第54話 兄:元気でね、リザードン
ボクが小学生の頃、ゲームボーイでポケットモンスター赤・緑が発売された。
今も人気だが、当時も人気だった。
みんなポケモンに熱中していた。
ちなみにボクはというと、あまりポケモンに縁が無かった。
なぜなら、ゲームボーイを持っていなかったからだ。
欲しいと思ったことはあるが、ゲームボーイを買うくらいなら他のゲーム機を買ってもらった方がいいと諦めていた。
そこから月日が流れ、ボクは中学生3年生になる。
ゲーム好きなのは相変わらず変わらないが、好きな女の子のことも気になる思春期真っただ中だった。
ちゃんと青春していた。
そんなある日、ボクは友達から
「ゲームボーイの本体あげるよ。俺、ゲームボーイポケットあるから」
といきなりゲームボーイをもらえることになった。
非常にラッキーだった。
ボクはラッキーついでに友達に頼んだ。
「じゃあ悪いんだけど、ついでになんかゲーム貸してくれない?当たり前だけど、何にもないからさ」
「あぁ、いいよ。じゃあポケモン貸してあげるよ」
とポケモン・赤を貸してもらえた。
そんなわけでボクはポケモンをやり始めた。
最初、ポケモン御三家から一体のポケモンを選ぶのだが、ボクはヒトカゲを選んだ。
これを選んだ理由は、このヒトカゲがゲームのパッケージであるリザードンに進化することを知っていたからだ。
しかし、このヒトカゲを選んだことに対して、友達にバカにされることになった。
「お前、ポケモン何選んだの?」
「えっ?とりあえずヒトカゲ選んだ」
「バカだ~、こいつ!!」
と指をさされて一斉に笑われた。
何なら一度もしゃべったことのない奴にまで笑われた。
ボクはテンパる。
「えっえっ?どういうこと?」
「今に分かる。苦労するから」
と言って教えてくれなかった。
でもその理由はすぐに分かった。
ゲーム序盤でカスミという水ポケモンを得意とするジムトレーナーがヒトカゲと相性最悪なのだ。
加えてゲーム序盤のため、まだそんなに多くのポケモンが登場しない。
そのため、カスミがめちゃくちゃ強かったのだ。
みんなはこのことを知っていたためにボクのことをバカにしたのだ。
しかし、ボクは諦めなかった。
みんなから笑われようが、カスミにボコボコにされようが、ボクはヒトカゲと共に戦った。
いつしかヒトカゲはリザードとなり、そしてついにはリザードンにまで進化した。
「リザードン、俺はお前を選んでよかったよ」
リザードンはボクの相棒だった。
しかし、ボクは中学3年生。受験という言葉が頭にちらつく。
別に頭が良かったわけではないが、やはりゲームばかりしているわけにはいかなかった。
自然とポケモンはお休みしてしまった。
そして、月日はさらに流れ、ボクは高校生になる。
この頃はもうポケモン赤・緑の後継機となるポケモン金・銀がすでに発売されていた。
兄はそのポケモン金・銀に手を出したのだ。
今までポケモンの「ポ」の字も口から出たことがなかったのに…
これはバイト先の連中がゲームにハマり出した影響を受けたためだ。(第51話参照)
そしてある日、夕飯を食べていたときに兄がボクに聞いてきた。
「そういやぁ、おめぇってさぁ、ポケモン・赤やってなかったっけ?」
「えっ?あぁ、やってたねぇ」
「それまだある?」
「うん、あるよ。持ってるよ。リザードンとかいるよ」
「リザードン?くれよ、それ!!」
「えっ?」
夕飯を食べ終わり、兄はボクのポケモン・赤を奪っていた。
ちなみにボクの名誉のために言っておくが、このポケモン・赤は友達から正式にもらったものである。借りパクではない(笑)
数日後、ボクの手元にポケモン・赤が帰ってきた。
ボクは一応、ゲームボーイを起動させて中身を確認してみた。
そしたら………あぁ、リザードンがいない(笑)
他にも数匹、強いと思われるポケモンが我が手元から飛び立っていた。
ここで完全にボクのポケモンへの愛が摘み取られた。
まぁそこまでなかったと言えばなかったのだが、それでもやっぱり寂しかった。
もう一度、ゲームボーイを起動させて頑張ろうという気にはならなかった。
リザードン。
クソバカ兄はどうだい?
君はちゃんと世話をしてもらえているだろうか?
君はちゃんとご飯を食べさせてもらえているだろうか?
君はちゃんと傷ついたらきずぐすりを使ってもらえているだろうか?
お父さんは君のことが心配です…
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