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カタカナ英語と発音矯正|ロベルジュ教授の視点 ☞ Verbo-tonalという解決法

子供でも大人でも、英語を話そうとすると、どうもそれが英語に聞こえなくて、どちらかというと日本語のように聞こえてしまうケースが時々あります。カタカナ英語の問題です。

Drawn by S. Tani

カタカナ英語の一番の問題は、どれだけ文法が正しくてステキな単語を使っても、相手がそれを英語として聴き取れず「通じにくい」こと。英語は人とやりとりするために使うもの。通じなければ困ってしまいます。

2013年、上智大学で言語学の名誉教授であった今は亡きロベルジュ教授を囲んだ「こどもへの英語の教え方」をテーマにした勉強会には、よりよい英語の教え方を求めて英語の指導者たちが集まっていましたが、そこでも「英語らしさ」の足りない、まるで日本語のようなカタカナ英語を発する生徒に悩む声がありました。(☟ロベ先生=ロベルジュ教授。「星の王子さま」を手がけた翻訳家の河野万里子さんも著者のおひとりです。)

小峰書店
絵:marini*monteany

ロベルジュ教授もまた、若き頃、上智大学でフランス語を教え始めた時に、フランス語学科の学生が話すフランス語が全くフランス語に聴こえず、日本語独特の音とリズムで話してしまっているため「聴き取りにくい」という問題に直面したそうです。

カタカナ英語。カタカナフランス語。何語であっても、まるで日本語のような音と話し方になってしまう現象があちらこちらで見受けられるようです。

学生の語彙、文法、読み書きは満足できるレベルなのに、その学生達が話すフランス語が全く釣り合っていないことに、教授は「どうしたものか・・・」と頭を抱えました。それから、この問題の解決策を探しにヨーロッパへ旅立ち、さまざまな国で研究を重ね、クロアチア・ザグレブ大学でやっと「これだ」と心を動かされるGuberina教授のVerbo-Tonal法に巡り合ったそうです。(Petar Guberina, 1913-2005)

Verbo-Tonal Method

まずGuberina教授は、人は聞こえる音しか発することができない、としました。日本語にない音は、日本人にとって大変聴こえにくく、真似して発することも難しい。外国語を耳にすると、どうしても母語にある音に置き換えてしまう傾向があり、日本人であれば日本語で聴き慣れている音に置き換えてしまう。これはごく自然な現象であると捉えています。

同じ英語でも、例えば母語がスペイン語の方の英語と日本語の方の英語を比べると、それぞれが聴こえる音/発することができる音が違い、加えて母語特有の音やリズムも違い、それらが「訛り」として表れます。体に染み込んでいる母語の音や調子にひっぱられてしまい、英語特有の音や調子がなかなか聴こえず、発することも難しいのです。

この「訛り」はごく自然な現象なのですが、訛りが強すぎると通じにくくなり、意思疎通に問題が生じてしまいます。それではせっかくの英語学習が実りません。

この「なかなか聴こえない」「なかなか発せない」音と調子を身につけるには、それらしくその音を発する練習をしていかなければなりません。発することができれば聴こえてくる。そして聴こえてくれば発することができるようになるからです。

では、どうすればそれらしい音と調子で発する練習ができるのか?Guberina教授は、指導者が手や体の動作を使ってその言葉のリズム・イントネーション・長さ・高さなどをうまく捉えて、その動作によって学習者がより自然な流れで話せるよう補助する方法をすすめました。指揮者のイメージに少し似ています。

文字でも発音記号でもフォニックスでもなく、耳で聴き、指導者の動作を見ながら、またその動作を自身が真似しながら、聴き慣れない外国語のリズムとイントネーションを再現していくのです。

リズムとイントネーションで発音を補う

さっぱり理解できない外国語を耳にしたとき、人はまずイントネーションから意味を汲み取ろうとするそうです。そのため、Verbo-Tonal法は話し言葉の中にあるイントネーションとリズム(難しい言葉でいうProsody)に注目します。リズムとイントネーションを真似ながら音も体得していくことを何よりも優先させます。

外国語を聴き取り、相手に理解してもらえる話し方ができるようになるには、部分的な発音を矯正するよりも、話し言葉の中にあるリズムとイントネーションを体得する練習を繰り返して矯正する方が、効率的かつ効果的としています。

それは、口の形をこうして・・、舌はこうで・・・発音記号は・・・、というお馴染みの個々の音を部分的に矯正していく方法ではなく、話し言葉の文の中にある特有のリズムや音の高低・長さ・やふくらみを動作で捉えながら、全体を整えていく方法です。英語らしいリズムとイントネーションを体得することで、個々の発音も補うことが狙いです。

