第59話 母:ちゃちゅちょ
これはボクが小学1年生のときの話。
季節は秋に差し掛かった頃だろうか?
そんなときにボクは出会った。
「ちゃちゅちょ」に。
こういうのを拗音ようおんと言うらしい。
今、初めて知った。
ボクはこの拗音に苦戦した。
確か初めてこの拗音とご対面したのは、金曜日だったと思う。
学校の授業だけではボクは読めるようになれなかった。
その日は、拗音が含まれた文章の音読の宿題が出された。
ボクはその宿題を土曜日に昼間に取り組んだ。
「あれ?これなんて読むんだっけ?」
文章はちっとも易しくなかった。
なぜなら「ちゃちゅちょ」だけじゃなく、「きゃきゅきょ」や「しゃしゅしょ」の拗音も出てきたのだから…
見慣れた平仮名なのに、小さい文字とセットになっていると、小学生1ボクにとっては全く別の文字に見えた。
ボクは音読を聞いてもらっている母に何度も何度も聞いた。
「お母さん、これ何って読むの?」
でも聞いたことはすぐにどこかへ行ってしまった。
「あれ~?これさっき読んだのに…」
もう負のループだった。
特に「にゃ」とか「ひゅ」とか五十音順で後になるほど、ボクは読めない傾向にあった。
「どうしよう?どうやったら読めるようになるんだろう?」
みんな笑っちゃうかもしれないが、ボクは割かし本気で悩んていた。
もちろん「チョコレート」とか「きゅうきゅうしゃ」の存在は知っている。
でも文字を目の前にすると、読むことができなかった。
そんな悩んでいるボクに助け船を出してくれたのが、母だった。
「じゃあさ、「ち」と「や」を交互に言ってごらん」
これがボクの悩みを一気に解決してくれた。
「えっ?「ち」と「や」?」
言われた通り、ボクは「ち」と「や」を交互に呟いた。
「ちやちやちやちやちやちや……」
そしてボクは大きく目を見開く。
「すごい!!…「ちゃ」だ!!」
ボクは母に尊敬の眼差しを向けていた。
そのくらいボクは本当に感動していたのだ。
「このやり方さえ覚えれば、もう怖いもの無しじゃん!!」
ボクは無敵になった。
週明けの学校は意気揚々と通うことができた。
「ボク、どんなのが来てもへっちゃらだぜ!!」
心の中でそう呟いていた。
まぁ、みんなに悟られないように、高速で「ち」と「や」を呟いていたんだけどね(笑)
それでも苦手意識が取れたことはとてもありがたかった。
母上様々であった。
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