ron.204

ささやかな日常のスケッチ。

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  • わたしたちの結婚

  • 庶民な私の、買ってよかったもの

    少しの資源で生きていく庶民な私の買ってよかったもの備忘録。

最近の記事

わたしたちの結婚#29/私の形と温泉の魔法

旅館に戻ると、ご飯の時間まで余裕があったので、大浴場に行くことにした。 私は温泉がとても好きだ。 洗い場で、普段ないがしろにしがちな自分の身体をいつもより丁寧に洗う時間も好きだし、馬油やポーラといった、温泉でしか出会わないシャンプーで髪を洗うのも好きだ。 なにより、温泉独特の柔らかいお湯を全身で感じる瞬間や、広いお風呂に手足をうんと伸ばす心地よさがたまらない。 温泉からの眺めが良かったなら、それはもう天にも昇るようなご褒美である。 この日まで頑張ってきて良かった、な

    • わたしたちの結婚#28/温泉街と馴染んだ手

      レストランを出るとき、シェフのご夫婦が外までお見送りをしてくれた。 改めて美味しかったと告げると、シェフは、東京で修行をした後、この大自然の中でレストランを開いたというエピソードを教えてくれた。 東京で出会ったという奥様に、環境の変化に不安はなかったのかと聞くと、 「主人は言い出したら聞きませんから」 奥様は困ったように、けれど少し誇らしげに答えてくれた。 夫婦というのは運命共同体なのだな、とその時改めて感じた。 一方の大きな決断で、自分の過ごす環境が大きく変化す

      • わたしたちの結婚#27/ドライブ、そして大自然のレストラン

        何を着て行こう。 クローゼットを開けて、ふむ、と悩む。 これまでファッションに関心を寄せてこなかった私にとって、デートでの服装は毎回私を悩ませた。 「どうして暗い色の服ばかり着るの?」 明るい色の服を着て欲しいと指摘した夫の拗ねたような表情を思い出す。 黒、グレー、ネイビー。 これが私のワードローブで、肩が凝らないことと、仕事でも週末でも使いまわせる無難なデザインであることが条件だった。 試しに明るい色を着てみようと、ユニクロのワゴンセールで500円で買ったピンクの

        • わたしたちの結婚#26/夫の家族とご挨拶の延期

          今となっては、なかなかすごい時期だったな、と思うのだけど、その頃は都道府県を超えて移動することは控えた方がいい、というマナーが存在した。 不要不急の外出、とか、自粛、とか、そんな言葉が世間を席巻していた。 「というわけで、こちらの両親への挨拶はしばらく控えて欲しいそうなんだ」 水族館の帰り、夫は申し訳なさそうに私にそう言った。 夫の実家は遠方で、私も気にかけていた。 「そっか。それは仕方ないね。最近はWEBのテレビ電話で挨拶する人もいるみたいだよ。そういう形も考えた

        わたしたちの結婚#29/私の形と温泉の魔法

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          わたしたちの結婚#25/楽しい気持ちと空飛ぶイルカ

          恋人ができたら何がしたい? そんな憧れは、誰にでもひとつふたつあると思う。 私にとって、そのひとつが水族館だった。 素敵な彼と、水族館に行く。 あまりにもベタなデートで、少女漫画の主人公は大抵デートで水族館に行く。 けれど、集客力のあるコンテンツが何もない田舎で生まれ育った私の日常に、水族館はなかった。 だからこそ、憧れていた。 キラキラ光が反射する水を見上げて、のびのび泳ぐ魚を見る。 もちろん彼と手を繋いで、彼は魚を見つめる私を見て微笑むのだ。 彼女が可愛く

