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『職業遍歴』30以上の職業を経験した氷河期世代の私が今思うこと

今の若い人は、「就職氷河期世代」という言葉を知らないそうです。知らない人のために念のために書くと、就職氷河期世代とは、バブル崩壊で経済的に不況となり、就職困難な時期に就職活動をせざるを得なかった世代で、現在40代後半の人がこれに当たります。

私がまさにその世代です。私は編集やライターを生業としていますが、正規の職業に就くことができず、現在も非正規で働き続けています。無職が続いたころ、ふとこれまで経験した仕事の数々を書き残しておこうと思い、『職業遍歴』というマガジンをはじめました。このマガジンは、前半が学生時代に経験した変わったバイト、後半は社会人になってからの仕事の話で構成されています。全65本と長いマガジンですが、もしご興味がありましたらぜひ読んでみてください。

今回は、30以上もの職業を転々とすることになった私が今仕事について思うことを書きます。

何も考えていなかった20代のころ

私は1999年に大学を卒業しました。一応就職活動はしましたが、氷河期で全滅。運よくバイトしていた中小企業に就職ができましたが、若気の至りで2年でその会社を辞めてしまいました。

2年で辞めてしまった会社は、今思うと待遇もよく、申し分ない会社でした。しかし、それは40代後半になってさんざん仕事で苦労してきたからわかること。20代だったころは、「もっとおもしろくて自分に合った仕事があるはず」なんて思い、次の職場が決まる前に会社を辞めてしまいました。愚かだったと思います。

しかし、次の職場はなかなか決まりませんでした。世の中は不景気で、厳しかったのです。就職することができなかった私は、派遣やバイトで食いつなぎました。でも、このとき私は本気で就活をしたわけではありませんでした。20代の私は怠惰でやる気がなく、将来のことなんて考えていませんでした。この20代のときにもっとがんばって就活して正社員になっていたら、今こんなに苦労をしていなかったかもしれません。私は甘かった。でも、どっちみち氷河期でしたから、がんばったところで就職できなかったのかもしれません。考えても仕方のないことです。

29歳のとき、正社員の仕事が決まりました。好きな媒体でのやりがいのある仕事でした。私は仕事にのめりこみました。今までの人生で「好きな仕事を思いきりやった」と実感できたのはこのときだけです。

しかしこの会社はとても小さな会社でした。やりがいのある好きな仕事だったので、給料が少ないことは気にならなかったのですが、結局会社の経営が傾いてしまい、辞めざるを得なくなりました。辞めたあともしばらくフリーライターとしてその会社で働いていましたが、原稿料だけでは食べていけません。結局また派遣に戻るしかありませんでした。私はいつの間にか35歳になっていました。

派遣という地獄

派遣は地獄です。一度派遣になったらなかなか抜けられません。若いうちはまだ選べます。若い人には派遣ではなく正社員になることを強く勧めます。

派遣と正社員では、待遇がまるで違います。派遣は時給。ボーナスも出ません。昇給もありません。キャリアアップなんて夢のまた夢です。派遣は職歴にもなりません。そして最大の問題は、一度派遣になると正社員になることが困難という点です。

日本はいまだに新卒一括採用です。中途採用も多いですが、それは正社員から別の会社の正社員になるというケースです。派遣から正社員になるのはハードルが高いのです。

それでも私は、なんとか派遣のループから抜け出そうと、38歳のときにある会社の契約社員になりました。そこは8割以上の正社員登用実績がありましたから、いずれ正社員になるつもりで入社しました。もちろん、契約社員であってもボーナスは出ますので、これまでの派遣の待遇と比べたら格段によかったのです。

ところが、運の悪いことに、その会社はとんでもないブラック企業でした。長時間労働、パワハラとあらゆる困難が押し寄せ、私は体調を崩して1年で会社を辞めました。

そして結局また派遣に戻りました。それでも私はまだ正社員への希望を捨てていませんでした。私は「紹介予定派遣」の案件を見つけ、そこに職を得ることができました。しかし、ここでは結局正社員にはなれず、わずか半年で派遣契約を切られました。今思い出しても腹が立ちます。

派遣社員の地獄。それはなんといっても「簡単に切られてしまう」ことです。派遣は通常、3ヶ月契約です。企業の方針が変わってその契約を更新しなくても、企業はなんらお咎めなしです。

