
体調が安定しないから、中々外へ足が踏み出せない。
友達との約束をキャンセルせざるを得なくなってしまう。
バイトも行けない。
迷惑をかける。
もう用済みになるかもしれない。
見捨てられるかもしれない。
なら、一人でこもってたほうがいいや。
ラクだ。
俯瞰して書くと、またバカなことをやってんな、と思うけど、
その時の自分は、なかなかその思考のループから抜け出すのは難しい。
でも、誰かに支えてほしい。
助けてほしい。
すがりたい。
結局、自分の力だけで上手に生きていく技量なんてなかった。
そんなに、柔軟な人間じゃなかった。
思い知った。
悔しかった。
辛かった。
こんなことを考えていると、お腹が引き攣れるように痛む。
ダメだ。
***
自分のことさえ幸せにできない人間が、人を幸せにできるなんて、
思い上がりもいい加減にしろ。
人に気を回す前に、死ぬほど自分のことを気遣え。
どこまでいっても、自分のことが一番大切なんだから。
よき理解者で、ずっとそばにいてくれた彼女が、自分の隣から去って、
やっと目が覚めた。
ここから、自分の力で変わらないと。
ドラマみたいに、ヒーローが救い出してくれるわけじゃない。
突然、何かの能力を得るわけじゃない。
地道でひたむきな努力が必要。
頑張りたい。
いや、十年後に、
成長したと思える自分でいたい。
今、私はやっと「自分」というものに向き合って、日々過ごしている。
私の当面の目標は、過去のトラウマを癒し、毎日ニコニコと暮らすこと。
長い時間がかかるかもしれないが、ゆっくりと歩みを進めていこうと思う。
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