          わたしたちの結婚#25/楽しい気持ちと空飛ぶイルカ

          わたしたちの結婚#24/両親への挨拶とこぼれた涙

          1時間に1本、多くても2本しか電車が停まらない駅の閑散とした改札を通って、夫は現れた。 田舎に似つかないしゃれたジャケットを羽織り、ヨックモックの紙袋を下げている。 緊張したようすもなく、朗らかに片手を挙げて、私に到着を知らせた。 「電車で来たのは初めてだけど、なかなか味のある駅だね、君の地元は」 「変なところはないかな?とはいえ、着替えは持ってきていないけど」 夫は自身の身なりを確認してから私の顔を見た。 「大丈夫。今日はバラが綺麗に咲いているから。ふたりともご

          わたしたちの結婚#24/両親への挨拶とこぼれた涙

          わたしたちの結婚#23/庭のバラと育てる理由

          庭のバラが見頃だった。 母は満足そうに見つめた。 「どうしてバラを育てようと思ったの?もともとバラが好きだったの?」 私はこれまで不思議に思っていたことを聞いた。 我が家の庭は、それはそれは古めかしい和風の庭で、松や紅葉が主役だった。 その庭の真ん中に、たくさんの鉢植えでバラが丁寧に育てられている。 和風な庭にバラが調和しているとは、なかなか言い難かった。 「好きじゃなかったわ。バラなんて、育て方も知らなかったもの」 母はさらりと言った。 「じゃあどうして」

          わたしたちの結婚#23/庭のバラと育てる理由

          わたしたちの結婚#22/夫の部屋と旅の計画

          この日は特別な日だった。 とはいえ、この頃は特別な日だらけの週末を送っていたので、特別であることがある意味日常だったのだけれど。 そんな日々のなかでも、夫がはじめて家に招待してくれたこの日は、私にとってとても嬉しい日だった。 これまで踏み込んでいなかった部分の夫の一面を知ることが出来ると思うと、やっぱり嬉しかった。 * 夫の暮らす街には、大きな公園があった。せっかくなので、手を繋いで公園をぷらぷら歩いた。 お互いの仕事のことや、休みの取りやすさなんかを話した。

          わたしたちの結婚#22/夫の部屋と旅の計画

          わたしたちの結婚#21/故郷とバラの花

          忘れられないお誕生日会の後、夫は私を家まで送ってくれた。 私の家は、高速道路を飛ばしても2時間かかる場所にあった。 「いつも、こんなに遠いところから会いにきてくれてたの?」 夫は驚いていた。 洗練されたビルからどんどん離れ、田園風景をずんずん進んだ。 「この街で出会った人々の中で、君だけは流れる時間が違う気がしていたんだ」 夫はからかうように笑った。 「なに、田舎者っていいたいの」 私はわざとムキになったようなことを言った。 こんな風に気を許した会話が出来る

          わたしたちの結婚#21/故郷とバラの花

          わたしたちの結婚#20/プロポーズとティータイム

          白い大きなお皿に、一口サイズのサンドイッチ、パイ、タルトが乗っていた。どれも繊細で、食べてしまうのがもったいないくらいだった。 アフタヌーンティーのはずなのに、まず始めに白い大皿がサーブされたことに少し驚いた。 少し戸惑いながらも、サンドイッチに手を伸ばす。 そんな少しの驚きを楽しむように、直後に立派な3段のいかにもアフタヌーンティーというセットが運ばれてきた。 一口サイズのケーキが4種類、さらにスコーンにマフィン。幸せとトキメキを具現化したような存在がそこに並んでい

          わたしたちの結婚#20/プロポーズとティータイム

          わたしたちの結婚#19/プロポーズの日と待ち合わせ

          「今日はどこで結婚式なの?」 行きつけの美容師さんが聞いた。 友人の結婚式のたびに予約していたら、ヘアセットイコール結婚式だと覚えてくれたみたいだ。 私は少しはにかんで、 「今日は違うんです。今日は私がプロポーズしてもらう日なんです」 美容師さんは、目を丸くして驚いた表情をして、 「彼、彼女にそんな重要なネタバラシしちゃってて大丈夫なの?」 とケラケラ笑った。 「じゃあ、とびきり綺麗にしなくちゃ」 そう言い終わる頃には、美容師さんはすっかり職人の顔をしていた。 いつ