私は実際、何度も「派遣雇い止め」に遭いました。こちらの落ち度は一切ありません。会社の方針が変わってポジションがなくなった、新たに正社員を入れることにした、など会社にとって都合のいい理由ばかりでした。どんなに仕事を熱心にしたところで、派遣は切られるときはいともあっさりと切られます。

正社員はこんなに簡単に切られるなんてことはありません。正社員は本当に守られています。私は喉から手が出るほど正社員になりたいです。しかし40代後半の私は、もう正社員にはなれません。もし40代後半の私を正社員で採用してくれる会社があったとしても、そこはブラックでしょう。

仕事が決まらない地獄

40代後半になっても派遣の仕事を転々としている私。断っておきますが、好きで転々としているわけではありません。前述したように派遣はすぐに切られますから、こちらは長期で働くつもりでも派遣先の都合で短期間で切られることはよくあることなのです。仮に長期で働けたとしても、派遣は3年経つと契約期間満了となり、その職場を辞めなければなりません。この「3年ルール」はまことに不思議で腹立たしいものですが、法律で決まっているのです。

今年の3月に、2年勤めた派遣先を雇用止めになりました。会社の方針が変わってポジションがなくなったという理由でした。

そこで私はまた仕事を探さなければならなくなりました。私は複数の派遣会社に登録していますから、それらの派遣会社のHPを見て求人を検索し、毎日何10件もエントリーしました。

エントリーすると、まず派遣会社の担当がこの人を社内選考に進めるかどうかを決めます。ほとんどはこの時点で社内選考に進めず、落とされます。10件エントリーして、社内選考に進めるのは1件あるかないかです。エントリーしてもエントリーしても、社内選考にすら進めず落とされるだけ。かなり辛いです。その原因は、私の年齢や職歴の多さによるものだと思います。若い人なら、もっと簡単に社内選考に進めたりするのでしょう。

社内選考に進むと、ほかの候補者と比べられ、誰を推薦するかを派遣会社が決めます。一案件で一人しか推薦できないので、派遣会社も慎重になります。その後、派遣先が書類選考して、それに通れば面談となります。

面談まで進むのは、私は滅多にありませんでした。100件エントリーして1件面談に進むか進まないか、というくらいの確率でした。多くは社内選考にも進まずに落とされますし、社内選考に進んでもそこで落とされます。ですから、面談まで進んだとなるともう採用まであと一歩というところなのです。

しかし、面談で落とされることもまた多いのです。本来、派遣の面接は禁じられています。それなのに「顔合わせ」「職場見学」と称して面接が行われています。派遣先は、複数の派遣会社とやりとりして、それぞれの派遣会社が候補として推薦している人たちを面接します。その中から一番いい候補者を選ぶのです。

私は3社、面談で落とされました。面談はうまくいったのに上の人の意見で落とされたり、業務内容とスキルが合わないと判断されたり。それはご縁ですから仕方がないですが、面談まで進んだのに落とされるとかなり凹みます。

4社目でやっと採用が決まりました。仕事が決まったことよりも、もう辛い就活をしなくていい、ということがうれしかったです。

7月中旬から新しい派遣先での仕事がスタートします。そこがどんな職場なのかは、入ってみないとわかりません。

派遣の場合、最初に1〜2ヶ月の「トライアル期間」があります。初回契約が1〜2ヶ月で、その間たとえば勤怠がよくないとか、スキルが足りないとか、派遣先にとって都合の良くないことがあれば、即切られます。私自身はトライアルで切られたことはありませんが、実際に何人も切られた人を目の当たりにしています。

新しい職場をトライアルで切られることのないよう、がんばらなければなりません。

40代後半になった今思うこと

先日、大学の同級生と会って話しました。皆が口を揃えて「大学のときにもっと勉強しておけばよかった」と言います。

考えてみれば大学時代とはなんと贅沢だったのでしょう。各分野のスペシャリストである教授の授業が受けられ、心ゆくまで学べ、そしてお金は全部親が出してくれます。「どうぞ勉強してください」とお膳立てされた環境でした。でも、若いころにはその価値がわかりませんでした。

たらればには意味がありませんが、たとえば大学時代に語学を習得したり、資格を取るなどして、一生食べるのに困らないような対策をしておけばよかったな、とよく思います。

しかし、私はそんな対策をとることなく、仕事も派遣を転々としてキャリアも身に付けずにただただ歳をとってしまいました。

「◯◯でキャリアアップしよう」「リスキリングして〜〜」という文言を目にしても、他人事に思えます。キャリアアップもリスキリングも、正社員のためのものです。

でも、40代後半であってもがんばれば正社員になったり資格を取って就職したりできるんじゃないか?という声もありそうですね。確かに確率はゼロではありません。が、限りなく低いです。そのために時間やお金を費やしても、回収できる見込みが低いのです。私はそうまでして今から努力をしたくありません。