図はChiik!から拝借しました。
これは英語の音に慣れていないとなかなか難しい。

そもそも、このVerbo-Tonal法は、聴力に深刻な問題がある子供が、聴力を可能な限り取り戻し、できる限り自然で通じやすい話し言葉を身につけるための療法として研究されていました。この「聴こえない問題」への取り組みが、外国語の学習者の「外国語の音が聴こえない」問題と共通すると考えたのです。

地続きなのに国も言語も違うヨーロッパ大陸では、仕事や教育において語学が非常に大切なスキルになります。ちゃんと通じる実用性のあるものを効率よく身につけることが重要視されます。Verbo-Tonal法は、そのような背景を持つヨーロッパを中心に外国語学習にも応用されるようになりました。Guberina教授がザグレブ大学のフランス語教授であったこともあり、フランス語指導でVerbo-Tonal法を目にするのは、そのためかもしれません。

地続き・多言語

フランス語教室でのVerbo-Tonal法の実践例

こちらのYouTubeでは、実際にフランス語の教室でVerbo-Tonal法によるリズムとイントネーション矯正を施している様子を見ることができます。A1後半からA2の生徒のようです。

ここではフランス語指導をしていますが、Verbo-Tonal法はどんな言語にも応用できる手法で、耳で聴き、指導者が手や指の動作でリズムとイントネーションを捉える様子を見て、時にはその動作を真似しながら体得してきます。日本に暮らす外国人向けの日本語講座でも、この手法が活用されている例があります。

英語でも、学び始めたらできるだけ早い段階から、耳で聴き、英語らしい音とリズムとイントネーションを捉えながら、読み上げるときも話すときもそれらしく発する取り組みをロベルジュ教授は勧めていました。これが長い時間をかけて学ぶ英語の学習効率を上げ、実らせるための大事な基盤となるのです。

英語らしく話すためのリズムトレーニング

英語らしく話すリズムを体得するために、ロベルジュ教授は最も手軽にできるトレーニングとして、Nursery Rhymeの暗唱 を勧めていました。

実際に教授は、上智大学でフランス語を学び始めた学生に、フランス語のナーサリーライム「Bibilolo」を音の強さや長さに合わせた手の動作とともに暗唱するトレーニングをみっちりと施しました。最初の2ヶ月をフランス語の音とリズムを「体で覚える」ことに費やしたのです。

詩が韻を踏んでいるNursery Rhymeは、英語圏で何百年と口伝えで伝承されてきているので、リズムがあり、覚えやすく、口ずさみやすいのが特徴です。教授は、メロディーにのせた歌ではなく、暗唱 を繰り返していく中で「英語らしい話すリズム」を身に付ける練習法をイチオシしていました。母語のカタカナリズムに乗っ取られずに、聴き取りやすい英語で話すための基礎作りです。

こちらが、今すぐ取り入れられるNursery Rhymeの例です。文字を読み上げるのではなく、先生がきるだけ手や指でリズムを捉えながらお手本を示し、それを聴いて真似して唱えます。いかに英語らしく再現して暗唱できるか、そこがポイントです。

子供も大人もまずは話し言葉から

ロベルジュ教授の語学の合言葉は、外国語を学ぶ時は「まずは話し言葉から」。例えばフォニックスは初級英語にもってこいな印象を受けますが、よくよく考えてみれば、英語の音に聞き慣れているからこそ、音と文字の法則がスッと入るのです。

まずは聴いて、話し言葉のリズムとイントネーションを感じ取り、再現していく。フォニックスや読み書きはその先と、この点はロベルジュ教授は決して譲りませんでした。

所感

ベルギーに引っ越してきてフランス語をゼロから学ぶにあたり「通ってみたいな♡」と憧れた(けれど高いし子供はいるしで通えなかった)合宿型イマージョン語学プログラムを提供している CERAN という教育施設。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語など、様々な外国語を教えているのですが、ここでも「話すこと」と「Verbo-Tonal法」を全ての指導の軸にしていることがわかりました。

語学に強いと言われているヨーロッパでロベルジュ教授が絶大な信頼を寄せていたVerbo-Tonal法が実際に使われていることを知り、心が踊りました。日本ではほとんど使われていない指導法ですから。

CERAN Language Centre, Belgium

こどもに英語を教える時には、あの手この手で英語らしいリズムとイントネーションを感じ取る機会をつくってみる。カタカナ英語で自信が持てない学習者にも、このような方法で「英語らしい」流れで話す練習を取り入れてみる。

大人も子供も、それらしく英語を話せるととても気持ちがよく、やる気もあがります。この充実感や英語に近づいていく感覚をこどもたちに感じてもらいたい。本質を見つめてきたGuberina教授の理論やロベルジュ教授の指導が、近い未来、日本にも広まればな〜と思います。

おまけの一枚:今夜はコロッケ25個 。どんどん揚がるわよ〜✌︎('ω')✌︎


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