          わたしたちの結婚#19/プロポーズの日と待ち合わせ

          わたしたちの結婚#18/空色のワンピースと旅立ちの準備

          「どうしたの?お洋服たくさん出して」 洗濯物を部屋まで持ってきてくれた母が私に声を掛けた。 私は、次の週末にプロポーズしてもらうことと、その日に着ていく洋服を選んでいることを告げた。 気に入っているブラウスとスカートのセットで行くか、きれいめな紺のワンピースで行くかを迷っていた。 「鞄は?」 母は頷きながら聞いた。 「これか、これ」 学生時代から使い倒した革の鞄を見せた。 母は神妙な顔をした後、 「出掛ける準備をして。服を買いに行きましょう」 と母に似合わぬ強い口

          わたしたちの結婚#18/空色のワンピースと旅立ちの準備

          わたしたちの結婚#17/予定外のデート

          「たいへんだ!」 LINEを開くと、大きなクマの絵のスタンプがそう伝えた。 既読をつけるとすぐに電話がかかってきた。 「プロポーズの日に、婚約指輪が間に合わないらしいんだ」 夫はとても慌てた声でそう言った。 ルースから作る指輪は完成に3週間ほどかかるらしく、大型連休もあって通常より遅れているそうだった。 なくてもいい、と私は言ったけれど、夫はそういう訳にはいかないと頑なだった。 「だって、パカってしなくちゃ」 拗ねた子どもみたいに、そう言った。 「じゃあ、100

          わたしたちの結婚#17/予定外のデート

          わたしたちの結婚#16/アフタヌーンティーの練習

          「なるほど。これがティースタンド」 夫は神妙な面持ちで頷いた。 いかにも無骨な男子である夫とアフタヌーンティーセットのツーショットは、なかなかにちぐはぐしていた。 可愛らしいレース風のあしらいのペーパーナプキンや、ピンクのお皿が華やかに並ぶ。 「下から食べるみたいだね。ほら、サンドイッチ、スコーン、デザートの順番で食べていくんだ」 夫は得意げにウェブサイトで手に入れた情報を披露しながら、大きな手で華奢なサンドイッチをつまむと、パクりと一口で食べる。 「自分としては

          わたしたちの結婚#16/アフタヌーンティーの練習

          わたしたちの結婚#15/キラキラとその重み

          TSUTAYAでゼクシィを買った。 分厚くて、辞書みたいだ。 パラパラと開いてみる。 ほとんどが結婚式場の案内だった。 そんな中、お目当てのページを見つけ出す。 婚約指輪。 夫が、どんなのがいいか選んでおいて、と言ってくれたもの。 アクセサリーをほとんどつけない私にとって、未知の世界だった。 定番の一粒ダイヤのもの、小粒のダイヤが散りばめられたエタニティリング、リングに飾りがあしらわれたもの、、、婚約指輪と一言で言っても、多様なデザインがあるようだった。 先に結婚

          わたしたちの結婚#15/キラキラとその重み

          わたしたちの結婚#14/仲人さんとのお茶会

          「で、本当にこの人でいいのね」 喫茶店で向き合って座ると、彼女は真剣な眼差しでは私に確認した。 彼女はベレー帽がよく似合う、可愛らしいおばあさんで、夫の仲人さんだった。 私が頷くと、隣に座った夫は嬉しそうに微笑んだ。 「まったく。すっかり締まりのない顔をするようになったんだから」 言葉とは裏腹に、仲人さんは嬉しそうだった。 夫の登録していた結婚相談所はとても古風なところで、専任の仲人さんがお見合いについてきてくれたり、喫茶店で直接相談できたりするらしい。 夫は婚

          わたしたちの結婚#14/仲人さんとのお茶会