もちろん、派遣であっても、新たなことを学ぶことは必要です。ITは日々進化していますし、派遣は都度新しい職場に行かなければなりませんから、その職場なりのやり方を学ぶ必要が出てきます。

正社員であれば、転職したとしても、数社でしょう。しかし派遣は十何社となります。新しい職場に行って新しいシステムを覚え、環境に馴染み、人間関係を構築し・・・ということを、10回以上も繰り返しているのです。

私の今の望み。それは、できるだけ一つの派遣先で長く働くことです。最大3年。そして3年が明けたら、あまり時間がかからずに次の仕事が見つかって、そこでも3年。そこが終わったらまたすぐ次が見つかって、さらに3年。それが私の望みです。一体私は死ぬまでにあと何度、このスパイラルを繰り返すのだろうか?

けど、私の本当の望みは、正社員になって、定年まで同じ会社で働くことです。正社員であることを当たり前としている人、「ボーナスが少ない」なんて文句を言うことのできる人が本当に羨ましいです。

仕事とはなにか

仕事に対する考え方も、若いころからはずいぶん変わってきました。若いころは「やりがい」を求めていました。自分がおもしろいと思える仕事がしたい、と考えていました。

けれど、今は違います。もちろん、おもしろい仕事であればいいなとは思います。しかし、仕事とはそもそもおもしろくないものです。おもしろくなくても、目の前にある作業をやり続けて終わらせる。これが仕事です。そうです。仕事とは「終わらせること」なのです。

私は派遣で働いていますから、社員として働いている人の感覚とはだいぶ違うと思います。派遣は時給なので、とにかく時間いっぱいは働く。仕事を終わらせようとする。そしてその日の分の仕事が終わったら、タイムシートを記入して、仕事を上がる。これを一週間、一ヶ月、一年という単位で繰り返す。繰り返したところで昇給もなにもありませんから、本当にただの繰り返しなわけです。

とにかく時給をもらっている間は働く。残業は基本しない。手を抜けるところはできるだけ手を抜き、効率のいいやり方を考える。どんな仕事であっても、やってみるとその仕事なりのおもしろさが必ずあります。それを見出し、時間内はできるだけ集中して楽しく仕事をするようにする。そして仕事を上がったら、もう仕事のことは考えない。

仕事は人生において不可欠なものです。それは言うまでもなくまずお金のためです。仕事をすることで生活するためのお金がもらえます。仕事をしなければお金はもらえませんから、どんな仕事であってもやらなければならないのです。

私にとって仕事はお金。それ以上でも以下でもありません。ですので、仕事を探すときは条件で案件を選びます。仕事内容なんて正直どうでもいいです。自分の経験内でできそうな仕事であれば、なんだっていいというのが本音です。とはいえ、やるからには一生懸命やります。一生懸命やらないと、簡単に切られますので。お金のために一生懸命働いています。

そしてもう一つ。仕事をすることで社会と接点を持ち、人と出会うことができます。お金より大事なのはこちらかもしれません。たとえば、もし私が不労所得で食べられる身だとしたら、仕事をしなくなるか?答えはノーです。毎日会社に行くような仕事はしないかもしれませんが、なにかしらの仕事はしようとするでしょう。

私はこれまでバイトを含めて30以上の仕事を経験しました。嫌なこともたくさんありましたが、いろいろなことを経験し、さまざまな人に出会いました。改めて振り返ってみると、そんなに悲観するほど悪くはなかったな、と思います。お金は全然稼げていないし、社会で通用するスキルも身につけられていないけれど、自分なりの経験を積むことができました。この「自分なりの経験」というものが、これからの不透明な社会を生き抜く上で、案外大切になったりするのかもしれません。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。もし私と同じ氷河期世代の方がいらっしゃったら、お互いにがんばりましょう!と言いたいです。そして若い方々も、年配の方々も、みなさんがんばりましょう。日本は貧しくなったと言われています。けれども多くの人は日本で生きて死んでいかなければなりません。生きていくためには、まずは目の前にある仕事を「終わらせる」ことから。人生の喜びも楽しみも、日々の仕事の先にあるのです。


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